テレビ朝日を代表する人気ドラマシリーズ「緊急取調室」、通称“キントリ”。その12年にわたる歩みの集大成であり、シリーズ完結編となる『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』が、12月26日より公開されている。
連続ドラマの映画化という枠を超え、文字通り“最終章”として位置づけられた一作だ。

【写真】人気シリーズ完結編『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』が公開中【6点】

テレビ朝日を代表する人気ドラマシリーズ「緊急取調室」、通称“キントリ”。その12年にわたる歩みの集大成であり、シリーズ完結編となる『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』が、12月26日より公開されている。連続ドラマの映画化という枠を超え、文字通り“最終章”として位置づけられた一作だ。

本作は、公開に至るまでの紆余曲折も含めて語られることの多い作品でもある。当初は2022年公開予定だったが、作中の設定が安倍晋三元首相銃撃事件と酷似しているとして延期。さらに23年、市川猿之助による自殺幇助事件、永山絢斗の大麻取締法違反が相次ぎ、当初バージョンおよびそれに直結するテレビスペシャルは事実上“お蔵入り”となった。一時はシリーズそのものの存続すら危ぶまれ、「呪われた作品」とまで言われる事態に発展した。

しかし制作陣はシリーズ消滅という最悪の結末を回避する道を選ぶ。内閣総理大臣・長内洋次郎役を石丸幹二に変更し、再撮影を敢行。長い時間と調整を経て、まったく新たな劇場版として完成させたのである。

マスコミ試写や完成披露などで旧バージョンを観た関係者もいると思われるが、キャラクター造形は大きく変更された。
その中で際立つのが、石丸幹二の存在感だ。国のトップとしてのカリスマ性と、強い正義感ゆえに一線を越えかねない危うさ。その相反する要素を併せ持つ長内像を、石丸は自身の俳優イメージを最大限に活かしながら説得力ある人物として立ち上げている。結果的に、石丸の演技そのものが本作最大の見どころのひとつとなった。なお、市川猿之助版の長内も光と闇を併せ持つ“はまり役”であっただけに、世に出ることが叶わなかった点は惜しまれる。

本来この劇場版は、2022年新春スペシャル「特別招集2022~8億円のお年玉~」、そして2023年放送予定だったテレビスペシャルと直結する完結編として構想されていた。その事情から、結果的に制作されたシーズン5は、それらの欠落部分を補完する役割も担うことになった。皮肉ではあるが、度重なる延期が新シーズン誕生のきっかけになったとも言える。

だが、この“回り道”は決してマイナスばかりではなかった。シーズン5を通じて石丸演じる長内の存在に十分な説得力が与えられたからだ。石丸は第1話「橙色の殺人」、第5話「みどりのいえ」にも登場し、「私は逃げない」という象徴的な言葉に、日本政府が抱える問題や葛藤を背負わせる奥行きを加えていった。同時にシーズン5全体も、正義と使命の間で簡単に白黒をつけられない事件が増え、政府と警察組織の距離感をこれまで以上に描く構成となっている。
結果として、劇場版での対決は“突然現れた大物”ではなく、“日本を背負った男”との必然的な衝突として描かれることになった。

ドラマと劇場版を密接に接続させる手法は、テレビ朝日系ドラマの映画化作品に顕著な特徴でもある。代表例が「相棒」シリーズで、劇場版とテレビ版が相互に補完し合う構成はおなじみだ。『相棒 -劇場版II- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜』(2010)では、ドラマ版において極めて重要なキャラクターが殉職するという大胆な展開も描かれた。近年では「仮面ライダー」シリーズにおいても、映画とテレビの物語が直結するケースが増えている。

一方で、やはり延期による時間的ズレの影響は否定できない。新春スペシャルと幻となったテレビスペシャルから直結する設定のため、ゲストキャラクターだった生駒亜美(比嘉愛未)と酒井寅三(野間口徹)が引き続き登場する点には、やや違和感も残る。そのためシーズン5第8話「紫の旗」、第9話「蒼い銃弾(最終回)」に再登場させ、物語上の整合性を取る工夫がなされている。

その違和感を和らげているのが、テレビ朝日系ドラマ劇場版のもうひとつの特徴でもある“サブキャラクターの活かし方”だ。数話しか登場していない人物であっても、物語の中で確かな役割を与え、再び光を当てる。その積み重ねが、世界観の厚みを生んでいる。

例えば『科捜研の女 -劇場版-』(2021)では、マリコの元夫・倉橋拓也(渡辺いっけい)や、わずか数話の登場だった解剖医・佐沢真(野村宏伸)まで再登場した。
本作でも、新春スペシャルやシーズン5第1話に登場した特殊犯捜査係の鬼塚貞一(丸山智己)が顔を出すほか、注目すべきは娘・真壁奈央の再登場だ。ドラマ版同様、杉咲花が続投し、母・有希子に一定の距離を保ちながらも、その生き方と信念を静かに尊敬する繊細な立ち位置を丁寧に演じ切っている。

まだ描き切れていないサブキャラクターは数多く、シリーズ完結を惜しむ声が上がるのも当然だろう。ただ、「13日の金曜日」や「エルム街の悪夢」が“ファイナル”を掲げながらも復活を果たしたように、キントリもまた、いつか再び戻ってくる可能性はゼロではない――そう思わせる余韻を残す完結編である。

【ストーリー】
超大型台風が連続発生し、国家を揺るがす非常事態の最中、内閣総理大臣・長内洋次郎(石丸幹二)は、災害対策会議に10分遅れて到着する。さらに、その「空白の10分」を糾弾する暴漢・森下弘道(佐々木蔵之介)が現れ、総理大臣襲撃事件が発生する……。警視庁は、森下の起こしたテロ事件を早急に解決するため、キントリの緊急招集を決定。真壁有希子(天海祐希)らキントリチームは取調べを開始するが、森下は犯行動機を語らないどころか、取調室に総理大臣を連れて来い!と無謀な要求を繰り返す。森下の取調べが行き詰まる中、長内総理に“ある疑惑”が浮かび上がる。 「総理を取調べたいんです。」有希子は真相解明のために総理大臣を事情聴取すべく動き出すが……。熟練のチームワークと緊迫の心理戦。キントリは全てを懸けて、前代未聞の取調べ…内閣総理大臣との最後の闘いに挑む。

皆さん、これが本当に、最後の出番です。

【クレジット】
脚本:井上由美子
監督:常廣丈太
音楽:林ゆうき
出演:天海祐希、田中哲司、速水もこみち、鈴木浩介、大倉孝二、塚地武雅、比嘉愛未、野間口徹、工藤阿須加、中村静香、生島勇輝、丸山智己、佐々木蔵之介、石丸幹二、勝村政信、徳重 聡、山崎 一、平泉 成、小野武彦、杉咲 花、眞島秀和、草刈正雄、でんでん、小日向文世ほか
配給:東宝
©2025劇場版「緊急取調室 THE FINAL」製作委員会
公開日:12月26日(金)

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