●ノースリーブにヘルメット姿で職人に「すごく新鮮でした」
アーティストとして活動する一方、今年に入り連続ドラマで主演を果たすなど、俳優としても精力的に活動する岩橋玄樹。そんな岩橋がスクリーンデビューを飾る映画『男神』が9月19日に公開を迎える。
演じるのは、巨大建機を自在に操る無骨な職人・山下裕斗。これまでのパブリックイメージを鮮やかに覆すその役柄に、岩橋はどう向き合ったのか。俳優業への探求心、アドリブで挑んだ英語シーンの裏側、そして人生の「大勝負」として語った過去の出来事などを語った。

ミステリアスな物語が展開する中、土埃と汗にまみれたワイルドな姿でスクリーンに登場する岩橋。ノースリーブの作業着にヘルメット。その瞳には、確かな意志と男気が宿る。映画『男神』で岩橋玄樹が演じた山下裕斗は、重々しい作品のトーンに風穴を開ける、キーパーソンだ。映画初出演という新たな挑戦の場で、岩橋はかつてないキャラクターと出会った。

「お芝居は何回かやらせていただいていますが、映画は初めてでした。でも、ドラマと映画の違いをあまり意識せず、自分ができることをしっかりやって楽しもうと撮影に臨んだので、すごくいい経験になりました。最初にオファーをいただいた時は、英語を話すシーンがあるということは知らなかったんですが、台本を見たら英語のセリフがあったので、僕が普段、海外を行き来していることを汲み取って、海外っぽいキャラクターを少し入れてくれたのかなと感じました。初めての映画出演でしたが、色々と新しいチャレンジができ、とてもいい経験になりました」。


撮影は、巨大な穴がぽっかりと口を開ける、ミステリアスな雰囲気漂うロケ地で行われた。自然に囲まれた非日常的な空間が、より一層、作品の世界観へと没入させたという。

「ノースリーブにヘルメットっていう、結構いかついキャラクターだったので、やりがいがありました。今まであまり演じたことのない役が、自分にとってはすごく新鮮でした。ただ……毎回撮影に入るたびに泥だらけにならないといけなかったので、それが結構つらかったです。クランクインからずっと泥だらけで。撮影が終わって、その泥を落とすのが本当に大変でした(笑)」。

○語学力を活かして英語セリフのアドリブにも対応

劇中、海外の大学教授と流暢な英語で議論を交わすシーンがある。それは、裕斗が単なる現場の職人ではなく、広い視野と知識を持つ人物であることを示す重要な場面だ。驚くべきことに、このシーンはアドリブが多用されたという。それは、岩橋の持つ語学力と表現力、そして共演者との化学反応が生んだ、奇跡の瞬間だった。

「教授と話すシーンは、もともと台本が1、2ページくらいあったんです。
でも、段取りの段階で、現場で話し合って『ここは全部アドリブでいった方が気持ち的にもいいんじゃないか』という話になりました。セリフも全部覚えてきたのですが、『マジか!』って(笑)。結構ビビりましたけど、結果的にアドリブで自分の感情、思っていることを英語で表現できた。あのシーンは、映画の中で自分にとって一番大切なシーンですし、裕斗のキャラクター性があそこに詰め込まれているのかなと思います」。

アメリカでの生活経験を持つ岩橋だからこそ、可能になった大胆な演出。それは、日本の緻密に計算された撮影スタイルと、アメリカの現場で重視される瞬発力が融合した瞬間でもあった。

「アメリカの撮影は、すごくシンプルで、その場の『アート性』が重要視されているイメージ。でも日本は、しっかり計算されていて、ここを大切にしていこう、という思いがある。どちらの国の良いところも見てきているので、それを今後、自分が出る作品に活かせたらいいなと思います。英語のシーンも、まさに自分の映画に対する思いをアドリブで全部言ったという感じでした」。

●ソロになって感じたアーティスト活動と俳優業の相乗効果
ソロアーティストとしての活動を経て、7年ぶりに連続ドラマの主演を務めるなど、俳優としてのキャリアを再び本格化させている。歌やダンスで「岩橋玄樹」自身を表現することと、役として「自分ではない誰か」を表現すること。
その違いと面白さを、今、改めて実感している。

