●演じた「やまと」副長の“器の大きさ”を尊敬
映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』(公開中)で、前作に引き続き原子力潜水艦「やまと」の副長・山中栄治を演じた中村蒼にインタビュー。山中としての役作りや主演の大沢たかおとの共演について話を聞いた。
また、8月に放送されたNHKドラマ『シミュレーション 昭和16年夏の敗戦』、戦後の沖縄を舞台にした映画『宝島』(公開中)と、戦争や平和をテーマにした作品に立て続けに出演して感じた思いも語ってもらった。

本作は、かわぐちかいじ氏による同名の大ヒットコミックを実写化した『沈黙の艦隊』シリーズの映画第2弾。2023年公開の映画『沈黙の艦隊』、2024年に配信されたAmazon Originalドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』の続編で、極寒の氷の世界・北極海を舞台に、原子力潜水艦「やまと」とアメリカの最新鋭原潜との激しい魚雷戦を描く。

――前作に引き続き「やまと」艦長・海江田四郎(大沢たかお)の右腕である副長・山中栄治を演じられましたが、本作での山中を演じるにあたって意識したことを教えてください。

これまで以上に戦闘シーンが激しくなって、今までにないぐらい「やまと」が追い詰められるので、僕含め、他の乗組員もそうですが、これまであまり見せてこなかった表情が出ています。艦長から下される指令に対するリアクションも、より感情が表れるようになっていて、一瞬のことですが、そういうところをしっかり表現できたらいいなと思いました。

――役とご自身の似ている点はありますか?

山中は艦長と乗組員をつなぐ、艦長の数少ない指令を汲み取って乗組員たちに伝える存在で、戦闘が終わって穏やかになった時に精神的に乗組員を支えるようなシーンもあるので、すごく器の大きい余裕のある人間です。似ているというより、自分もそうでありたいなと思いながら演じました。

――中村さんご自身、周りの人を支えたり引っ張ったりするということは普段ありますか?

全くないです(笑)。人の先頭を切って何かするというのは苦手です。

――山中を演じたことで刺激を受けたのですね。

そうですね。
山中は視野が広く、いろんなことを見ているので、自分もそうでありたいなと。すぐ真似できるようなことではないですが、そういう風になっていけたらと思います。

――『沈黙の艦隊』シリーズならではの大変さなどがありましたらお聞かせください。

セリフのやりとりがすごく少ない役で、艦長からの指示を受けてそれを繰り返したり、艦長からの質問に答えたりというのはありますが、人間としてのやりとりが少ないので、その中でどう見ている人たちを飽きさせないようにするか。同じシチュエーションなので、どういう風に見せていくかというのは難しかったです。

――その難しさがある中、どのようなことを意識したのでしょうか。

やはり表情ですね。普段、「やまと」の乗組員たちは淡々と仕事をこなしてきたので、指令を受けたときのちょっとした表情が際立つだろうなと思っていたので、海江田さんの一見突拍子もないような作戦に対する戸惑いや不安など、細かい表情を逃さないように表現できたらいいなと思って演じました。

――大沢さんとの共演はいかがでしたか?

すごく刺激的です。大沢さんはあまり多くを語らない方で、お芝居しているとすべてを見透かされるような気持ちに。(CGを駆使した作品で)すべて想像でやらないといけないので、今、「やまと」がどういう状況に置かれているのかということを、しっかり自分の頭の中で整理してお芝居していないといけないのでとても緊張感のある撮影でした。

――大沢さんとのやりとりで印象に残っていることを教えてください。


大沢さんと長い間ご一緒できるというのはなかなかないことなので、役者としての不安な気持ちなどが大沢さんにもあるのか、そういう話を聞かせてもらって、すごくうれしかったです。

――不安な気持ちとは?

例えば、自分が大沢さんぐらいの年齢になった時に、この仕事ができているかとか、そういう風なことを考えますね。大沢さんに聞いてみたら、「そう思って当たり前だし、そう思ってない人なんていないだろう」というような感じで答えてくださって、そういう一言一言に励まされました。

●「自分が役者をやっている意味」を改めて実感
――『シミュレーション 昭和16年夏の敗戦』『宝島』『沈黙の艦隊』と、戦後80年の今年、戦争や平和をテーマにした作品に多く出演されていますが、そういった作品に参加して芽生えた思いをお聞かせください。

当時の問題は今もまだ続いているんだなと感じました。日本は戦後になって、それが続いているわけですが、まだ戦っているところもあるし、沖縄の問題は今も続いている問題ですし。『沈黙の艦隊』は核についての話に加え、選挙のシーンも描かれていて、現実世界では例年以上に選挙への関心が高まって盛り上がっているので、今にもつながっている問題だなと思いました。

――平和に対する意識など、ご自身の中でも変化はありましたか?

無関心であることが、問題を長続きさせたり、新たな問題を引き起こしている要因の一つだと思うので、もちろん自分の周りが幸せであることが大切ですが、それ以外のところにもちゃんと目を向けて日常を過ごしていきたいなと思います。また、現実世界で起こっていることや過去の出来事などを、お芝居といえど自分を通して表現できるというのは、自分が役者をやっている意味なのかなと改めて思いました。

――普段のほほんと優しい印象の中村さんですが、『沈黙の艦隊』の「やまと」副長役や『シミュレーション 昭和16年夏の敗戦』の陸軍少佐役など、キリッとした厳格な役を多く演じられています。撮影スタートのタイミングで切り替えているのでしょうか。

切り替えがはっきりしているというより、だんだんそういうモードに変わっていくタイプだと思います。
衣装を着て準備していくうちに、少しずつ役に入っていくのかなという感じですが、そんなに切り替えを自覚しているわけではないです。

――『沈黙の艦隊』をこれからご覧になる方たちに向けてメッセージをお願いします。

アクションものとしても楽しめる、視覚的にも耳でもすごく楽しめるエンタメ作品になっていると思います。劇場でしか体験できないような映像や音を、ぜひ映画館で体験していただきたいです。そして、人間ドラマがすごく濃く描かれていて、氷の中での戦いで、より相手がわからない状態ということで、心理戦の部分が前作よりも強くなっています。地上では政治パートの人たちがぶつかり合っているので、そういうところも注目して楽しんでもらえたらと思います。

■中村蒼
1991年3月4日生まれ、福岡県出身。2006年、舞台『田園に死す』で俳優デビュー。近年の主な出演作は、ドラマ『エール』(20)、『らんまん』(23)、『大奥』(23)、『ギークス~警察署の変人たち~』(24)、『宙わたる教室』(24)、『東京サラダボウル』(25)、映画『沈黙の艦隊』(23)、『アイミタガイ』(24)、『室町無頼』(25)、『早乙女カナコの場合は』(25)、『宝島』(25)など。現在、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に出演中。10月10日スタートのTBS系金曜ドラマ『フェイクマミー』への出演も決定している。
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