第46回将棋日本シリーズJTプロ公式戦は2回戦が進行中。8月30日(土)には広瀬章人九段―永瀬拓矢九段の一戦が香川県高松市の「サンメッセ香川」で行われました。
対局の結果、角換わり腰掛け銀のねじり合いから抜け出した永瀬九段が143手で勝利。安定した指し回しを見せてベスト4進出を決めています。
○腰掛け銀初期の定跡

永瀬九段は本局から、広瀬九段は豊島将之九段に勝っての登場。振り駒が行われた本局は、先手となった永瀬九段が得意の角換わり腰掛け銀で先攻する展開となりました。広瀬九段が用意した玉引きは守勢を受け入れるものの、すこし古い定跡形を引っ張り出して鉱脈を見つけたいという考え。先手は桂損ながらも代償として1筋を食い破ることができたのが主張。互角の中盤戦が続きます。

持ち時間10分の早指しらしくサクサク指し手が進みます。手番を握った永瀬九段はタダのところに角を放り込む鬼手で攻めを継続。形勢こそいい勝負ながら、先手のほうに勢いある指し手が続いており、この点が広瀬九段の悲観を招く結果となりました。この直後、角を見捨てて竜を作ったのが永瀬九段の勝因で、一方的に竜を作って攻めが切れなくなっています。

○充実のベスト4進出

リードを奪ってからの永瀬九段の指し手は冷静でした。
銀捨てで入手した歩を金頭にたたいたのが最後の決め手。後手玉を一方的に寄せる形が実現して形勢がはっきりしました。広瀬九段も成駒を作って永瀬陣に侵入しますが、攻めの速度が足りていませんでした。終局時刻は16時58分(対局開始15時36分)、最後は自玉の即詰みを認めた広瀬九段が投了。
広瀬九段は局後「竜を作られて一方的になってしまった」と悔しさをにじませました。

一局を振り返ると、攻めが一段落したように思われた局面(75手目)で永瀬九段の放ったタダ捨ての角が好手。早指しのなか、後手に絶えず繊細な受けを強要することで小さなミスを誘ってリードを拡大した格好です。タイトル戦含め直近の公式戦で5連勝とした永瀬九段はベスト4に進出、準決勝では伊藤匠叡王―佐藤天彦九段戦の勝者と対戦します。

水留啓(将棋情報局)
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