エバースの佐々木は「M-1グランプリ2025」終了直後のインタビューで「力負けでしたね」と漏らした。2本ともで圧倒的な笑いを生み出した王者たくろうに敬意を払う姿は学生時代全力で野球と向き合ってきたスポーツマンの彼らしい言葉だった。


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しかし、優勝候補として今大会に臨んだエバースがトロフィーに“何歩”も手が届かなかったかというと違う。本当にあと一歩だったのだ。

1本目に披露した「車」のネタは圧巻だった。昨年の大会で初お披露目したエバースらしい2人の日常会話のような掛け合いはそのままに、後半に向かってどんどんと観客の想像をかきたてながら、町田のツッコミで笑いに昇華していく流れはあまりに鮮やか。その中でも「人として後ろに下がってんだよ」や「駐禁きられないけど尿検査されます」などパワーワードを散りばめて強いインパクトを残した。

ミルクボーイに次ぐ、歴代2位となる870点を残したことに誰も異論はないだろう。ファーストラウンドで2位たくろうとは9点差、3位ドンデコルテとは25点もの差をつけ、エバースの優勝を確信した人も多いはずだ。

そんな中、2本目に選んだのは「腹話術」のネタだった。佐々木は「車」を当初は2本目にやる予定だったが、1本目に持ってきたことで2本目のネタに悩んだことを後に明かしている。しかし、最終的にはツッコミで笑いを取るというネタの構造上、町田がより“ノッて”できる腹話術を希望し、その意思を尊重したという。

このネタの強みは何よりウケることだ。普段の寄席はもちろん、準決勝でも圧倒的なウケ量を獲得していた。
佐々木が勝手な振る舞いで町田を振り回すという1本目のやり取りも踏襲しており、実際にネタ序盤は上々のスタートを切っていた。

だが、終わってみれば想像していたほどの反応は来ず、大会直後の打ち上げ番組で「このネタで一番(ウケが)来なかったくらい(町田)」とさえ認めた。最大の武器としていた部分が大舞台では鳴りを潜め、ウケ量で押しきれなかったことが敗因となっている。

では、なぜウケきらなかったのか。

1位で通過しながら最終決戦で2番手を選んだことなども盛んに指摘されているが、よりネタの中身に目を向けてもいいかもしれない。1本目の「車」では町田の“ルンバ車”姿をひたすらに想像させて笑いにしていたが、2本目の「腹話術」では実際に町田が人形のマネをする場面がある。

それがネタの本質ではないし、そこに至るまでの会話の妙も魅力なのだが、本来は顔芸で笑いを取れるのも事実。しかし、知らず知らずのうちに1本目と比較した観客は、実際に“人形町田”を目にしてしまったことで想像の余地が減り、結果的にウケの減少につながったようにも感じられる。

いうなれば、客が待っていたものと違うものを提供したというミスマッチが敗因に。漫才師として「幅を見せたかった」2人の思惑とは裏腹に予想していたような反応が来ず、徐々にパフォーマンスにも陰りが見られた。それが結果として“力負け”となった。

もっとも、エバースには未来がある。
佐々木は「また一からですね。まだまだこれから……人生長いんで」と話し、すでにその目は来年を見据えている。

本人たちは「叩ききれなかった」と笑うが、まだまだエバースらしいネタはあり、弾切れはしていないはず。数多くの雑談を積み上げ、いつの日か頂に立つ姿を楽しみに待ちたい。

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