俳優の吉沢亮と横浜流星共演の映画『国宝』(公開中)が、第30回釜山国際映画祭のガラプレゼンテーション部門に出品され、上映が行われた。上映後の舞台挨拶には、吉沢亮、喜黒川想矢、李相日監督が登壇した。


『国宝』は、2017年から朝日新聞にて連載された吉田修一氏による同名長編小説の実写化作。歌舞伎界を舞台にした原作は、連載時から大きな話題となり、2019年に「第69回芸術選奨文部科学大臣賞」と「第14回中央公論文芸賞」をダブル受賞している。

9月21日、本作は第30回釜山国際映画祭のガラプレゼンテーション部門で上映が行われ、主人公・喜久雄を演じた吉沢亮、喜久雄の少年時代を演じた黒川想矢、李相日監督が野外メインシアター会場でのトークセッション「オープントーク」に登壇した。

2,000人が集まった屋外会場で行われた「オープントーク」では、はじめに李監督が登壇し、韓国語で自己紹介。司会者から、日本では『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)に続き、実写映画の歴代興行収入ランキングで2位を達成したことについて質問されると、「この映画はテレビドラマや漫画の原作から始まった映画ではなく、伝統文化を扱った映画ということで、今の日本の観客が多く観てくれて驚いています」と話し、続けて「歌舞伎は、どの国の人でもその美しさと伝統、歴史を感じることができる芸術だと思います。国や人種を問わず感動できる映画だと思っています」と話した。

吉沢、黒川はイベントの中盤に登壇。ともに韓国語で自己紹介し、満席の会場から盛大な拍手が起った。吉沢は、「1年半という長い期間、一つの役のために時間を費やすというのは貴重な経験でした。実際の歌舞伎役者の方々の足元にも及ばないので、稽古をすればするほど、どれほど素晴らしい方々かを実感しました。あの時は『やるしかない』という意地でやっていました。これまでの作品とは比べものにならないほど、覚悟が必要でした」と述懐し、 さらに、「李監督からは、難しくて不可能な注文ばかりされました。
一方でその注文は『役者なら乗り越えられる』 という絶対的な信頼だと思いました。監督の言葉の中にある愛をとても感じることができました。」と撮影当時を振り返った。また、黒川は本編での演技について質問されると「演技が本当に面白くて仕方ないです。本作の中で『寝る時間が無駄だ』というセリフがあるのですが、その気持ちは分かる」としながらも「演技を楽しむためによく眠るように努力しています」と付け加えて笑いを誘った。

また当日は、10時より李監督、吉沢が参加しての韓国メディアによる記者会見(Busan Cinema Center・BIFF HILL)、 先述の「オープントーク」に引き続き、CGV Centum CityにあるIMAX館で約300人の観客を前に行われた公式上映の終了後に、李監督、吉沢、黒川の舞台挨拶が行われた。「なぜこれほどまでに日本でヒットしたのか?」の質問に、李監督は「歌舞伎は日本の観客にとっても皆さん当然知っているのだけれども、そこまで観ている人は多いわけではないので、新しいものを発見できる映画だったと思います。歌舞伎役者ではない俳優たちがまるで歌舞伎役者のように非常に長い時間をかけてトレーニングをし、歌舞伎役者の感情をキャラクターに溶け込ませたため、役者の方々の真剣さが観客の皆さんにも届いたのではないかと思います」 と日本での社会現象を分析した。

観客から「歌舞伎を通して沢山の美しさを教えてくれた映画だと思うが、人間のどのような部分が美しいと思うか?」と 質問されると、吉沢は「今回、女形を演じていて、自分の感情をコントロールできない瞬間や何か必死に求めて、恋焦がれている時の表情は、外から見ると美しく見えたりするのではと、この喜久雄を演じていて感じました。喜久雄が演じた(『曾根崎心中』の)お初もその恋のためだけに命を燃やしていく。こういった演目が多いということは、そういったものが見たいのだろうと思っています。まっすぐ向き合う瞬間というのは人を美しくするのかなと思います」と答え、黒川は 「今作で長崎弁と関西弁の2つの方言を使いましたが、長崎弁の音の響きがとても美しいなと思いました。例えば外国語でも何を言っているのかわからなくても、気持ちが伝わるような、そういう時はとても嬉しいし、美しいなと思います。
今作は日本語ですが、韓国の方々に絶対届くだろうし、届いてほしいなと思っています」 最後に観客へ李監督は、「11月から韓国で公開されます。どうぞお力を貸してください」と挨拶し、黒川は「今日ここでお話できたことはとても嬉しいです。また11月に公開された際には沢山の方々に観ていただければ すごく嬉しいです」と述べ、吉沢は「昨日と今日と上映会、Q&Aをさせていただき、皆様がこの作品を前のめりに観てくださったことが伝わり、とても嬉しく思います」と釜山での手ごたえを感じ、感謝を伝えた。

また、日本では、5都府県(東京・神奈川・愛知・大阪・沖縄)にて10月3日から英語字幕版の上映がアナウンスされている。

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

【編集部MEMO】
メガホンをとった李相日監督は、2006年に公開された『フラガール』で、第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞、文化庁芸術選奨新人賞を受賞している。2010年に公開された『悪人』は、『国宝』と同じ吉田修一氏の原作による作品で、第84回キネマ旬報ベスト・テンにおいて日本映画ベストの1位に輝いている。
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