私人逮捕・暴走する正義・孤独な若者たち…『緊急取調室』が突き付ける“現代ニッポンの病理”

天海祐希主演の木曜ドラマ『緊急取調室』（テレビ朝日系）の第5シーズンが、折り返し地点を過ぎた。本シリーズは12年にわたるシリーズだが、各シーズンにおいて時代の世相が色濃く投影されている。被疑者が背負う苦しみに自分を重ねたり、現代社会で生きる厳しさを改めて感じたりする。今回はシーズン5における被疑者を通して、現代社会の闇について考える。

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届かない声、無視される真実
世の中には間違いを指摘したり、苦しい気持ちを声高に叫んだりしても誰にも届かないことは少なくない。

今シーズンは、80代の男性が妻の死に不審な点があると疑い、病院の院長室に爆弾を持って立てこもったシーンで幕を開けた。キャスターの倉持真人（山本耕史）は正当な手続きで訴えるよう説得していたが、男性は訴えたところでまともに取り合ってもらえなかったのだろう。

思い返すと、2014年に放送されたシーズン1の1話でも、被疑者の声が悲しく響いていた。寺尾光一（高嶋政伸）は身の潔白を主張したものの冤罪で逮捕され、釈放されても元の生活には戻れず、恨みと屈辱にのみこまれて殺人犯となった。

今シーズンの1話は、地下に大規模蓄電施設を作る“政府肝いりの再開発計画”をめぐる事件が物語の中心となっている。内閣総理大臣・長内洋次郎（石丸幹二）は「ご意見があれば　いつでも話をお聞きする用意があります」と視聴者に番組で呼びかけていたが、意見を言ってもまともに取り合ってもらえないと察せられる。

実際、辻本裕太（角田晃広）はこの計画の危険性を見抜き、指摘したが、その声は誰にも届かないどころか左遷された。裕太は事業関係者2人を殺害したが、その背景には左遷されたことへの怒りと、“100年後の100万人を守る”という歪んだ英雄意識があった。もし裕太の声に誰かが耳を傾けていれば、2人は死なず、裕太も殺人犯にならずにすんだかもしれない。

言論の自由が保障されている日本では、誰であろうと不審な点を指摘し、不平不満を声高に叫べる。だが、必死に訴え続けても誰一人耳を傾けてくれず、やりきれない悲しみに押し潰される人は少なくない。その一方、5話で描かれていたように、総理の関係筋のような地位のある者の声であれば、“事件の発表を控え、捜査を行ってほしい”という警察への無理な要請でも聞き入れてもらえることもある。

誰でも簡単にファンができる時代の闇
本作は日本の現状をシリーズを通して容赦なく映し出している。今シーズンでも、1話の地下大規模蓄電施設は太陽光パネルを彷彿させるし、5話の与党「民自党」初の女性幹事長は日本初の女性総理大臣と少し重なるようにも思う。また、各放送回で映し出されるSNS上の無責任で挑発的なコメントは匿名性に守られて顔を隠し、さまざまな社会問題に軽率に言及する現代人の傾向を投影している。

筆者がこれまでの放送回の中で最も印象に残った被疑者は、4話に登場した佐藤礼奈（大原櫻子）だ。アイドルのようなルックス、多くのファンを惹きつける魅力と巧みな話術、そして鋭い洞察力。これらは生きるために身につけた生存技術なのだと思うと、無邪気な笑顔や甘えた声の裏に隠れている孤独と悲しみを想像して胸が締めつけられる。

礼奈は数々の不運が重なった末にパパ活相手とその家族の命を放火で奪ったが、もし環境が違っていれば大学のキャンパスで友人たちと他愛のない会話を楽しむような女性だっただろうと思う。保護者を若くして失い、生き抜く手段が限られた彼女は“生きるためにはバカのふりをするしかなかった”のだ。そんな彼女に群がるのは下心と打算ばかりで、男たちに心身を弄ばれ、同性の弁護士・清原美香（高岡早紀）からも甘い言葉で食い物にされた。

また、近年、動画配信者は良くも悪くも注目されているが、本作の3話と5話では彼らが絡む事件が描かれていた。

3話では、カップル配信者の樋口結花（清水くるみ）と近藤春斗（永田崇人）が軽装で山に入り、かくれんぼする動画の撮影中に結花が遭難。救助隊員が死亡する惨事となった。春斗は隊員の死を告げられても他人事で、収益独占のために結花殺害まで計画していた。金、承認欲求、経験の浅さからくる軽率さ、他者への無関心が絡み合って起きた事件だ。

5話では、私人逮捕系配信者・ケルベロスが民自党の幹事長・矢代樹（高橋ひとみ）の夫・雄三（宇梶剛士）をゆすったことが発端となり、養子の卓海（坂元愛登）と初美（稲垣来泉）が犯罪者になった。彼が運営する不倫や万引きを糾弾する動画チャンネルの登録者は25万人を超えるが、歪んだ正義感を振りかざす配信者の姿を楽しみ、無責任に称賛する視聴者もこの事件と無関係ではないといえよう。

SNS時代における天海祐希の価値観
本作で真壁有希子を演じる天海は両親の教えを守り“謙虚”であることを心がけているという。

その価値観は今秋放送された『人は2000年前をどう生きたのか 天海祐希と古代ローマの謎を解く』（BS朝日）においても垣間見えた。天海はローマの指導者が後世にまで手柄を残そうとする姿勢に手厳しい発言をすることもあった。

天海はドラマや映画、舞台などで中心に立つことが多いが、本人は主演女優として名を馳せたり、目立つことに関心がなさそうだ。むしろ、共演者やスタッフが心地よく働ける環境を整えることも主演の役目としているように見える。加えて、自分の仕事を「女優」「俳優」とはほとんど言わず、「お芝居をさせていただいている」とどこか照れくさそうな表情で口にする。

天海は本作の放送終了後、番組公式Xにコメントを投稿しているが、自身では公式SNSを運営していない。数年前だが、「LINEもブログもTwitterも絶対にやらない！」と強い口調で述べていた。YouTubeについてはプライベートで視聴しているようだ。

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