漫画家・峰なゆかが、AV女優として活動していた経験を基に描いた半自伝的作品『AV女優ちゃん』1巻(扶桑社)が大きな話題となっている。AV業界の内幕を描きつつ、性にまつわる男女の社会的な問題まで内包。
AV業界の実態を通して、女として生きる自由と不自由を問いかける意欲作が生まれた背景について、著者の峰なゆかに話を聞いた。

【写真】峰なゆかの近影&『AV女優ちゃん』の印象的なシーン

ーー『AV女優ちゃん』は、峰さんだからこそ切り込めるAV業界の裏側から、様々な女性の生き様までが描かれていて目が離せません!

峰 『アラサーちゃん』(扶桑社)を描いているときは、「これって峰さんのことですよね?」ってよく言われたんですけど、あれはあくまでも『アラサーちゃん』というキャラクターを意識して描いていたので、私そのものではないんです。なので、今回の『AV女優ちゃん』は、もっとちゃんとしてない、わりと人生がどうでもよくなっていた頃の、私自身について描こうかなって…。

ーーAV女優になる以前の、高校生の頃のエピソードなどは衝撃的でした。いわゆるヤリマンと呼ばれる女子たちのヒエラルキーが一番高くて、不良とセックスすることがステータス、みたいな。

峰 私自身はそれが普通だと思ってんですけど、東京に出てきてから「あれ、ウチの地元がおかしいんだ」って気づきました。根性焼きはオシャレじゃないんだなって(笑)。

自伝的漫画『AV女優ちゃん』作者・峰なゆかが語る「女性だけでなく、男性の生きづらさにも興味がある」


ーー東京に修学旅行に来たときに電車で痴漢に遭い、「性の対象にされてるという実感があって嬉しかった」というお話も…。

峰 これも実話ですね。女性の読者からは、『わかる』『今はそんなことないってわかるけど、学生の時は痴漢されることはステイタスみたいに勘違いしてしまっていた』っていう声もたくさんありました。ただ、これを読んだ男性にが「女性はみんな痴漢されて喜んでるんだ」とは絶対思ってほしくないんですよ。勘違いされてしまうのはわかってますけど、あえて多くは説明しないようにしていて。
そういう短絡的な反応をする頭が悪い人に対しては、ガン無視しようって決めてます。

ーー想像力や読解力のない人は、どうしてもいますもんね。

峰 痴漢が犯罪だというは絶対悪で、されたら大変な心の傷を負うというのは大前提じゃないですか。だからといって過剰に配慮した表現をすることで、ちゃんと理解できる層が思考停止してしまうのもよくないですよね。

ーーAV業界を舞台にしているだけあって、女性の性の搾取の構造や、強引ともいえる契約をたてに基にAV出演を強要すされる「出演強要問題」にも切り込んでいるように感じます。単行本の巻末でも、フェミニストであり、女性学研究家の田嶋陽子さんと対談されていますね。

峰 そこまで問題提起をしたいわけじゃないんですけどね……。田嶋陽子さんとの対談で私自身のフェミニズムに対する考え方の、点と点がつながるような感覚は、確かにあったんですよ。でも、私自身はフェミニストではないし、そういう活動をするつもりはないんですよね。ただ、現代を生きる社会人のリテラシーとして、フェミニズムは理解しているし、そのいい部分も悪い部分も踏まえて表現していきたいとは思います。

ーーフェミニズムは社会人のリテラシー、というのは確かにそうですね。例えば、日常生活で女性を差別するのはよくないって、あたりまえのことだし、差別的な言動をしていたらバカだと思われて自分が損するだけですもんね。


峰 そういう意味では、女性だけでなく男性の生きづらさにも興味があります。私の兄が、チョコレートが好きでいつも買ってるんですけど、バレンタイン前の数週間は、自分で自分にチョコを買う人間だと思われたくなくて、あらかじめまとめ買いしておくっていう話を聞いたんですよ。なにそれって(笑)。男子にそんな重圧感があったのか! っていう。

自伝的漫画『AV女優ちゃん』作者・峰なゆかが語る「女性だけでなく、男性の生きづらさにも興味がある」


ーー一種の自意識過剰ですよね。『AV女優ちゃん』のなかで、峰さんがイベントで生脱ぎパンツをオークションに出したところ、男性ファンがお互いに「ガツガツしてるとは思われたくない」という自意識が出てしまって誰も手を挙げないというエピソードが出てきますが、それと似ているかもしれません。

峰 そういう男性側の気持ちについては、これから掘り下げていきたい。例えばAV業界でいうと、すごく精子にこだわる監督がいるじゃないですか。「本物じゃなきゃ!」って、すごく情熱を注いでいるんですけど、今となっては「なぜ!?」と思う。

ーー確かに、観てる側からしたら、本当に本物の精子なのかは確かめる術がないですよね。

峰 映画で流血するシーンがあったとして、それが本物の血かどうかなんて誰も気にしないじゃないですか。「実は血ノリです」って言って、「ガッカリ」「夢が壊れた」って怒る人はいない。
でもAVだけは本当の精液にこだわるっていう。ファンもそうですけど、なぜこのAV監督はこの職業を選び、本物の精子にこだわるようになったのかなっていうのは興味がありますし、そういう部分も漫画に描いていきたいなとは思いますね。

自伝的漫画『AV女優ちゃん』作者・峰なゆかが語る「女性だけでなく、男性の生きづらさにも興味がある」


ーー本作に限らず、峰さんの作品は背景や小道具のディテールが異様に細かいときがありますよね。『AV女優ちゃん』では、爆乳ちゃん(峰さんと共演する爆乳のAV女優)の元カレの服装とか、部屋の雰囲気とか、非常にリアルで…。

峰 例えば、こういう感じの人って、お皿にラップをかけて保存したおかずを、食卓に出すときに半分だけはがして食卓に出すよね…それは、またラップを戻して使うかもしれないからぜんぶ剥がさないんだな、とか(笑)、そういう部分には確かにこだわってますね。逆に、『AV女優ちゃん』だと頻繁に出てくるアイテムなのに、ビデオカメラの構造とかはぜんぜん興味がなくて、毎回資料を見直したりして描いてます。

ーー『AV女優ちゃん』は、まだ1巻が出たばかりですが、この先も楽しみです!

峰 最近は締切も守っているので、これからも続けられると思います(笑)。 私、妊娠したときに、子供がいるからというのを理由にしないって決めたんですよ。なので、子供が生まれて、そのせいで原稿が遅れたって思われたくないから、むしろちゃんと間に合わせるようになったんです。以前は、ダルいとか体調が悪いとか、いろいろ理由つけて原稿遅らせてたんですけど(笑)。まだ描きたいテーマはたくさんありますし、今後の展開も見守っていただけたらと思います。

▽峰なゆか
漫画家。
女性の恋愛・セックスについての価値観を冷静かつ的確に分析した作風が共感を呼ぶ。『アラサーちゃん』、『アラサーちゃん無修正』 (全7巻)シリーズは累計70万超のベストセラーとなった。

▽『AV女優ちゃん』1巻
出版社:扶桑社
2020年12月19日発売
定価:本体900円+税

第一話の無料試し読みが、日刊 SPA!にて公開中
https://nikkan-spa.jp/1616382

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