愛用する腕時計を手がかりに"人生の時"を語ってもらうインタビュー連載『夢を刻む、芸人の時計』。テレビでおなじみのあの芸人は、どんな若手時代を過ごし、ブレイクの瞬間を迎え、どうやって未来を刻んでいくのだろうか? そのストーリーに迫る。
話を聞いたのは、お笑いコンビ マヂカルラブリーの村上さん。1984年10月15日生まれの愛知県新城市出身、法政大学お笑いサークルHOS(5期)所属。2007年の大学卒業を機に、野田クリスタルさんとマヂカルラブリーを結成。その後、吉本興業の所属となる。
○尖っていた大学生時代、感じた"プロ芸人"と"面白い人"の違い
――始めに、人生で初めて購入した腕時計について伺いたいと思います。
小学生のときにはもう着けてましたね。2,000~3,000円ぐらいのどこのメーカーなのかもわからない時計で、家の近くの雑貨屋さんで買ったような気がします。買わなきゃいけないと思った理由は、多分お父さんが着けてたから。ずっと腕時計を着けている人だったので、"男の人は時計を着けるものだ"みたいに感じていたんだと思います。
――では、自分で初めて「欲しい」と思って買った時計はどんなものでしたか?
オメガのスピードマスターじゃないかな。大学生、20歳のときですね。ブランド物の財布を持ち始めたりとか、大学生って背伸びしたくなる時期じゃないですか。
きっかけは、おばあちゃんから成人のお祝いで10万円をもらったことです。いまでは信じられない、夢みたいな話ですけど、当時は本当に、10万円ぐらいで売ってた気がするんですよ。なんかオメガって聞いたことあるし、10万円くらいで買えたから買ったという感じでした。
――大学ではお笑いサークルに所属されていたとのこと、当時から芸人を目指していたのですか?
20歳の頃は"芸人になれるわけがない"と思ってました。なりたいんですよ、なりたいんですけど、なれるわけないと判断して、諦めていました。実際、大学では教職課程をとっていたくらいですから。
だから、お笑いをこじらせちゃってましたね。アングラのライブを見に行きすぎて、裸になって無茶する、体につまようじを刺していく、みたいな芸を"面白い"と判断していて。もはや吉本は薄味すぎて、客に媚びた芸人しかいない、つまらないとすら思ってました(笑)。
――尖ってましたね!(笑)
尖ってたと思いますね(笑)。
お笑い芸人というよりも、街のやばい人の方が面白いとも思ってました。
大学って変な人がいるじゃないですか。当時のキャンパスにも、坊主頭で40歳ぐらいで、下駄履いて学ラン着て、サマンサタバサのバッグを持ってるやつがいたんですよ。「芋男爵」って名乗ってました。そういうやつが面白いと思ってました。
――お笑いサークルでご自身も舞台に立たれていたんですよね。
高校生の時もお笑いはやっていたのですが、身内じゃないお客さんの前に出たのは、大学が初めてでした。だから、サークルでの初舞台は印象深いですね。
客席には、お笑いサークルが持ってるお客さんみたいなのがいるわけですけど、新入生の僕らのことなんか誰も知らないじゃないですか。そこでやったネタが本当にウケなくて、それがすごい思い出に残ってます。「高校であんなにもウケたのに……」みたいなギャップがすごくありました。
――知らない相手に対してネタがウケない体験をして、どう感じましたか?
「悔しい! 」「なんでだ!?」「こんちくしょう!!」という気持ちもあるんですが、それよりも「プロになりたい気持ちがちょっとあったけど、なれないよね」と思いました。
同じ舞台にプロの芸人さんもゲストとして立っていて、当時はどきどきキャンプさんとか出ていて。
――大学の「面白い人」とプロ芸人の違いってなんなのでしょうか?
大学の面白い人は「本当に面白い」なんですよ。でもプロの芸人はそういうもやもやした「面白い」をキューっと凝縮させている感じですよね。「下駄履いて学ラン着て歩くこともできるけど、あえてやらない」みたいな。そのときのプロの人たちはかっこよく見えましたね。
――その後もずっといままで、お笑いを続けられているわけですが、やめたいと思ったことはないですか?
ないです。これはないんですよ。「なんだか楽しい」というので、ずっと来てますね。
これまでの芸人生活を振り返ると、中でも「M-1グランプリ」で初めて決勝進出が決まったときから、決勝当日までの、最初の2日ぐらいが一番楽しかったですね。もう行く現場行く現場で「おめでとう!」って言われて、まだ優勝の可能性もある。ここがずっと続けば本当に楽しい人生だなぁと思います。
決勝当日は出ちゃうのでね、結果が(笑)。僕ら最下位だったんで、そこを知る前の方が、幸せでしたね(笑)
○人生を刻みたい、ジャガー・ルクルトの「レベルソ」
――いまの自分にとって腕時計とはどんな存在ですか?
