藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦する第73期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、両者1勝1敗で迎えた第3局が9月30日(火)に愛知県名古屋市の「名古屋マリオットアソシアホテル」で行われました。対局の結果、相掛かり持久戦から抜け出した伊藤叡王が103手で勝利。
終盤の競り合いに強さを発揮して奪取に王手をかけました。
○軽快な「クルクル銀」

両者18局目の対決となった本局は伊藤叡王の先手番で相掛かりへと進展。伊藤叡王が持久戦を目指したのに対し藤井王座が空中戦を望む展開は、両者の間で初めて戦われたタイトル戦(2023年の竜王戦第1局)と同じ進行でしたが、この日は先手が早めに歩交換したことでその前例から変化。ともに研究範囲か、比較的早いテンポでよどみなく指し手が進みます。

先に工夫を見せたのは伊藤叡王でした。持久戦に持ち込むため中央に腰掛けていた銀を、クルクル右に活用して2筋につけたのが面白い指し回し。そして棒銀の定位置に落ち着いたのもつかの間、お役御免とばかりにタダ捨てしたのが飛車の成り込みを含みにした軽快な攻めでした。局面は互角ながら、先手番らしく攻める展開に持ち込めて不満ないわかれです。

○主導権握り快勝

形勢が動いたのは夕食休憩明けのことでした。藤井王座が飛と香の連結で8筋突破を目指したとき、軽く角を上がって受け流したのが伊藤叡王のうまい受け。直接的な敗着はその数手後に金取りを手抜いて攻め合った手ではあるものの、藤井王座の実戦心理としては①中盤の折衝で駒損に陥ったこと、②期待の反撃が不発に終わったことが大きく響きました。

終局時刻は20時6分、最後は自玉の詰みを認めた藤井王座が投了。
全体を振り返ると、第2局の逆転勝利からは打って変わって序盤からシナリオ通りに進めた叡王が、終盤の受けの好手で心理的にも突き放した快勝譜に。本局の展開を「想定外で準備不足だった」とした藤井王座は「(中盤で)二枚換えに持ち込まれ自信がない展開にした」と振り返りました。

2勝1敗とリードした伊藤叡王が奪取を決められるか、藤井王座が意地を見せるか。注目の第4局は10月7日(火)に神奈川県秦野市の「元湯陣屋」で行われます。

水留啓(将棋情報局)
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