今年で35周年を迎える『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)。1990年4月の放送開始以来、数多くの名エピソードを世に送り出してきた同番組だが、その長い歴史のなかで視聴者の記憶に深く刻まれた作品とは何だろうか――。
11月8日に放送される『世にも奇妙な物語 35周年SP 秋の特別編』を前に、改めて歴代の傑作エピソードを振り返ってみたい。

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まず『世にも奇妙な物語』の傑作としてしばしば名が挙がるのが、木村拓哉主演の『BLACK ROOM』だ。「久しぶりに帰郷したら、まるで様子が変わっていた」というシチュエーションを描いたエピソードで、木村演じる主人公・ナオキが様変わりした実家や家族に翻弄されていく。

真っ黒な部屋や挙動不審の両親、そして突如明かされる妹の存在。状況だけを見ればかなりホラーで、実際に序盤の演出もホラー色が強い。だが主人公と両親の掛け合いは妙にコミカルで、全体としては不思議な笑いを誘うコメディに仕上がっている。

そして終盤、物語は思わず笑ってしまうほどの急転調を見せる。斬新な設定や意外なオチが多い『世にも奇妙な物語』の中でも、『BLACK ROOM』は輪をかけて“異色作”と言えるだろう。なお脚本・演出を務めた石井克人は、後にアニメーション映画『REDLINE』でも木村と再タッグを組んでいる。

続いて注目したいのが『23分間の奇跡』。ジェームズ・クラベルの短編小説を日本版に再構成した作品で、「クーデターにより憲法が変更された日本」という独自の設定が加えられている。

この物語には、特別に衝撃的なオチがあるわけではない。
しかし教室の小学生たちが一人の新任教師に価値観を塗り替えられていく様子が生々しく描かれており、他のエピソードとはまた違った恐ろしさを感じさせる。作中では具体的に憲法がどう変わり、日本がどう変わったのかまでは明言されていないものの、「平等 自由 平和」と書かれた額縁を生徒たち自らが投げ捨てるよう誘導する場面などから、世の中が決して穏やかではないことが伝わってくる。

そしてこの女性教師が、教室にいる全生徒の価値観を変えるまでに要した時間が“23分”。もともと「教育とは何か?」を問いかける意図で書かれた小説だけに、現実の社会でも同じようなことが起きてはいないか、思わず考えさせられる作品だ。

怖さという点では、『懲役30日』も負けてはいない。主人公は、7人もの人を殺害した凶悪犯。だが、そんな彼に与えられた刑は“懲役30日”という、あまりにも軽すぎるものだった。最初こそ余裕の笑みを浮かべて刑務所に入った主人公だが、その先に待ち受けていたのは地獄をも凌ぐ過酷な日々。“懲役30日”の真の意味が明かされるラストでは、視聴者の誰もが戦慄したに違いない。

他にも“排泄方法”が技術の進歩によって変わってしまった『ファナモ』や、孫と祖母の感動作かと思いきやラストで一気に恐怖へ転じる『おばあちゃん』など、斬新な設定や衝撃的なオチで語り継がれる作品が数多く放送されてきた。さらに『孤独のグルメ』で知られる久住昌之のコンビ作『夜行』を元にした『夜汽車の男』も、ただ男が一人で駅弁を食べているだけの物語ながら、伏線の妙や秀逸なオチなどで最高傑作に推す人も少なくないだろう。

世の中には数え切れないほどの物語が存在するが、『世にも奇妙な物語』でしか味わえない“奇妙なうま味”が確実にある。
35年を経た今もなお人々の記憶に残るような名作が、今後もこの番組から生まれ続けることを期待したい。

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