【写真】松山ケンイチ主演『テミスの不確かな法廷』場面カット【7点】
♦感情移入できる余白を作る
――なぜ視聴者の心を揺り動かすことができているのですか?
吉川久岳氏(以下、吉川):なかなか難しい質問ですね。(笑)
――はい…。個人的には「感動させるぞ!」といった“狙い”を一切感じないところが、むしろ良いのかなと。
吉川:私個人としても、感動を押し付けられると引いてしまう部分があります。「感動させるものを作り出そう」と意気込むよりは、「演者やスタッフの力によって生み出された、その場でしか生まれないものを撮りたい」という思いを大切にしています。やはり、そういうものが人の心を動かすことができるのかなと。
――その場でしか生まれないものを撮るのは簡単ではなさそうですが。
吉川:そうですね。ある程度は逆算して、撮影順やスケジュールには配慮しています。
――良いシーンを描くための、撮影順などの“必勝パターン”のようなものはあるのですか?
橋立聖史氏(以下、橋立):それは分かりません。あったら教えてほしいです。(笑)
吉川:本当に毎回悩んでいます。撮影順ひとつとってもシーンの内容や、キャストのコンディション、周囲の状況などによって最適解は変わります。本作でもスタッフやキャストと相談し、シーンの冒頭からではなく、クライマックスの一番強い画から撮影するという判断をしたこともありました。その際は、非常に素晴らしいカットが撮影できたのですが、十分考えたうえでの判断がうまくいかないことも多々あります。結局のところ、トライアンドエラーの繰り返しでしかないですね。
――そういった撮影方法が、表情や間などを作り出し、登場人物のいろいろな感情を想像したくさせるのかもしれませんね。
神林伸太郎氏(以下、神林):吉川監督は「余白を作る」ことを上手く演出している印象です。「音楽で盛り上げよう」とするのではなく、目線や細かい仕草を見せることでで視聴者にキャラクターの気持ちを想像させる。
――芝居の力だけでなく、視聴者の想像力も信じていると言えますね。
吉川:人間は、人の内面を読み解くことが好きだと思うんです。目線の動きもそうですが、何かを答える時にほんの少し間があることで伝わることもあります。だから、間やタイミングなど、キャラクターに感情移入できる、想像できる余白を大切にしています。
♦希望と絶望を両立させる
――登場人物、特に被告人は、希望と絶望を同時に抱えている印象があります。どのように、この対極する2つの感情を登場人物の中に両立させているのですか?
吉川:脚本家の浜田秀哉さんの存在が大きいです。シリアスさと軽さ、その2つが絶妙なバランスで書かれています。ただ、それらを両立させて演出することは難しいんですよね。(笑)
――5話ではグエン・バン・ホン(ジュリウス)に執行猶予はつかず、実刑判決が下されるなど、必ずしもハッピーエンドではなかったですが、それでも希望を感じられました。
吉川:絶望的な状況が都合よく好転することは、現実にはあまりないと思います。しかし、人は困難を抱えていても、周囲の人と関わり、影響を受け合う中で、少しづつ変わっていける。その変化の過程を希望として描きたい、という考えで制作しています。
――ちなみに5話で、グエンは10代前半の少女・来生春(石田莉子)を家で保護していましたが、場合によっては“性的”な雰囲気を与えてしまうリスクもあります。このあたりはどのように調整したのですか?
橋立:これは5話を監督した相良健一さんの手腕ですね。相良さんもそこは懸念していました。そのため、グエン役のオーディションでは、身長差や石田さんと並んだ時の雰囲気など、“グエンと春が本当の兄妹のように見えること”を特に意識しました。また、衣裳の丈やヘアメイク、小道具にもこだわり、二人の見え方には気を配りました。
♦普通を疑うきっかけに
――発達障害を持つ主人公が裁判官をしている、という設定はなかなかに珍しいですよね。
神林:裁判官は人の人生をジャッジしなければいけません。ただ、「発達障害のある人物に裁かれるとなった時、果たして人は偏見を持つことなくいられるのか?」という問いが、原作を読んだ時に頭に浮かびました。
――かなり挑戦的ですね。
神林:そうですね。私自身、偏見はないと思って生きていますが、自分がその立場になった時に、本当に偏見を持たずにいられるのか。視聴者の方にも考えていただきたい“問い”だと思ったので、「ここは真っすぐに描きたい」と思いました。
吉川:グループケアを見学させていただいたとき、参加者の皆さんが感じている生きづらさに共感できる部分がたくさんありました。その中で、素朴に「普通とは何だろう」とあらためて考えさせられました。「普通」という価値観で簡単に人を線引きすることはできないのではないか。線を引こうとすれば、いくらでも引けてしまう。そもそも「普通」は本当に存在するのか。誰もが多かれ少なかれ生きづらさを抱え、それを隠して“普通”を装っている部分があるのではないかと感じました。
――ある意味、誰もが安堂のような“宇宙人”なのかもしれませんね。
吉川:はい。
橋立:主任書記官・八雲恭子を演じている山田真歩さんが言っていたのですが、「安堂は普通を探しているけど、定型発達と言われる方も、普通に見られるようにチューニングしながら生きている。結局、みんなが普通を探しているんじゃないか?」と話していて、その視点は面白いと思いました。だからこそ、「普通であることが正しい、という“普通”を疑ってみては?」ということを感じてほしいですね。
♦放送がない影響は?
――ちなみに、2月10日と17日は、冬季オリンピック開催の影響で放送はありません。2週間、放送が空いてしまうことへの不安はありますか?
神林:もし「ストーリーが面白い作品にしよう」としていれば、放送が途切れた際に興味は簡単に失われるかもしれません。ただ、我々は、視聴者がそれぞれのキャラクターに感情移入していただくことを目指してきました。キャラクターに興味を持ってもらえれば、「この人物は今後どうなるのか?」と期待して、放送が再開した際にも見てもらえるのではないかと思っています。
橋立:放送期間が空いてしまいましたが、24日に放送される第6話以降は、今まで以上に楽しんでもらえる内容になっているので、楽しみに待ってもらえると嬉しいですね。
――改めて、最後に本作をどのように楽しんでほしいですか?
神林:最終回の終盤に、安堂が法廷で自身の思いを語る重要なシーンがあります。私たちは取材を通じて、当事者の方々が抱える切実な思いに向き合ってきました。その取材の中で受け取った“思いのバトン” を視聴者の皆様へとつなぐためのセリフがそこに込められています。
吉川:物語としてシンプルに楽しんでほしいという思いと、ほんの少しでも立ち止まって、自分の身近な人のことを考えるきっかけになれば嬉しいです。
橋立:隣にいる人のことを、本当に理解できているかと問われたら、そうではないと思います。人は他者を完全に分かることはできません。でも、だからこそ、このドラマを通して、少しでも相手を知ろうとすることや、自分の外側に目を向ける大切さを感じてもらえたら嬉しいです。
『テミスの不確かな法廷』一挙再放送の日程
第1話 2月23日(月祝)後3:05~3:50
第2話 2月24日(火)前0:35~1:20 ※2月23日(月祝)深夜
第3話 2月24日(火)前1:20~2:05 ※2月23日(月祝)深夜
第4話 2月24日(火)前2:05~2:50 ※2月23日(月祝)深夜
第5話 2月24日(火)前2:50~3:35 ※2月23日(月祝)深夜
【前編はこちら】松山ケンイチはなぜハマったのか『テミスの不確かな法廷』制作陣が明かすキャスティングと徹底設定の裏側

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