●ピン芸人ならではのやりがいを感じられるように
4度目の単独ライブ「BBZ Selection2025」を今年10月に開催する馬場園梓。ピン芸人として新たな道を歩み始めて4年。
俳優業など多岐にわたる活躍を見せる彼女が、それでもお笑いの舞台にこだわり続けるのはなぜか。ピン芸人になったからこそ得た自由と、味わった壮絶な苦悩。そして、コンビ時代に果たせなかった夢を、今再び追いかける彼女の覚悟に迫る。

4度目となる単独ライブへの意気込みを尋ねると、馬場園の口から出たのは「ようやく楽しくなってきた」という言葉だった。コンビからピン芸人へ。その転身は、暗闇の中を手探りで進むような、孤独な挑戦の始まりだった。

「1回目は何もかもが初めてで、漫才とはネタの作り方が全く違うので、本当に分からないことだらけでした。楽しむ余裕なんてなく、ただ必死でしたね。それでもお客さんが笑ってくださった。お客さんの前でやらないと、いつまで経っても何が正解か分からないんだと痛感しました」

恐怖から始まった挑戦は、回を重ねるごとに確かな手応えへと変わっていく。

「3回目で『自分のやりたいことはこれかもしれない』という形が見えてきて、今回の4回目は『これもやりたい、あれもやりたい』と、やりたいことが次々に溢れてくる状態です。探り探りだったのが、はっきりとした意志に変わってきた。
自分の中で成長できているのかなと思います」

コンビ時代は、阿吽の呼吸で笑いを生み出すのが醍醐味だった。しかし一人になった今、たった1人で舞台の全てを担う中で、新たな面白さを見出していた。

「舞台に上がって、お客さんの雰囲気を見ながらアドリブを付け足しても、誰にも迷惑がかからないんです(笑)。最初は不安でしたが、今は『これをうまく使えばもっと自由にできる』というメリットに感じられます。コンビだと暴走はできませんから。お客さんと私、一対一の関係に集中できる自由さは、ピン芸人ならではのやりがいですね」

○「全員が雲の上の人」 ピン芸人になって知った本当の凄み

自由とやりがいの裏側には、想像を絶する困難があった。コンビ漫才の根幹を成す「ツッコミ」という役割がなくなること。それは、笑いの道標を失うことに等しかった。

「ツッコミがいないと、お客さんに『ここが笑いどころですよ』と示す方法が分からなかったんです。コントにしても、1人だと架空の人物と会話することになる。それが見ている方にちゃんと伝わっているのかが一番の不安でした」

ピン芸人はその判断も、GOサインも、全て自分1人で下さなければならない。その孤独な作業は、彼女を極限まで追い詰めていった。


「1回目の単独ライブのときは、神経質になりすぎて本当におかしくなりました。寝ているのか起きているのか境目が分からなくなり、食事や入浴を何回もしてしまうほどネタに没入していました。自分が納得できる限界までやらないと、お客さんの前には立てなかったんです」

その経験を経て、彼女は改めてピンで活動する芸人たちへの尊敬の念を抱いたという。

「もう、後輩とか関係なく、全員にひれ伏したいです。これをずっと1人で突き詰めてきたのかと思うと、全員が雲の上の人のように感じます。横で突っ込んでくれる人がいるのといないのとでは、何もかもが違う。本当に改めて尊敬しました」

●一度は途絶えかけた夢をもう一度、新たな目標に
コンビ解散後、馬場園は一度、芸人としての足場を失った。「ピン芸人の馬場園梓」としてネタをやると言っても、劇場がすぐに扉を開けてくれるわけではなかった。

「これまでは当たり前のようにいただけていた劇場の出番も、ピンになったらゼロからのスタートでした。それでもこうしてライブに来てくださる方がいること、たまに劇場に呼んでいただけること。その一回一回が、どれほどありがたいことか、身に染みて感じています」

俳優やタレントとしても活躍できる地盤がある。それでも馬場園が、いばらの道ともいえるピン芸人としての活動にこだわるのには、明確な理由があった。


「昔から『NGK(なんばグランド花月)のトリを取れるような漫才師になりたい』という夢があったんです。だから、その夢をもう一度、新たな目標に掲げてやってみよう、と。ここで辞めたら、きっと一生悔いが残ると思いました」

そのストイックさの源泉は、一つのことをやり始めると見境がなくなるほど視野がせまくなってしまう性格。

「私、ゲームも一度始めるとクリアするまで寝ずに何日もやり続けてしまうんです。一つのことに没入すると、他が何も手につかなくなる。でも、自分のペースで、この『突き詰めるまでやめられない』という性格を、お笑いという好きなことにだけ注ぎ込めている。それはすごく幸せなことだと思います」

○自分の道を一歩一歩マイペースで

そんな彼女が今、見据える未来は明確だ。

「目標は、1人で全国ツアーを回れるようになること。そして最終的には、なんばグランド花月でトリを取りたいです。もちろん、今すぐは無理ですけど、何歳になってもそれが目標です。イッセー尾形さんは、俳優としても大活躍されていますが、今も単独ライブをやられているのを見て、めちゃくちゃかっこいいなと。私もそんな風になりたいんです」

かつては人前に出るのが苦手な引っ込み思案な少女だった。
そんな彼女にとって、ブラウン管の向こうで輝いていた女性漫才師たちは希望そのものだった。

「いくよ・くるよ師匠とか、若井小づえ・みどり師匠とか。男性ばかりの漫才の世界で、堂々と笑いを取っている姿が本当にかっこよくて。私にとってお笑いは、生きていくための“栄養”なんです」

憧れの存在は数多くいるが、人と比べたら、怖気づいてしまう。だから比べない。「渡辺直美ちゃんや、ゆりやん(レトリィバァ)のように、世界を舞台に活躍する芸人さんってすごいですよね」と後輩でもしっかりと尊敬できるという馬場園の人間性は素敵だが、それでも自分は自分の道を行く。「マイペースで、こだわって、悔いのないように」。それが、彼女がたどり着いた答えだ。一度は途絶えかけた夢の続きを、馬場園は今、自分だけの足で、一歩一歩、確かに歩んでいる。その結晶とも言える表現の場が単独ライブ「BBZ Selection2025」だ。

■馬場園梓
1981年3月1日生まれ、大阪府出身。1997年、NSC時代に隅田美保とお笑いコンビ・アジアンを結成し、一度解散するも2002年に再結成。
『M-1グランプリ2005』で女性コンビとして初めて決勝に進出。『女芸人No.1決定戦 THE W 2017』では第3位に。2021年6月にコンビを解散し、その後はピン芸人として活動。ドラマや映画などにも出演している。単独ライブ「BBZ selection2025」は、10月12日に東京・人形町劇場rabbit、10月19日に大阪・大阪日本橋ポルックスシアターにて開催。
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