昨年10月の今季開幕戦は100万視聴を突破し、盛り上がりが過熱する麻雀プロリーグ「Mリーグ」。そこで2年に満たないプロ歴でありながら、リーグ初年度の優勝チーム・赤坂ドリブンズにドラフトで指名され、歴戦の猛者たちと闘っているのが丸山奏子プロだ。
年明け早々に、Mリーガーでは初めて新型コロナウイルスに感染、休場を余儀なくされたがようやく復帰。小柄で愛くるしいルックスと、対局時の真剣な表情のギャップからファンもどんどん増えている彼女は、いかにしてただの麻雀好きから「シンデレラガール」になったのか――。(2回連載の2回目)

【写真】小柄で愛くるしいルックスも人気に、丸山プロの撮り下ろしカット【11点】

※インタビュー(1)丸山奏子の麻雀シンデレラストーリー「就職先も麻雀で見つけました」はこちらから。

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――努力の甲斐あって見事に合格。働きながらプロのリーグ戦で対局するようになるわけですが、当時の麻雀プロとしての収入は?

丸山 ほぼなかったですね。たまに雀荘のゲストや、放送対局の仕事はあって、1年目の新人女流プロにしては十分仕事をいただけていた方だと思いますけど、会費を払う必要もあるしそれだけで生活できるものではなかったです。フルタイムで仕事して麻雀関係の仕事を増やすことも難しかったので、「これを仕事にしていくのは無理だな」と当時は思っていました。

――そうしていたら、なぜか麻雀業界の最高峰のMリーグでドラフト指名された、と。丸山さんのプロ試験での受け答えを、ドリブンズの先輩の園田賢プロが評価して、チームに推薦したという話は有名です。

丸山 当時、園田さんは酔っぱらうたびにその話をしていて、「ハードルが上がっちゃうからやめてよ~」と思っていました(笑)。でもトントン拍子で物事がうまくいきすぎていて、「私死ぬのかな?」って思いました(笑)。プロになれて、放送されるような対局にも呼んでいただけただけでもすごいのに、こんなにいいことが続いていいのか? っていう感覚ですね。


――Mリーグのデビュー戦では、リーグ初年度の個人成績トップ3のプロ3人を相手に、最終局で大逆転する劇的な勝利を収めました。Mリーグファンの間でも大きく話題になりましたね。

丸山 ありがとうございます。でもあれは見え方が良すぎたというか。自分の実力に対して過剰にドラマチックになってしまった気がしていました。初トップはうれしかったけど、勝ったことが逆にプレッシャーになって。

――それは意外です。

丸山 開幕前はウキウキして、いい事ばっかり想像していたけど、実際にやっていくに連れて、自分は他のプロに比べて明らかにレベルが低いと実感してしまうことも多かったです。19年はチームとしてマイナスが先行していて、先輩たちとの関係も今くらい出来上がっているわけじゃなかったので、「自分がお荷物になってるんじゃないか」ってどんどん不安になっていくんですよ。苦しいし、きつかったです。

――あんなに楽しかった麻雀を楽しめなくなった?

丸山 そうですね。「他に出るべき選手がいるからドラフトを辞退しろ」っていうリプもいただいたりしていたので、「もっとちゃんと麻雀を打てなきゃいけない」って思い過ぎていたと思います。
それで実力が追い付いていないから自分にがっかりする、みたいなことの繰り返しでした。一番ひどいときは、対戦相手に対して「リーチって言ってほしい」って思ってました。そうすれば、降りられるから(降りる=相手のあがり牌を打たないように、自分の手を崩して回避すること)。ヤバくないですか? あがりを目指すゲームなのに「やった、降りれる」なんて。

――どうやってメンタルを立て直したんですか?

丸山 チームメイトの村上淳プロが、私を控室から試合会場に送り出すときに「楽しんで」って声をかけてくれたのが、自分的にはすごく大きかったです。まずは楽しもう、って。そしてできないことをすぐできるようになろうと思わず、ちょっとずつできることを増やしていこう、って切り替えたら、リーグ戦の後半ぐらいでようやく、試合中に逃げ出したくなるようなことはなくなりました。あとは、シーズン終了後に自分のリーグ戦やセットを打ったりしていくうちに、以前よりも成長できている実感があって、前向きになれたかな。いまは毎回「勝とう!」と思って試合に臨むことが出来ていると思います。

――それは何よりです。

丸山 1年間、ドリブンズの先輩たちと勉強してきて感じたのは、3人とも強いけど、3人の選択や意見が合わないこともよくあるんです。麻雀にはこれだけが正解、っていうのはなくて、0か100かで測れるものじゃないんだな、って。
だから、自分の選択がマジョリティじゃなくて、「それはあり得ない」っていう意見をいただいたとしても、私は私の意図をもってあえてこうしている、という事もあるので、「絶対にこうしなきゃいけない」っていうのをまず自分の中から消そうと思っています。

それに、「これをこういう風に打っておけば怒られないだろう」という、見栄えが悪くない、無難な選択は選びたくないな、っていう思いもあって。無難っていうのは思考を止めるのに似ているというか。私の選択が30点なこともあるだろうけど、それにおびえずにどんどん考えて、その時いいと思った麻雀を打っていきたいと思ってやっています。Mリーグというすごいステージに立たせていただいていて、それは本当にありがたいことですけど、いまはまだ自分が強くなるための過程の段階だから、これからもっともっと強くなる、自分が満足できる麻雀を打つために必死で頑張っていきたいです。

丸山奏子 まるやま・かなこ
Mリーグ・赤坂ドリブンズ/最高位選日本プロ麻雀協会所属、北海道出身。
Twitter:@pinpin_maruko
(インタビューは2020年12月25日に行いました)
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