「俳優業は、独特の仕事だなと感じます。昔、ドラマに出させていただいた時も、いつもと違う空気感にすごく緊張しました。ソロになってまた俳優業に挑んだ時、最初は大丈夫かなという不安もあったんです。でも、やっぱりやってみて『好きだな』と改めて感じました。いろいろな役を演じることで、自分が持っている表現の幅をさらに広げられる。それはアーティスト活動にも繋げられますし、逆にソロになってから多様な感情の表現ができるようになったからこそ、今こうしてお芝居を楽しんでできているのかなとも感じます」。

自分ではない誰かになる。それは、自分を消す作業であると同時に、自分の中に新たな引き出しを発見していく旅でもある。役に入り込むと、携帯電話にもほとんど触れず、プライベートを遮断するという岩橋。その没入感が、リアルな感情を生み出す。

「声のトーンを変えたり、そのキャラクターがどう思っているのかな……と考えたりするのは楽しいですね。
セリフを喋るというよりは、その人になりきっているという感覚。だから、アドリブで出てくる言葉はすごく大切だなと思うし、やっていてワクワクします。役に入っている時は、プライベートのことは持ち込まない。スイッチの切り替えはしっかりしています。アーティストの時はステージに立った瞬間にスイッチがオンになる。プライベートは逆にオフすぎて、『どれが本当の自分なんだろう』って思うこともありますけど(笑)。俳優業をやることで、アーティストとしての自分を軸に、いろんな役へとどんどん表現が広がっていく感覚です」。

○アメリカ生活で世界への思い強く「違う国の映画やドラマに出てみたい」

劇中で主人公が禁断の穴へと足を踏み入れる場面がある。人生には時に、勇気を持って挑むべき「大勝負」の瞬間が訪れる。これまでの人生を振り返り、自身にとっての「大勝負」とは何かと尋ねると、少し意外だが、岩橋らしい答えが返ってきた。

「人生で2回経験したのですが、(読売)ジャイアンツ戦の始球式は、結構な大勝負でした。めちゃくちゃ緊張しました。
僕は巨人ファンで、雑誌の連載もやらせてもらっているので。昔、前所属事務所の野球大会でもピッチャーをやっていて、僕にとって東京ドームのマウンドはいろんな思い出が詰まっている場所なんです。あの超満員の中、マウンドに一人でポツンと立っているシチュエーションが、一番自分の中でグッときます。ドームのステージに立つ時ともまた違う。あのマウンドに立つと、いろんなことを思い出しますね」。

たった一球に懸ける思い。大観衆の視線を一身に浴びるマウンドという名の舞台。そこで感じるプレッシャーと高揚感が、岩橋の挑戦心を掻き立てるのかもしれない。そしてその視線は今、国内だけでなく、さらに大きな世界へと向けられている。

「アメリカ生活を経験していることもあって、ハリウッドとか、外国の映画カルチャーによく触れているので、違う国の映画やドラマに出てみたいというのは人生の夢としてずっとあります。そこに向けて、もっともっと場数を踏んで、俳優としても頑張っていきたい。アーティストとしても、今年は初めてLAでライブができましたし、一歩一歩進めている感覚はあります。
自分の可能性があるうちは、どんどんいろいろなことにチャレンジしていきたい。特にゴールは設けていませんが、もっともっと自分ができることに何でも取り組んでいきたいです」。

■岩橋玄樹
1996年12月17日生まれ、東京都出身。2021年12月1日にシングル「My Lonely X’mas」でソロデビュー。シングルやアルバムのリリースに加え、ライブも精力的に開催している。俳優としては、ドラマ『部活、好きじゃなきゃダメですか?』(2018)、『恋愛ルビの正しいふりかた』(2025)などに出演。9月19日公開の『男神』で映画初出演を果たす。

ヘアメイク:村澤柚香 スタイリスト:河田威尊
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