2000年に放送され、最高視聴率34.2%を記録したフジテレビドラマ『やまとなでしこ』がTVerで初配信されている。本作は、松嶋菜々子演じる神野桜子が王子様を求めて東京で奮闘するロマンティックな物語だ。
放送から26年が経った今も色褪せることなく、名作として語り継がれている。

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◆なぜ、私たちは桜子に魅了されるのか

『やまとなでしこ』は1978年の富山県の漁村の場面から始まる。桜子のきょうだいが魚を焼き、「ほら、飯できたぞ。食えー!」と新聞の上に置き、幼い桜子がそれを不満げに見つめる姿が印象的だ。

桜子は貧乏をこの世で一番嫌っている。大金持ちの男性と結婚するためスチュワーデスとなり、フライト中も男探しに余念がなく、余暇は合コン三昧。男性選びの基準は‟年収” ‟不動産” ‟遺産”の3つで、富裕層の象徴である「馬主ピン持ち」であれば89歳でもかまわない。

塩田若葉(矢田亜希子)からは「ゆがんでいる」と言われることもあるが、若菜を含め同性の同僚から嫌われるどころか、むしろ愛されている。桜子を憎めないのは、美貌だけではなく、内面の清らかさと無邪気さがあるからだ。

2話には、夜遅く、桜子が中原欧介(堤真一)と公園の高い門を乗り越えて忍び込み、ボートで遊び、水に落ちるシーンがある。このシーンの桜子の表情は晴れやかで、全身から社会の規範に縛られない自由さがあふれ出している。

また、桜子は人生を切り拓く力に長け、幸せになるため妥協をしない。
4話では、婚活による過労で東十条司(東幹久)の病院に入院中、司との病室ディナーの約束、交際相手との食事の約束をすべて果たすため、ときにはハイヒールを脱いで走りまわっていた。筆者は桜子を見ていると、彼女の‟幸せになってやる!”というガッツに鼓舞される。

最近気づいたことだが、桜子は資産家の男性との結婚を望むものの、交際相手からお金の援助は受けていないし、高価なものをほとんどねだっていない。男をお金と見做す女性としては珍しく、それが清らかなイメージにつながっている気がする

◆桜子の‟嘘”に令和の女性も共感

桜子は男性の前でハイブランドに身を包み、婚約者には代官山を象徴する高級マンションを自分の住まいだと言い張っている。実際の桜子は狭く古いマンションに洋服を詰め込んで生活し、ラフな服装でカップヌードルを食べる日も多い。

現代の女性も理想の自分を演出するために必死だ。洗練されたファッションの裏に狭いアパート暮らしが隠れている女性もいる。また、ときには嘘をついてでも、理想の自分をSNSで不特定多数に見せようと一生懸命な女性も少なくない。

本作の5話にも出てきたフォクシーの洋服が好きな筆者にも、少なからずそうしたところがある。だからこそ、理想の姿をミスなく貫き通す桜子の苦労と、自己演出における天性の器用さを思うと、同性として心から尊敬してしまう。

放送当時は三高(高学歴、高収入、高身長)が結婚観の主流であったが、現代における結婚観はYSK(優しさ、自然体、価値観一致)ともいわれる。それでも、本当の自分をさらけ出せる相手に安心感を抱きつつも、司のような資産家の男性に憧れる女性は少なくないだろう。


本作には、桜子が欧介と出会った日に着ていたヴァレンティノの白いセットアップ、司が桜子にプレゼントしたロレックスのカメレオンなど、きらびやかなアイテムが数多く登場する。今の時代、大手航空会社勤務であっても、こうしたハイブランドにはなかなか手が出ない。円の価値や生活水準の変化を感じ、どこか寂しさを覚える。一方で、女性の憧れや格闘はいつの時代も変わらないのだと気づかされる。

◆この世界には運命の人がいるはず

桜子と欧介を見ていると、この世界には運命の相手がいるんだと信じたくなる。4話では、欧介が「数学や物理は神様のチェスを横から眺め、ルールや美しい法則を探すこと。人と人の出会いもルールに則っているのかもしれない」と、結婚式でロマンティックなスピーチをしていた。

自分のパートナーとなる存在がこの世界のどこかにいると思うと、社会の見え方が少し変わってくるような気がする。

また、漁師の娘である桜子が最終的に選んだのは魚屋が家業の欧介であったが、人は出自を否定しても、完全には断ち切れないことがほのめかされているようにも思える。自分のありのままを受け入れることでこそ、幸せになれるのかもしれない。

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