戦場ではトイレも風呂もない。排泄は岩陰で、体は月に一度洗えればいいほうだった。
さらに、激戦地では「死臭」が体と衣服に染みつくという。元傭兵・高部正樹氏が語るのは、映画では描かれない戦争の感覚的な現実。腐敗した死体、強烈な臭い、そしてそれに“慣れてしまう”人間の恐ろしさ──。五感で語られる戦場の記憶。

【画像】『日本人傭兵の危険でおかしい戦場暮らし』第1話・第2話を読む【17点】

戦地でのトイレは、野外で用を足すのが普通です。なぜなら、キャンプを設営する時はトイレを作りますが、行軍中は設営している時間がありません。ボスニアやアフガニスタンでは岩陰に隠れて排泄を行いましたが、作戦行動中は排泄物によって敵に情報を与えてしまうため、必ず穴を掘って埋めました。

トイレットペーパーは基本的に使用しません。アフガニスタンとミャンマーでは水で濡らした手で拭きました。欧米人の中にはティッシュやトイレットペーパーを持参する者もいましたが、それでも半数の人は手で清拭していました。水差しや竹筒などに水を汲んでおいて、濡らした手で清拭し、最後に手を洗います。川があれば、そこで排泄を行うこともありました。


アフガニスタンは乾燥していたので、それほど他人の体臭は気になりませんでした。ところがミャンマーは湿気も気温も高く、どの兵士も強い体臭がします。長期間、前線にいた部隊が帰ってくると、50メートル先からでも臭いが分かるほどでした。

体臭で敵に気づかれるという危険性もありますが、敵も同じような状況です。それにジャングルには様々な野生動物がいるので、それほど臭いは目立たないのではないかと思います。

ミャンマーで長い作戦に出る時は、1か月半から2か月も風呂に入れませんでした。行軍中に水浴びできるのは1回程度。アフガニスタンでも月に1回くらいで、爆弾によってできた窪地に溜まった水で身体を洗ったりしました。ボスニアは前線に長くいることがなかったので、最長でも2週間でキャンプに戻れました。

基本的に戦闘服を洗うことはありません。替えの衣類を持参することもありますが、1~2か月ずっと同じものを着ています。水浴びの時に一緒に洗うことはありますが、洗剤は使いません。


ダニや蚊もたくさんいるので確かに不快ですが、長く水浴びをしていなくても、戦闘服を洗わなくても慣れてしまいます。白人に多かったのですが、肌がガサガサでボロボロになっていましたが、そこは耐えるしかありません。

国境を越えて隣国の町に戻ると、ホテルでしっかりとシャワーを浴びます。一見すると普通に見えても、髪にシャワーをかけると茶色の水が流れ出るのです。5回くらいシャンプーをしないと透明にならないし、体も洗剤でゴシゴシ洗わないと、なかなかこびりついた汚れが落ちない。そのため前線から戻った日は、男性でもシャワーに1時間くらいかかります。街中に行く時は身だしなみを整えました。おしゃれといっても、Tシャツにきちんとしたズボン程度でしたが。

激戦地のように、目の前にたくさんの死体があると、死臭がつきます。そこに長く滞在すると服に死臭がついて、どれだけ洗っても取れないので、捨てなければなりません。身体にこびりついた死臭は更に厄介で、入念にシャワーを浴びても、4~5日間は取れないので、着替えて街に出ても「臭い」という嫌悪の目で見られます。戦場で行動していると死臭は麻痺しますが、待機していると、嫌な臭いをふと感じます。


最初に死体を見た時は、もちろん抵抗感がありました。普通の死体と違って、内臓が出ていたり、手足がバラバラだったり、変な方向にねじ曲がっていたり、頭に銃弾が当たって脳がごっそりなかったり。戦争映画と違って、五体満足の死体ではないので損傷が激しい状態です。特に腐敗した死体は凄まじい臭いがします。大量のウジ虫が湧いていますし、特に熱帯では死体が真っ黒に変色するんです。

戦場清掃といって、自分たちのキャンプで戦った後、死体が放置されていると、衛生環境が悪いから片付けます。数が少なければ火葬しますが、基本的には土葬です。大きい穴を掘って、まとめて埋めます。腐った死体はブヨブヨで、下手に触ると破けてしまいます。その時にガスがプシュッと出て、強烈な悪臭を放ちます。それだけは慣れませんでした。動物と違って同じ人間なので、嫌悪感もありますし、余計に臭く感じるのかもしれません。


山中に放置された死体は動物に食べられることも珍しくありません。激しい交戦中は動物も近寄らないのですが、バラバラになった死体には、動物に食いちぎられたものも混ざっています。川がある国境などでは、死体が流れてきて、それをひっくり返すと、エビやカニが群がって死体を食べていました。

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