人気アーティスト・Adoが、新曲『ビバリウム』のミュージックビデオで‟顔出し”を解禁した。ルックスへの称賛の声が集まる一方、‟顔を見せない歌姫”として支持されてきただけに、ファンの間では動揺の声も広がっている。


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『ビバリウム』はAdoの自伝的小説と連動した楽曲で、初の実写となったMVでは横顔や目元など、これまで公開されてこなかった本人の顔が部分的に映し出された。デビュー以来続けてきた「顔を出さない」というスタイルに変化が見えたことで、SNSでは賛否が分かれている。

「めちゃくちゃ美人」「目がすごく綺麗」「アー写のイラストそっくり!」といったルックスへの称賛が広がる一方、ファンからは「顔出ししないのがAdoの魅力だった」「神秘性が薄れてしまう」「歌だけで頑張ってほしかったのに」といった戸惑いの声も上がっている。

ファンの困惑の背景には、Adoというアーティストの特異な成り立ちがある。「顔を見せないこと」は、Adoのアーティスト像を形成する大きな要素だったからだ。

Adoは2020年に発売したメジャーデビュー曲『うっせぇわ』で社会現象級のヒットを記録したが、ブレイク後も本人の顔は公開されず、イラストやアニメーションを中心としたビジュアル戦略を貫いてきた。コンサートでも「檻の中でシルエットだけを見せる」という演出を採用するなど、その徹底ぶりは新たな音楽文化を生み出したともいえる。

興味深いのは、この「顔出ししない」姿勢に対して、ファンが非常に好意的だった点だ。動画サイトの「歌い手」出身という背景はあるが、歌声と楽曲を前面に出すスタイルは多くのリスナーに受け入れられてきた。

一般的にアーティストが顔を公開しない場合、世間からは「人前に出るのに顔を隠すのはおかしい」「口パクでもわからない」といった疑問が投げかけられがちだ。しかしAdoのファンは「歌だけで勝負している」「ミステリアスな存在感が世界観を作っている」「今の時代、顔を出すリスクを避ける自由があってもいい」といった解釈で擁護するケースが多かった。つまり「顔を見せないこと」自体がAdoのブランドとなっていたのだ。


もともとGReeeeN(現・GRe4N BOYZ)など顔出しなしのバンドは存在していた。しかしAdoがソロアーティストとして顔出しなしのままトップクラスの人気を獲得したことは、音楽シーンに一つの転換点をもたらした。現在ではyamaやtuki.、ずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカなど、顔出しをしないアーティストは珍しくないが、その流れを一般層にまで広げた存在の一人がAdoだ。

Adoは「顔出ししなくてもメインストリームで成功できる」というモデルを浸透させた存在でもあり、それがSNS世代の共感を呼んだ。だからこそ、今回の‟顔出し”が賛否を呼ぶのはある意味で自然なことだろう。

ではなぜ顔出しに踏み切ったのか。その理由としては、自伝的小説と連動した作品だからこそ、本人が実写で登場する演出を選んだ可能性がある。実際、本人もライブ配信でこれが大きな理由だったと明かしている。その一方で、この変化にはキャリア上の戦略があるのではないかとの指摘もある。

近年、Adoは世界33都市で約50万人を動員したワールドツアーを成功させるなど、グローバル展開を積極的に進めている。海外市場では、アーティストのビジュアルがブランドの一部として重要視されるケースが多く、海外でさらなる飛躍を目指すうえで、顔出しを完全に避け続けるのは難しいという事情も考えられる。


また今回のMVでは、顔を正面からはっきり映すカットはなく、横顔やぼかしなどを多用した演出になっている。本人はライブ配信で「(素顔は)今後もシークレット」と語ったが、初期のころはほぼ顔出しをしていなかった米津玄師のように「段階的にビジュアルを解禁していく戦略では」との見方もある。

ただし、Ado本人が今後どの程度まで顔出しを進めるのかについては、現時点では明確に語られていない。それでも今回の出来事が示しているのは、Adoが新しいフェーズに入りつつある可能性だ。Adoの顔出しは「ついに素顔を見せた」という単純な出来事ではない。これまでの活動スタイルそのものを揺るがす“事件”として受け止められ、新たな展開を予感させている。

‟顔を見せない歌姫”として時代を席巻したAdoは、これからどんなアーティスト像を提示していくのか。歓迎する声と戸惑う声が同時に生まれているが、今回の顔出しは新たな可能性を広げるのか。それとも神秘性を失い、Adoというブランドを揺るがす転機となるのか──その答えは、これからのAdoの活動を通して示されていくことになるのだろう。

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