第38期竜王戦(主催:読売新聞社)は昇級者決定戦が大詰め。9月9日(火)には羽生善治九段―阿久津主税八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。
対局の結果、相掛かり空中戦から積極的に攻めた羽生九段が73手で勝利。快勝で1組復帰を決めています。
○昇級まであとひとつ

2名が昇級を手にする今期の2組昇級者決定戦。本局はその決勝に当たり、昨年1組から降級の憂き目に遭った羽生九段にとっては、1年での1組復帰が懸かる一局となります。振り駒で先手となった羽生九段は相掛かりを採用。7筋の横歩を取りつつ左端の位まで取ったのが攻撃重視の積極策で、早くもすべての前例から離れます。

盤上では両者の意地がぶつかります。阿久津八段が「飛車をもとの位置には戻してやるまい」とばかりに歩を突けば、羽生九段も「それならば端攻めから反発だ」といった要領で反撃。伸るか反るかの激しいやり取りが一段落したところで抜け出したのは羽生九段でした。桂頭攻めを絡めた端攻めが厳しく、守勢に回ることになった阿久津八段は「自信がなかった」(局後)との感想に。

○攻めてつかんだ大きな勝利

夕食休憩が明けて対局再開。局面は激しい駒の取り合いが行われた直後で、ここに本局最後の勝負所が残されていました。
阿久津八段が選んだ歩打ちは自玉の安全を最優先する実戦的な受けですが、このあと攻撃力不足にあえぐことに。代えては俗手の桂跳ねで王手するのが感想戦で発見された好手で、十数手後に飛車浮きの妙手があり後手戦えたとされました。

幻の窮地をしのいだ羽生九段は着実な攻めで優勢を拡大します。飛車取りに香を打ったのが攻防兼備の決め手で、自玉を安全にしながら後手の飛車を隠居させることに成功しては勝負あり。終局時刻は20時57分、最後は形勢差を認めた阿久津八段の投了で羽生九段の1組復帰が決まりました。この結果に観戦したファンも「これはめでたい」「羽生先生強すぎる」「王の帰還だ」と喜びを口にしました。

水留啓(将棋情報局)
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