デッドリフト230kg、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの3種目合計で500kg。日本人女性として前人未到の領域に足を踏み入れ、アジアの頂点に立ったパワーリフティング界の女王・野村優。
その圧倒的な強さの裏には、センスのなさに涙した高校時代と、誰にも言わずに続けた“秘密の特訓”の日々があった。「脳筋キャラは定着してました」と笑う彼女のストイックな競技人生と、意外な素顔に迫る。(前後編の後編)

【写真】パワーリフティング界の女王・野村優の撮り下ろしカット【16点】

――トレーニングに打ち込む姿から高校時代にすでに「脳筋キャラ」が定着していたそうですね。

野村 パワーリフティングをやっている女子高生がそもそも当時は珍しかったですし、ちょうど「筋トレ女子」っていう言葉が出始めたくらいの頃でした。今みたいに女性がジムに行くのが当たり前じゃなかった時代なので、男子からはいじられたりもしましたね。

――足が太くなることに抵抗があった時期もあったそうですが、今はどうですか?

野村 高校生の時、男子に「足太いな」って言われたことに傷ついて、スカートを短くするのが怖くなった時期もありました。でも、競技を続けてきて、かっこいい女性の選手に出会って、自分の中で「太い足でもいいんだ」って。なんなら重さが上がるのであれば、むしろ太くなりたいですよ。持ち上げられない筋肉はいらないんで。

――すごい気迫ですね。では現在のトレーニングルーティンを教えてください。

野村 週に4日から5日トレーニングをしています。
まずフリーウェイト専門のジムでスクワットとベンチプレス、あるいはデッドリフトとベンチプレスといった形でメインの2種目を。その後、24時間ジムに移動して、小さい筋肉を追い込むトレーニングをしています。

――カフェをはしごするみたいに、ジムをはしごするんですね。

野村 ジムのはしごは毎回ですね。幸い、2つのジムが歩いて5分くらいの距離にあるので楽ですよ。

――食事制限などもされているんですか?

野村 友達とご飯に行く時とかは気にせず食べますが、一人の時は自分で決めたルールで食事をしています。基本は、お米と野菜とタンパク質をベースにしたクリーンな食事。特にタンパク質は、お肉、お魚、卵、大豆製品、乳製品の5種類を1日で全部摂るように心がけています。

――かなり食費がかかりそうですね。

野村 かかります(笑)。でも、これに関しては「筋肉のための必要経費」だと思っているので、妥協しちゃだめですね。プロテインも飲みますが、あれはあくまで補助食品。
食材からはタンパク質以外の栄養素も摂れるので、なるべく食事から摂るようにしています。

――完全オフの日は何をしているんですか?

野村 何してるんだろう……。オフの日でも、普通にジムにいたりするんですよね。こないだ台湾に旅行に行ったんですけど、台湾でも現地のジムに行きました(笑)。

――旅行先でもトレーニングを!?

野村 観光の中に「ご当地ジム」が入ってる、みたいな。私的に海外のすごいジムに行くことは、「上海のディズニーランドに行く」みたいな感覚だと思います。その台湾のジムは、世界大会で使われるような最高級の器具が何台も並んでいて、日本にはまだないような設備だったので、まさに夢の施設でした!

――そんな圧倒的パワーを持ち合わせていて、チャーミングな野村さんですが、なにか弱点はあるのでしょうか。

野村 いや、弱点しかないですよ(笑)。運動で言うと球技は本当に苦手。バスケとかバレーは顔面でキャッチしちゃうタイプですね。あと、重量計算はできるんですけど数学は苦手。だから柔道とか剣道を選んだのかもしれないです。


――面白いですね(笑)。性格的な弱点はありますか?

野村 イケイケドンドンすぎるところですね。

――イケイケドンドン?

野村 試合の時は、自分ができる以上の高い重量で申請して攻めすぎちゃうことがあるんです。だからセコンド(サポート役)の子には「私はイケイケドンドンで行くから、ちゃんと止めてね」ってお願いしています。

――いいチームワークなんですね。そんな野村さんですが、現在「ストロングガールズ」という女性向けの活動もされていますが、これはどういったものなのでしょうか。

野村 パワーリフティングって、まだまだ男性メインのイメージが強いと思うんですよね。だから、「公式大会に出るのは怖いけど、女性だけの大会なら出てみたい」という人のための非公式大会を仲間たちと運営しています。ここをきっかけにパワーリフティングを始めて、公式大会に出てくれたり、中には世界大会に出るような選手になった子もいますよ。

――素晴らしい活動ですね。

野村 ありがとうございます。トレーニングって、ダイエットだけじゃなくて、重いものを持ち上げられるようになることで自信がついたり、メンタルが強くなったり、年を取ってからの機能改善に繋がったり、いい効果がたくさんあるんですよ。


――では、最後に今後の夢や目標を教えてください。

野村 私自身、パワーリフティングを始めて人生が変わりました。この競技を通して一人でも多くの人の人生を良い方向に変えるきっかけを作りたいと思っています。そして、自分を見て「この人素敵だな」って思ってもらえるような選手になりたい。ただただ強い女じゃなくって、ちゃんと女性の気持ちが分かる選手になりたいと思っています。

▽野村優(のむら・ゆう)
パワーリフティング選手。高校時代に競技を始め、大学1年でサブジュニア世界一に輝く。その後、日本人女性として初めてデッドリフト230kg、トータル500kgを記録し、国内の歴代最高重量を更新。2025年アジアパシフィックアフリカ選手権優勝、アジア記録を樹立。女性向け大会「ストロングガールズ」の運営にも携わり、競技の魅力を発信している。友人の家で酔っ払った勢いでほふく前進をして驚かれた経験があり「次やったら出禁」と言われているイエローカード保持者。

【前編】女子高生時代は才能ゼロで号泣…それでも世界女王へ、パワーリフティング・野村優を変えた“昼休みの秘密特訓”
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