ALSOK杯第75期王将戦(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は二次予選が大詰め。8月27日(水)には伊藤匠叡王―広瀬章人九段の一戦が東京・将棋会館で行われました。
力戦調の相掛かりに進み、受けの強さを見せた伊藤叡王が126手で勝利。安定感ある指し回しを披露して自身初となる挑戦者決定リーグ戦進出を決めています。
○新時代の相掛かり棒銀
ともに二次予選から登場の二人。伊藤叡王は渡辺和史七段、広瀬九段は三枚堂達也七段にそれぞれ勝って挑戦者決定リーグ戦進出を懸けた大一番に臨みます。振り駒が行われた本局は先手となった広瀬九段が誘導する格好で両者得意の相掛かりへと進展。4筋に銀を上がって持久戦を望む広瀬九段に対し、伊藤叡王は棒銀の要領ですばやく銀を繰り出し先手に守勢を強いました。
伊藤叡王の棒銀はすぐに銀交換を挑むものではなく、銀交換や端攻めをチラつかせることで相手の駒組みを制限するもの。「攻めの銀と守りの銀の交換は攻撃側の得」という考えが主流だった平成の棒銀とはこの点で一線を画します。穏やかな第二次駒組みに移った盤上はやがて広瀬九段が角交換を挑むことで動きはじめました。後手の伊藤叡王はここから丁寧な受けでリードを奪います。
○懐深い快勝譜
先手の攻めは歩の手筋を主軸としたシャープなものですが、攻めの主軸となるべき銀の援助がないだけにどこか迫力がありません。決め手を欠いた広瀬九段が一息ついたとき、伊藤叡王は攻め駒を攻める飛車寄りで角の捕獲に成功。
そのまま手に乗って反撃開始の狼煙を上げました。流れるような手順を経て、広瀬玉はあっという間に2枚の桂に包囲されています。
終局時刻は16時58分、最後は自玉の受けなしを認めた広瀬九段が投了。一局を振り返ると、最初は棒銀に構えつつ丁寧な受けで先手の攻めを誘い、駒得に転じてからは素早い寄せを見せた伊藤叡王の快勝譜となりました。大一番を制して自身初となる挑戦者決定リーグ戦進出が決定した伊藤叡王は局後「目標にしていたので良かった」と喜びを語りました。
水留啓(将棋情報局)
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