俳優の吉沢亮横浜流星共演の映画『国宝』(公開中)が、第50回トロント国際映画祭のSpecial Presentation部門に出品され、現地時間の9月11日に上映が行われた。

『国宝』は、2017年から朝日新聞にて連載された吉田修一氏による同名長編小説の実写化作。
歌舞伎界を舞台にした原作は、連載時から大きな話題となり、2019年に「第69回芸術選奨文部科学大臣賞」と「第14回中央公論文芸賞」をダブル受賞している。

9月11日、本作は第50回トロント国際映画祭のSpecial Presentation部門で公式上映が行われた。1976年に始まったトロント国際映画祭は、例年300本以上の作品が上映され、来場者数70万人を集める、北米最大の映画祭。米アカデミー賞の前哨戦として広く知られ、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した 『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)が2021年に同じSpecialPresentation部門に出品されている。

日本でのヒットを受け、海外でも大きな期待が高まっており、会場には入場を待つ長蛇の列ができ、1,244席が満席の中で上映は始まった。上映前に観客の前に登壇した李相日監督は、「トロントは、Apple TVの『パチンコ-Pachinko』の撮影で長期滞在しており、スーパーマーケットに買物に行って、お米を炊いてサーモンを焼いていた」とトロントでの思い出を振り返り、「So Beautiful Town」とトロントを評すと会場は大いに盛り上がった。

上映終了後には観客からのスタンディングオベーションが起こり、拍手喝采の中、李監督が再び登壇し、MCのジョバンナ・フルディ(トロント国際映画祭インターナショナルプログラマー)と舞台挨拶を実施。ジョバンナは何度も『国宝』を傑作と話し、「歌舞伎を題材とした映画は『残菊物語』(1939年/溝口健二監督)が基準となっていますが、歌舞伎関連に限らずこの映画に最も影響を与えた映画や映画監督は誰ですか?」という質問に李監督は、「学生時代に見たチェン・カイコー監督の『さらば、わが愛/覇王別姫』の影響は大きいです」と回答し、トロントの映画ファンを沸かせた。

また別の質問では、「『国宝』は日本で社会現象となり、2025年8月時点で邦画実写史上2位の興行収入を記録しました。この成功を想像できていましたか? またどう感じていますか?」という質問には、「想像できるわけないじゃないですか(笑)」と会場を笑いに包み、「この映画を制作する当時は、日本映画にとってのチャレンジになると思っていました。歌舞伎の映画で大ヒットすることはないと、どこかで感じていたかもしれないし、どこか様子を見ていたと思います。様々な難しい条件が揃っていると、関係者全員が思っていました」と改めて制作当時の想いを明かし、舞台挨拶終了後も興奮冷めやらぬ観客からの握手やサインに答えながら会場を後にした。


(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

【編集部MEMO】
メガホンをとった李相日監督は、2006年に公開された『フラガール』で、第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞、文化庁芸術選奨新人賞を受賞している。2010年に公開された『悪人』は、『国宝』と同じ吉田修一氏の原作による作品で、第84回キネマ旬報ベスト・テンにおいて日本映画ベストの1位に輝いている。
編集部おすすめ