時間を見るものです。僕、結構時間に厳しいタイプで、旅行に行っても「ここに何分まで」「ここは何分で観光する」って、最初にざっくり予定を決めるタイプなんです。常に「ちょっと時間押してるね」とか思うんで、時間をすごい見てますね。
効率がすごい大事なので、そのためにも腕時計は重要です。席に座っているときにモゾモゾとスマホを取り出して時間を見るのってダルいじゃないですか。腕時計をしていれば、マジで一瞬で確認できますから。
あと、人柄を表しているものだと思います。その人の趣味嗜好が見えますよね。良さそうな時計を着けてる人を見ると、「趣味に生きてる人なのかな」「軍物着けてるな」「ギター弾きそうだな」みたいに、つい想像してしまいます(笑)
――いま、大事にされてる腕時計について伺いたいと思います。
ジャガー・ルクルトの「レベルソ」です。一番大事にしています。
「レベルソ」はもともと、ポロ競技用につくられた時計なんですって。だから試合中に割れないように文字盤を裏返すことができるんです。いまとなっては意味のない歴史的なギミックですが、それがまたいいんですよ!
で、文字盤の裏に「文字入れられますよ」って言われたので「Forever Love」って入れてもらいました。婚約指輪のお返しなんで「Forever Love」しかないんじゃないかなって。ド直球ですが、照れちゃって、ボケみたいにしたかったのかもしれないですね(笑)。「Forever Love」って入ってるので売れないし、売る気もないし。この「レベルソ」だけは本当になにがあっても手放せないというか。
――舞台に立つときも着けていらっしゃるんですか?
基本はこれを着けてますね。
尾崎豊さんが生前愛用していた時計を、息子の裕哉さんが、形見として身に着けていらっしゃるお話を聞いたことがあって。その時計が、すごい傷だらけなんですよ。それがめっちゃかっこよくて、"人生"って感じがして、そのくらい使い込んだっていいよね、時計を、と思って着けてます。
時計に傷がついたときに「わ~!」ってならない人になりたいんですよね。自分のこの人生と性格上、雑に使う男ではあるんで、そういう風に使って傷ついた時計を、将来もし息子が生まれたらあげたい、そういう感覚になってます。
――いつか手に入れたい時計はありますか?
ジェラルド・ジェンタ レトロファンタジーの「ミッキーマウス」とか好きですね。振り上げたゴルフクラブの針で分を刻んで、最後に打つんです。で、戻ってくる。「かわいい時計」「おもちゃみたい」って言われそうですけど、200万円くらいするわけです。そうしたやり取りが生まれる時計っていうのが、またかっこいいですよね。
それから、ヴァンクリーフ&アーペルの「ミッドナイト ポン デ ザムルー」も欲しいですね。めっちゃかわいくないですか、時間はめっちゃ見にくいと思うんですけど、工芸品としてすごい。
こんな高い時計は当分先でしょうけど、40歳になったので記念になにか買いたいなとは思ってます。時計の分布図におけるランゲとかIWCの位置がやっぱ私の好きなところなんですよね。誰からもナメられないけど、ポップすぎなくて、有名になりすぎていないみたいな。ミュージシャンとかもそういう位置の人が好きですね。
○"犬と嫁と僕"、3人家族がソファでくつろぐ時間を大切に
――いま一番大切にしている時間について教えてください。
家に帰ると、ソファに奥さんと犬が座ってテレビとか観てて、帰ってきた僕に犬が吠えている、みたいな時間ですね。勝手な解釈なんですが、僕には犬が「早くこっちに来い!」「一緒にいようよ」って言っているように聞こえるんですよ。犬が家族を仲良くさせようとしている感じがして、"優し切ない"気持ちになるというか、泣きそうになるんですよね。
犬と嫁と僕の3人家族がソファに座ってテレビを観たり、今日あったことを話したり聞いたりする時間はとても大事だし、これからも大事にしたいなと思ってますね。
ただ最近は、アニメを観れてないし、パチンコに行く時間もないし、ボートレースをやる時間もないし……もう少し、自分の趣味を自由にできる時間も欲しいですね(笑)。
――大事な腕時計と、これからどんな時間を刻んでいきたいですか?
穏やかな生活がしたいです。FIREしたい!!(笑)
東京でいろんな仕事をできるのも幸せだと思うんですけど、それと同じぐらい「セミリタイアして、田舎ででっかい庭とでっかい犬とでっかい車持つみたいな生活もいいのにな」って想像してしまいます。
「勇気一発の話じゃん、ある程度貯金があればそれで家買って、そこに住んで、そこでの仕事をすればいいのになんでやらないの?」って自分でも思います。そっちの生き方もあるのになって。人生は1回きりなのにって。
芸人を続けながら、芸人を続けられる場所で――時間を使いながら答えを出していきたいですね、50歳くらいまでには。
【チケット販売中】マジカルラブリー・囲碁将棋のワクワクドキドキツアーin愛媛
日時:9月5日(金)18:30開場/19:00開演
会場:松前総合文化センター広域学習ホール(愛媛県伊予郡松前町筒井633)
出演者:マヂカルラブリー、囲碁将棋、ジャングルポケット(ゲスト)
チケット料金:4,000円(前売)、4,500円(当日)