ここ数年、新人の入門&デビューが相次ぎグッと選手層が厚くなった東京女子プロレス。若手戦線が盛りあがれば団体全体が活性化し、会場も第1試合から盛りあがる。
来年3月の両国国技館大会に向けて、非常にいいムードになってきている。

【写真】地元凱旋を前に馳浩・石川県知事を表敬訪問した高見汐珠【4点】

 そんな期待の新戦力の中でも、ひときわ大きな注目を集めているのがアップアップガールズ(プロレス)のメンバー、高見汐珠(たかみ・うた)だ。

 アイドルとしても活動中の彼女は、身長150㎝。フェスなどで他のアイドルと並んだときでも小ささが際立つのでリング上だとなおさらだ。デビュー当初は「大丈夫?」という声もあがっていたが、いまではその小さな体を利用した新技を開発したり、負けん気の強いファイトでトップレスラーたちに噛みついたりしたりで、観客の視線を集めまくっている。面白いプロレスラーが誕生した、と。

 彼女には他のアップアップガールズ(プロレス)のメンバーとはちょっと違ったバックボーンがあった。現在、最高峰王座を保持する渡辺未詩をはじめとして、先輩メンバーたちはみんなアイドルになるためにこのグループへの加入を決断している。みんなプロレスというものをまったく知らずに飛びこんできたのだ。しかし、高見汐珠は違った。

「物心ついたときからプロレスを見ていました。お父さんがプロレス大好きで、深夜に放送されたプロレス中継を録画していたんですけど、それを土曜日の朝に一緒に見るのが子供のころの日課でした。
だからプロレスに抵抗はまったくなかったんですけど、小さいころは正直、ハマりはしなかったですね(苦笑)。とにかく痛そうで怖かったから、自分が女子プロレスラーになろうなんて、まったく思わなかった。小さいころの夢は警察官になることだったんですけど、学校の先生に『汐珠の性格はそういう仕事に向いていない』って言われちゃいました、アハハハ!」

 小学生だった彼女に先に刺さったのはアイドルだった。

「たまたま『クレヨンしんちゃん』を見たあと、テレビをつけっぱなしにしていたら『ミュージックステーション』がはじまって。その日はHKT48が出ていたんですけど『桜、みんなで食べた』を歌う矢吹奈子ちゃんの姿を見て『えっ、なに、かわいすぎる!』って。その一瞬でHKT48にハマっちゃいました。奈子ちゃん、なこみく(矢吹奈子&田中美久のユニット)が本当に大好きで。それからずっとHKT48を応援しています。今もずっとですよ! コンサートで奈子ちゃんの曲をやってくれると「よく受け継いでくれた!」って感動しちゃうレベルです。最近だと龍頭綺音ちゃんとか石松結奈ちゃんとかかわいいですよね。あとはやっぱり石橋颯ちゃん! あっ、そうですよね。アイドルとしてはライバルにならなくちゃいけないですよね(苦笑)。
がんばります」

 そして幼いころからプロレスを見てきたことと、アイドルを好きになったことで、彼女の運命は変わっていく。

「たまたま東京女子プロレスの試合を見ることがあったんですけど、いままで私が見てきたプロレスとは違うって思って。それはきっとアイドル好きでかわいい女の子が出てくるとときめくようになっていたから、次から次へとかわいい選手が出てくる東京女子プロレスが私には刺さったんだと思います。そのときに好きになったのが渡辺未詩さんだったんですけど、最初はいちプロレスラーとしてしか見ていなくって。そのあとリングで歌っている姿を見て、びっくりしました! プロレスとアイドルの二刀流? 私の進む道はもうここしかないです!って」

 ちょうど高校入試とオーディションが重なってしまったため、一度はトライすることを見送るが(そのときのオーディションの合格者が鈴木志乃)、高校入学後、さらなるオーディションが開催されることを知って、高見汐珠はリングに飛びこむ決意をした。

 プロレスをずっと見てきたから、プロレスラーになった自分も客観視できる。

「未詩さんに憧れてはいますけど、それは本当に純粋な憧れで、自分が未詩さんみたいになれるのかって言ったら、それはまた別の話じゃないですか? 私の小さい体では未詩さんのようなレスラーになれないってわかっていましたし、だったら私にしかできないプロレスをやろうって最初から思っていました」

 がむしゃらに一生懸命、闘う姿は見る者の心を打つ。ただ、高見汐珠の試合からそれ以上のなにかを感じてしまうのが、彼女自身がただ一生懸命ではなく、明確な意志をもって唯一無二のプロレスをやろうとしているからなのだろう。チャンピオンが相手であっても、巨漢の外国人選手であっても、最初から最後まで大きくて独特な声で叫びながらぶつかっていくファイトスタイルは、もはや勝敗を超えたところで観客の心を打ち、どんどん評価をあげていった。ここにきて結果もついてきた。10月4日に開幕した若手選手たちによるサバイバル戦『ねくじぇねトーナメント’25』でも、破竹の連勝でいち早く10.26両国での決勝戦進出を決めた。優勝賞品はタイトルの挑戦権だけに、この先への期待も高まる。


 そして11月22日には地元・金沢での凱旋興行も決定。それに先立ち、馳浩石川県知事への表敬訪問も実現した。世代的にプロレスラー・馳浩をリアルタイムでは知らない高見汐珠だが、憧れの渡辺未詩と同じくジャイアントスイングを得意としてきた馳知事の過去映像を見て、運命的なものを感じたりもしている。

「久しぶりに石川県に帰ったんですけど、まだまだ能登半島地震から完全には復興していないんだなぁ、と感じることがたくさんありました。今回は能登半島地震のチャリティー興行でもあるので、たくさんの方に見にきていただいて、少しでも多く寄付ができたらなって、改めて思いました。そのためにはプロレスラーとしても、アイドルとしても、もっともっとがんばらなくちゃいけないですよね。私がもっともっとビッグになって、いろいろなものとの懸け橋になりたい。汐珠がきっかけで東京女子プロレスを見る人が増えたら幸せだし、そこからアイドルへの懸け橋とつないだり、石川県へもつないだり……そんな夢をかなえていきたいです!」

 小さな体にでっかい夢を抱えて、今日も高見汐珠は絶叫しながらリングを飛び回っている。

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