『R-1グランプリ2022』王者の芸人・お見送り芸人しんいちが、初の著書『嫌われ者って金になる!』を上梓した。バラエティやドッキリ企画で“クズ芸人”と呼ばれる立ち回りが炎上を呼ぶ中、それを武器に仕事へと繋げていく処世術を明かしている。
本稿では、家庭で育まれたポジティブさ、サッカー部での立ち回り、芸人デビュー以降の苦労と覚悟など、彼が“嫌われ者”として生き抜くために選んできたこれまでの道のりをひもとく(前後編の前編)。

【画像】お見送り芸人しんいち初の書籍『嫌われ者って金になる!』

「悪口を言われると、嬉しい自分がいたんです。無視される方がよほどツライですから」

2025年秋、お見送り芸人しんいちは、初の著書『嫌われ者って金になる!』(徳間書店)を上梓した。『R-1グランプリ』の2022年度優勝者であり、今やバラエティで大活躍中の彼。しかし、SNS上で彼に飛び交うのは、「ムカつく」「キライ」といったネガティブな言葉ばかり。

それは『水曜日のダウンタウン』(TBS)を始めとしたバラエティで見せる彼の行いや言動の(敢えて書くが)“クズ”っぷりが原因だろう。各番組で炎上を起こしては“嫌われ者”として、世間から罵詈雑言を浴びせられるサンドバッグ状態。だが冒頭の言葉の通り、意に介していない。それどころか、世間の悪口や炎上を逆手に取り仕事へと繋げていく“したたかさ”を見せている。

この『嫌われ者って金になる!』には、炎上を活かした芸能界での生き残り術や、誹謗中傷を力に変えるメンタル術が綴られており、単なる“炎上芸人”ではない、驚異的なポジティブさと、危機的状況や“負け”をプラスに変える彼の独自の思考と胆力、そして魅力が詰め込まれている

彼の強靭なメンタルは、家庭環境が元にあるという。

大阪の婦人服関連の工場を営む家庭に、しんいちは生を受けた。両親、そして姉と妹の家庭は、常に笑いが絶えない日々だったという。


「僕が大学生の頃、オトンが連帯保証人のハンコを押してしまい、2000万円の借金を作ってしまったんです。オカンが激怒する中、オトンは『働いて頑張って返す! 好きなギャンブルも止める!』と頭を下げ、その場は丸く収まりました。翌日、オトンが意気揚々と家に帰ってきて『パチンコで6万円、勝った!』と叫びだしたんです。昨日『ギャンブル止める!』と謝った人間がなに言ってんねん!と唖然。

すると昨日は激怒していたオカンが『あと1994万円やね!』と、オトンに力強く抱きつき喜びを分かち合ったんです(笑)。この我が家族に流れる無駄なまでに前向きで、底なしの強さが僕のポジティブな性格の根っこになっている気がしますね」

芸人を目指す以前の将来の夢は「Jリーグ選手」だったしんいちは、小・中と熱心にサッカーに打ち込み、高校では強豪・北陽高校(現・関西大学北陽高校)へ進学。しかし、周囲の圧倒的な実力差にもまれ、「ここではベンチ入りすらムリやな」と挫折。子どもの頃から追いかけてきた夢は打ち砕かれてしまう。しかし、ただで諦めない前向きなしんいち“らしさ”を光らせた。

「このまま負けるには悔しい。どうすれば選抜に入れるんやろう?と考え、とにかく場を盛り上げてチーム内の空気をよくするムードメーカーになろうって。僕がいるだけで雰囲気が良くなるなら、監督もチームに必要としてくれるやろ!って」

そこからは徹底的に「お笑い担当」として振舞いチームを活気づけた。
その結果、見事に強豪校の中に自分だけのポジションを確立。選抜メンバーとしてインターハイ出場まで果たした。

「他の人からしたら、『実力で勝ち取らないのはズルい!』と思われるかも。けど僕からしたら、『最後にユニフォーム着ているからええやん!』と思っていましたね(笑)。この頃に、『正当に勝てないなら、別の方法で勝てばええやん』という考え方を覚えました。それを今も普通にやっているから『しんいちは汚い人間!』と言われるんやと思います」

この絶望的な状況を上手く躱しながら新たなポジションを探す癖は、芸人になっても活かされた。大学を卒業後「教師になれ」という両親の反対を押し切り、当時の相方と共に松竹芸能に入所を決めた。

「吉本に入っても埋もれるだけだと思って。吉本ほどではないけれど有名な事務所……松竹芸能に行けば即エースになれるやろ!と、消極的に選んだだけです(苦笑)」

しかし、当時の松竹芸能には、さらば青春の光、街裏ぴんくらが在籍し、しんいちの入所半年後には、ヒコロヒー、きつね、Aマッソらが所属。まだ日の目を浴びていないものの、まさに“強豪校”な面々に囲まれることに。

「ネタ見せを見たら、全員化け物みたいな才能の持ち主。すぐ活躍できるやろ!と、僕の伸びきった鼻は入所すぐに叩き折られました(笑)」

ネタで評価されず、この世界でも勝てないと悟ると、生きるために頭をフル回転させる。
その結果、一つの答えに辿り着いた。事務所の大先輩、森脇健児が主催する陸上部への入部だった。

「芸人としての実力は無くても、先輩に可愛がってもらえれば出してもらえるんじゃないかと思って」

これまでサッカーで培った走力が森脇の目に留まると、彼の番組のバーターとして呼ばれることに。コンスタントに舞い込む仕事。しかし、“陸上部”の名の通り、走るばかりで一切お笑いの番組には出られず。「芸人として、アカンちゃう?」と危機感を覚えると、2011年4月に松竹退所を決意。その後、東京へと活動の場を移すことになった(後編へつづく)。

【後編はこちら】お見送り芸人しんいち、クズ芸人への覚悟「徹底的に嫌われる悪魔に生まれ変わろう」

▽お見送り芸人しんいち お渡し会開催決定

開場日 2025年11月3日(月・祝)
開催時間 13:30開場/14:00開演
開催場所 芳林堂書店高田馬場店 8階イベントスペース
住所 東京都新宿区高田馬場1-26-5 FIビル
参加料金 2,420円(税込) ※書籍代1,870円・イベントサポート費を含みます

参加チケット購入はコチラ→ https://t.livepocket.jp/e/c8kdb
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