Netflixで配信中の『This is I』は、すでに2回ほど繰り返し観たけれど、やっぱり泣いてしまう。なぜなのか理由を探っていくと、たどり着くのは映画に流れてくるジャパニーズポップス。
本作では12曲の昭和、平成のヒット曲が使用されている。往々にして、物語の緩急を後押しする大事な役割を担う楽曲たち。今回は、中でも印象に残った3曲をピックアップしつつ、映画のワンシーンを振り返ろう。

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◆懐かしい楽曲が映画を飾る

『This is I』はタレントのはるな愛の半生と、彼女の性転換手術を担当した医師をモチーフにした130分間。まずは物語のあらましをご案内しよう。

“ケンジ(のちにアイ/望月春希)は自分が周囲の人間とは違う属性であると、うっすら気づいていた。それでも聖子ちゃんのようなアイドルになりたい夢だけはあきらめず、成長とともに乖離していく心と体のバランスをとりながら、必死に生きていた。そんな最中、形成外科医の和田耕治(斎藤工)と出会い、性適合手術を決意するアイ。ショーパブでニューハーフとして働きながら、恋愛も経験する。さらに幼少期からの願望であった、アイドルへの道も進み、悩み、動き、タレント「はるな愛」として、ブレイクをしていく”――。

劇中ではシチュエーションに合わせて、以下の懐かしい曲が流れてくる。

プリンセス プリンセス「Diamonds」
松田聖子「夏の扉」「チェリーブラッサム」「SWEET MEMORIES」
山下久美子「赤道小町ドキッ」
中森明菜「スローモーション」
チェッカーズ「あの娘とスキャンダル」
TRF「survival dAnce ~no no cry more~」
杏里「オリビアを聴きながら」
渡辺美里「My Revolution」
松浦亜弥「ね~え?」「Yeah! めっちゃホリディ」

◆歌詞に心を押される4曲をピックアップ

この中で私が印象に残ったシーンと楽曲は、まず中森明菜の「スローモーション」。
今年、20年ぶりにライブの開催も予定されている歌姫のデビュー曲だ。アイがショーパブを訪れた和田医師と出会うシーンで流れていた。形成外科医としての在り方に懊悩としていた和田は、ふと目の前に現れたアイに“何か”を覚える。おおよそ今から30年前の日本ではスタンダードではなかった性別適合手術の執刀をアイから懇願されて、逡巡する和田。思い返せば、物語のすべてはこの曲から始まっていたのかもしれない。ゆるやかに流れてくるイントロに、脳が和む。

続いて松田聖子「夏の扉」。64歳にして現役のアイドルであり、発売から30年経っても、いまだにご本人のライブのアンコール前、締めくくりに歌われている曲だ。聖子ちゃんのライブは夏本番前の時期に開催される傾向にあり、この曲を聴いて、ファンたちは夏の扉を開ける。実は私もそのひとりだ。劇中では冒頭に流れ、聖子ちゃんのモノマネをしながら楽しそうに歌う小学生のケンジがいる。そしてラスト間近でアイがニューハーフのミスコンに挑戦するシーンも彩る。
つまりひとりの人間の始まりと終わりに使われた、明るい勢いを感じさせる楽曲。いや、もう聴くだけでこちらも歌いたい衝動に駆られる。

次いで、あややこと松浦亜弥「ね~え?」。はるな愛といえば「エアあやや」で大ブレイクを果たしたのだから、本作とは切っても切れない関係性がある。あやや本人もハロプロの並み居るアイドル軍勢でも、とんでもない人気を放っていた。歌唱力とダンス、私生活を感じさせない存在感はプロ中のプロ。彼女の登場だけで、華やいでいた当時を思い出す。東京へ上京してきたアイが思うような仕事に恵まれず、努力を重ねて、テレビで活躍が始まるアイの背後に流れている。

そして本作でいちばん印象に残ったのは渡辺美里「My Revolution」。ラストシーンで流れるので演出詳細は控えるが、この一曲のおかげで私は泣いた。なんとなく見始めて、いつの間にか夢中になり、ラストで涙。「わかり始めたMy Revolution 明日を乱すことさ」フィナーレを飾るにふさわしい楽曲だった。
40年前に発売された一曲はドラマ『セーラー服通り』(TBS系・1986年)の主題歌に抜擢されて、当時大ヒット。タイトルのごとく、私の=アイの革命を言いたかったのだろう。

懐メロとアイの挑戦は見事にリンクしていた。これから観る人も、もう一度観る人も一度、楽曲にもスポットライトをぜひ。

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