スターダムに所属する女子プロレスラーの上谷沙弥が、東京スポーツ新聞社制定「2025年度プロレス大賞」で女子として史上初となるMVP(最優秀選手賞)に選出された。この快挙は選手としての活躍だけでなく、地上波バラエティへの出演によって知名度を大きく高め、「女子プロレスを世間に届かせた」という点が大きく評価されたとみられている。
なぜ彼女は、プロレス界と世間の間にあった“壁”を打ち破ることができたのだろうか。

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上谷は2014年に「バイトAKB」に合格し、芸能界デビューをはたした。その後、人気女子レスラー・中野たむが手がけたスターダム発のアイドルグループへの参加をきっかけに、168cmの長身と、ダンスや器械体操で培った運動神経を買われてプロレス界に飛び込んだ。

当初は正統派のアイドル系レスラーとして活躍していたが、2024年7月にヒールターン(悪役転向)し、全身黒のコスチュームに身を包んだ“美しきダークヒーロー”に生まれ変わった。同年12月には、中野が持っていた団体最高峰のワールド・オブ・スターダム王座(赤いベルト)を奪取し、文句なしでスターダムの“センター”に立った。

2025年の上谷の活躍を語るうえで外せないのが、中野との異例の形式の試合だろう。4月に両者ともに「負けたら即引退」を懸けたタイトルマッチで対戦し、上谷が26分9秒に及ぶ激闘の末に勝利。かつての師匠でもあった中野に引導を渡すという残酷にも思える結末は賛否両論を呼び、2025年のプロレス界でもっとも大きな話題を集めた試合となった。

この勢いはプロレス界にとどまらず、地上波テレビなどのメディア露出も増加。TBS系『ラヴィット!』では、ゲスト出演を経て7月から9月末までシーズンレギュラーを務めた。さらに、フジテレビ系『千鳥の鬼レンチャン』の「女子300m走サバイバル」などでも強烈

9月26日放送の『ラヴィット!』ではレギュラー卒業記念として、番組内で同じスターダム所属の羽南と特設リングで対戦。これは地上波テレビで23年ぶり、TBSにおいては51年ぶりとなる女子プロレスの生中継という歴史的快挙となった。
プロレスの枠を超えて活躍し、なおかつ世間に「女子プロレスを届けた」ことが、女子初のプロレス大賞MVPにつながったのだろう。

上谷のキャラクターがお茶の間でウケた大きな理由としては、「悪役なのにいい人」「悪役なのにかわいい」というギャップが挙げられる。リング上では自信満々で不敵な女王様キャラだが、『ラヴィット!』のビリビリ椅子で電流を食らった際のリアクションや『千鳥の鬼レンチャン』で悔し涙を流す姿には、悪役らしからぬキュートさや真面目な素顔がにじみでている。

このギャップは、プロレスラーが“お茶の間ウケ”するうえでの“鉄板”要素だ。近年の男子レスラーでは、コワモテなのにスイーツ好きキャラが浸透した真壁刀義や、ひげ面で大柄の悪役レスラーでありながら酔っ払いに絡まれて怯えていた女児を助け出し、安心させるために持っていたパンケーキを差し出して警察から感謝状を贈られたグレート-O-カーンなどが代表例だ。その上の世代では、長州力や天龍源一郎らが、いかつい見た目とは裏腹な愛嬌のある言動のギャップでお茶の間に親しまれた。

女子レスラーでも北斗晶やアジャ・コング、神取忍らがそのギャップによって人気となったが、近年の女子プロレス界では、そうした魅力を前面に打ち出せる存在がほとんど現れず、世間との距離が開いてしまっている印象が否めなかった。そんななかで上谷は、女子プロレスと世間の間にあった壁を打ち破る存在に成長したといえる。上谷の場合、令和バージョンにアップデートされた独自の「美しきヒール」像を確立しており、その点も時代性と合致したのだろう。

上谷自身の成長が、リングとメディアの双方での飛躍につながったことは間違いないが、彼女は自身を強くしたのは「中野たむ」であると何度も断言している。引退した中野の想いとレスラーとしての生きざまを背負い、女子プロレス界の未来を担う存在となった上谷の輝きは、今後さらに増していきそうだ。

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