第84期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は3回戦が進行中。9月11日(木)には中村太地八段―近藤誠也八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、中村八段得意の角換わり早繰り銀を腰掛け銀で迎え撃った近藤八段が124手で勝利。開幕3連勝として名人挑戦に向け一歩前進しました。○中村八段がリード奪う近藤八段2連勝、中村八段2連敗で迎えた3回戦は挑戦権争いにとどまるための重要な一局。近藤八段のほかには永瀬拓矢九段と糸谷哲郎八段が無敗で上位を争っています。中村八段の先手番で始まった本局は両者得意の角換わりへと進展。早繰り銀で攻勢を取った中村八段に対し、後手の近藤八段は腰掛け銀で丁寧な受けに回りました。銀交換が行われて戦いは一段落。銀交換後の差し手争いのなか、先にペースをつかんだのは中村八段でした。9筋に作った馬の圧力で敵飛を抑え込んだのが好着想。離れ駒をなくしつつ戦いに備えたのも玄人好みの落ち着いた手で、「放っておけばこちらの陣形はどんどん厚くなりますし、無理に攻めてくれば馬の守備力で封じ込めますよ」というにらみ倒しが完成し、先手良しの形勢で局面が進みます。○近藤八段の辛抱実る調子よく指し進める中村八段に2つの分岐点が訪れます。まずは成桂取りに飛車を引かれた局面。成桂を逃がしたのは自然な一手ながら、この成桂が働きのない駒になったのが最後まで響きました。続いて5筋の歩をぶつけられた局面。ここは馬の活用を急いで押さえこみに回れば難解ながら先手悪くないとの結論に。本譜はぶつけられた歩を取ってしまったがために5筋から繰り出された後手の金が輝き始めます。辛抱の時間を耐え抜いた後手の近藤八段に反撃のターンが回ってきます。飛車角銀の攻め駒が一団となって先手玉に迫る姿は迫力十分で、先述の金がこれらを取りまとめているため手が付けられません。終局時刻は翌12日0時40分、最後は自玉の詰みを認めた中村八段が投了。長い中盤戦を乗り切り、プロらしい手厚い攻めを実現した近藤八段の逆転劇となりました。勝った近藤八段は初参加のA級で開幕3連勝、挑戦に向け前進しました。敗れた中村八段は3連敗となっています。水留啓(将棋情報局)