●藤岡家に伝わる教え「子供は宝である」「子供を命がけで守りなさい」
俳優、武道家、そして探検家――常に圧倒的な生命力で時代を駆け抜けてきた藤岡弘、。その強さと優しさの源流には、藤岡家に代々受け継がれる「子供は宝」という揺るぎない教えと、武士の魂があるという。
そんな藤岡が、ディズニープラス スターのドラマシリーズ最新作『エイリアン:アース』(独占配信中)を観て「いまの世の中、決して非現実的なことではない」と危機感を募らせる。『エイリアン』シリーズ初となる地球にエイリアンが来襲する惨劇が描かれる本作。藤岡には、これまでの人生を振り返りいろいろな思いが胸に去来したという――。

SF映画の金字塔『エイリアン』の初のドラマシリーズ。エイリアンの脅威が初めて地球までやってくる。そのリアルな恐怖を、藤岡は単なる空想の物語としてではなく、現代社会への警鐘として真摯に受け止める。いつ何が起きてもおかしくない時代に「どう生き抜くか」「どう守るか」という根源的な問いを突きつけられた時、藤岡の思考は自ずと、最も守るべき存在である家族へと向かう。

「藤岡家の伝承は『まず子供は宝である』と。『子供を命がけで守りなさい』という教えが代々あるんです。だから私の家系では、子供を守るというのは当たり前のこと。一家の大黒柱としての私の責任は、まず全生涯、全力をあげて子供のために己を捧げよと言われているような感じがするんです」。

『エイリアン:アース』を観た時も、藤岡は「もしこれが本当に地球上にリアルに起きたら、どうやって家族を守るか」ということを真剣に考えたという。
そのなかで強く感じたのが、物理的な強さだけでは到底太刀打ちできないということ。本当に問われるのは、人間の内なる力、精神力だと確信したという。

「実際にああいうことが起きた時に、まず胆力、勇気がないとダメ。どんなに頭が良くたって、知識が詰まっていようと、武道が有段であろうと、勇気がなかったら絶対ダメなんです。ほとんどの人はもう体が硬直して止まってしまって、その場で動けなくなり、心臓も息も絶えなくなって終わります」。

その強靭な精神力、胆力の源流は、日本の武士道にあるという。藤岡家のルーツは武士の家系にあり、先祖代々受け継がれてきた「藤岡流」という流派を今も背負っている。藤岡にとって武士道とは、単なる精神論ではなく、危機的状況を生き抜くための実践的な術なのだ。

「これが昔から日本の武士道で唱えてきた、胆力を鍛えるための訓練、武士道精神、武士道スピリッツ。世界に類のない民族力の原点であった武士道なんですよ。これを武術といって、我々の先祖は命をかけて磨くことによって一族を守ってきた経緯があるんです。『俺はこの家族、この娘、息子のために命をかけて守る』という気概。
親としての誠の愛ですよね。これをもって男は、覚悟を決めた上で対面するんです」。

○25歳で訪れた俳優生命の危機「自殺を考えるぐらいまで追い詰められた」

藤岡の語る「覚悟」や「メンタル」は、決して机上の空論ではない。その言葉には、生死の境をさまよった者だけが持つ、圧倒的な重みとリアリティーが宿っている。俳優人生最大のピンチは、25歳の時に訪れた。藤岡の信条として、どんな危険なシーンでもスタントマンを使わず、自らの体を使って挑むことを心掛けていた。

「ある撮影で、自ら二輪を駆って相当のスピードでコーナーを曲がった時にスピンしてしまったんです。電信柱に激突していたらもう現在はいませんが、その時、1本のワイヤーが電信柱に張ってあった。そのワイヤーに体が引っかかったおかげで体全体を地面に打ちつけることがなかった。奇跡です。ただし、そのワイヤーにかかった足は複雑骨折でバラバラになりました。でも頭だけは打ってなかった。
これは柔道をやってきたおかげで、無意識に受け身を取って頭を守ったんです。それで今、存在しているんです」。

奇跡的に一命は取り留めたものの、彼を待っていたのは肉体的苦痛だけではなかった。それは、未来への希望を根こそぎ奪い去るような、絶望的な現実だった。

「そこから復帰するまでのリハビリは精神的にも肉体的に非常に厳しかった。これが私にとっての最大のピンチでした。医師からも『医者としてやれることはこれが精一杯。あとは君自身の心の持ち方、心構えによってどうなるかが決まる。君が決めなさい』と、ある意味で見放された。25歳という、まだ体験も経験もない中で投げかけられた『生きるも死ぬもあなた次第だよ』ということ。これはきつかった」。

正直「自殺を考えるぐらいまで追い詰められました」という藤岡。
それでも小さい頃から武道をやり、滝行などでメンタルを鍛えてきたからこそ乗り越えられたとしみじみ語る。

●父親になり芽生えた新たな使命「子供たちに生き甲斐とやり甲斐、命を」
壮絶な試練を乗り越え、俳優として完全復帰を果たした藤岡。そして時を経て、かけがえのない家族という「守るべき宝」を授かった。その存在が、藤岡の「生きる覚悟」をさらに強固なものにした。

「もう僕はね、先祖に感謝したんですよ。奇跡のごとく生き抜いて、今度は新たな、私の血を継ぐ血筋が授かった。子供たちに生き甲斐とやり甲斐、命を注ぐべき私の責任と使命を感じました。いざとなったらこの子供のために命を捨てることは全然惜しくないなと思います」。

その背中を見て育った子供たちもまた、表現者としての道を歩み始めている。藤岡家には今、俳優として、そして人としての新たな伝承が生まれようとしている。

「親から子へ伝えていく伝承が、日本は古来から当たり前にあったんです。家伝といってね。
藤岡家の家伝をどう繋いでいくか。これはどこの家にもあったんだけれど、もう今や死語になってしまっている。もう一回復活してもらいたいですね」。

子供たちは藤岡と共に、表現者としていろいろな感動や夢、希望、勇気、幸せを与えようと、精力的に活動を行っている。「やりがいを感じてさまざまなことを伝えようと頑張っている。それがうちの子供たちなんです」と優しい笑顔で家族を語る藤岡の懐の深い笑顔が、非常に印象的だった。

■藤岡弘、
1946年2月19日生まれ、愛媛県出身。1965年、松竹映画『アンコ椿は恋の花』でデビュー。1971年、『仮面ライダー』の主人公・本郷猛/仮面ライダー役でブレイクし、数々の映画やドラマに出演。武道家としても知られるほか、ボランティア活動も積極的に行っている。

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