藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦する第73期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、第1局が9月4日(木)にシンガポールの「アマラ・サンクチュアリ・セントーサ」で行われました。対局の結果、雁木対早繰り銀の急戦から抜け出した藤井王座が66手で勝利。
短手数の快勝で防衛に向け好スタートを切りました。
○4回目の「同学年シリーズ」
両者の間で4度目のタイトル戦となった本シリーズは建国60周年を迎えるシンガポールで開幕。対局前日には現地の市場やレストランをめぐってリラックスする二人の姿が見られました。立会人の佐藤康光九段の合図で始まった対局では振り駒で後手となった藤井王座が2手目に角道を開けました。公式戦5度目の採用で、これまでに負けがありません。
先に長考に沈んだのは先手の伊藤叡王でした。専守防衛の雁木模様をとがめるべく早繰り銀の速攻を用意したのは近年主流の積極策。しかし後手の右銀の位置など細かい点が前例と異なり慎重に読みを入れる必要があります。やがて選んだ玉引きは決戦を断念した形で、ここで「時間を使いすぎた」(局後の感想)がその後の指し手に微妙な影響を与えることに。
○電光石火の踏み込み
攻撃続行を図りたい伊藤叡王は飛車を浮いて歩の回収を目指したものの、結果的にこの手を後悔することに。後手からの鋭い踏み込みを軽視した格好で、実際ここからの藤井王座の指し手は冴えわたりました。飛車取りを無視して歩成りを入れたのが王手飛車取りの筋を含みにした反撃で、飛車を渡しても居玉の自陣に寄りがないという深い読みが秀逸でした。
午前中にペースをつかんだ藤井王座は軽快に攻め続けます。伊藤叡王の勝負手にも動じず、冷静な垂れ歩で一手勝ちを読み切りました。終局時刻は19時13分、最後は攻防ともに見込みなしと認めた伊藤叡王が投了。防衛に向け好スタートを切った藤井王座は「(中盤の)歩成りで攻めがつながりそうで悪くない感触だった」と振り返りました。
藤井王座の先手番で迎える第2局は9月18日(木)に兵庫県神戸市の「ホテルオークラ神戸」で行われます。
水留啓(将棋情報局)
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