●「自分の好きそうなものだけちょっとずつ食べているような生き方」
お笑い芸人のみならず、小説家、映画監督、MCなど、幅広く活躍している劇団ひとり。Netflixコメディシリーズ『デスキスゲーム いいキスしないと死んじゃうドラマ』(配信中)ではアドリブドラマに挑み、自身の欲求をさらけ出したアドリブを連発し、物語を大いに盛り上げた。
劇団ひとりにインタビューし、活躍の幅が広がった今の仕事に対する思いやこれまでの転機、今後の抱負などを聞いた。

――1993年のデビューから32年経ち、お笑い芸人以外の仕事もさまざまされていますが、今のお仕事に対する思いをお聞かせください。

どの仕事も楽しいです。逆に言うと、何事も一つを極めていないというか、あれもこれも手を出してしまうのがコンプレックスでもあるんですけど、好きだから仕方ないという感じですね。あれもこれもというのは、仕事に限らず趣味もそうで、ビュッフェみたいな生き方をしているなとよく思います。ビュッフェに行って、自分の好きそうなものだけちょっとずつ食べているような生き方ですが、これは直らないです。

――子供の頃からそうでしたか?

昔から飽き性で、一つのことをずっとやっていると飽きてしまって、すぐ次のものに興味が湧いて、あれやこれやって手を伸ばして、結局収拾がつかなくなるような感じで。ずっとそうですね。

――あれもこれもという性格だからこそ、いろんなお仕事に挑戦されているんですね。

そうですね。どれも楽しくやらせていただけているのはありがたいです。

――小説がベストセラーになったり、映画化されたり、どれも成功されていますが、その秘訣を教えてください。


自分の中で少しずつ取捨選択し始めてからうまくいっているように見えるだけで、うまくいってないものは残ってないだけだと思います。

○「芸能人生で一番の分岐点」を語る 監督業への思いも

――今後についてはどのように思い描いていますか?

こういう作品をやりたいというのはいくつか準備しています。うまくいくかどうかまだわかりませんが、ここ数年ずっとそんな感じです。

――監督として作品を作りたいという制作意欲が大きいんですね。

そうですね。監督業は楽しいですから。まだどれも決定していませんが、何本か考えていて、打ち合わせをしています。

――どんな作品を作りたいという思いがあるのでしょうか。

例えば、映画でも自分がやっていないジャンルをやってみたいなと。飽き性というのもありますが、新しいジャンルに挑戦して、いろんな刺激を受けていけたらと思っています。

――ひとりさんが感じている監督業の醍醐味をお聞かせください。

たぶん人間の中にある欲求だと思うんです。
子供の頃やっていたおままごとやヒーローごっこと一緒で、何か物語を具現化させていくというのが人間の本能なのではないかなと。それを大の大人が真剣になってやっているのだと思います。

――何かがきっかけで監督業に目覚めたというより、もともとそういう欲求があったと。

そうですね。ちゃんとやってみたいと思うようになったのは、最初に書いた小説が映画化されて、自分が生み出した物語が映画になる可能性があるんだなと気づいて、次に小説を書くときは自分で撮ってみたいな思ったのが最初でしたけど。映画になるなんて、自分とは遠くかけ離れたものだと思っていたので、自分が書いた小説が映画になることがあるんだというのがまず驚きでしたから。

――初小説『陰日向に咲く』が映画化されたというのが、ご自身のキャリアにおいて大きな転機になったのですね。

すごく大きな転機だったと思います。小説自体、自分が書こうと思っていたわけではなく、たまたま幻冬舎の編集の方から「書いてみたらどうですか?」みたいなことを言われて、それも楽しそうだなと思ってやってみた感じだったので、そこが芸能人生で一番の分岐点だったと思います。そこから本業のお笑いとは全然違う方面の仕事をするようになったので。

●子供が生まれて“自分のためだけに生きてきた”人生がガラリ変化
――ひとりさんは3児の父親でもあり、ご結婚や父親になったことも大きな転機になったのではないかなと思うのですが、父親になられてからの変化をお聞かせください。

具体的にはよくわからないです。
ただ、僕は結婚や子供を作るというのも、やってみたいというところが最初で、もともとは結婚願望もそんななかったんですけど、人生で経験できるものは何でもやってみたいと思ったという感じですね。ブッフェみたいにいろいろ味わいたいなと。

――好奇心から実際に父親になられて、いかがですか?

すごくよかったです。結婚もそうですけど、子供を持ってガラッと変わりましたね。優先順位で、それまで自分がずっと一番だったのに、子供が生まれるたびにどんどん自分が下がっていくというか、自分の人生が自分のためじゃなくなるというのは新鮮です。無償の愛というか。それまでの僕は身勝手で、自分のためだけに生きてきましたが、子供が生まれるとそうではなくなって。その感覚を知れただけでも、父親になれてよかったなと思います。

――ブッフェのようにいろいろなことを楽しまれている中で、お色気ムンムンの美女たちからの誘惑が次々と襲いかかるアドリブドラマの世界を舞台に「“最高のキス”で物語を終わらせろ」というミッションに挑んだ『デスキスゲーム』はどのような経験になりましたか?

改めて物語の中に陶酔して入り込むというのが好きなんだなと再認識しました。それこそ本当に“ごっこ遊び”な気がします。それがすごく面白くて、僕が『デスキスゲーム』のシステムを一番楽しんでいたと思います。

――いろいろな挑戦者の方がいる中で、ひとりさんは自分の欲求に従ってアドリブを積極的に仕掛けられていましたが、“ごっこ遊び”が好きだからこそ、どんどんアイデアが湧き出てくるのでしょうか。


そうだと思います。こういうアミューズメントパークあったら、毎日通っていると思うくらい好きな世界です。全部本当に出まかせですからね。お相手がちゃんと受けてくれたからよかったです。

――いろいろな活動をされながら30年以上も芸能界で活躍されていますが、長く活躍し続ける秘訣をお聞かせください。

ありがたいですよね。秘訣はわからないですけど、運がいいんだろうなと思います。結局は、どこで誰と出会うかというのがかなり重要で、僕の中で、佐久間さん(『デスキスゲーム』や『ゴッドタン』などを手掛ける佐久間宣行氏)に出会ったというのが相当大きいです。20年近く前に『ゴッドタン』で出会って、自覚できてなかった引き出しをどんどん広げてもらって。そういう出会いがかなり大事だと思います。

――佐久間さんによって引き出してもらった自分の新たな一面とは?

『ゴッドタン』で自分のお笑いとしての幅をぐっと広げてもらえたなと。世に出ている芸人さんは、おそらくそういう人や番組が必ずあると思います。


■劇団ひとり
1977年2月2日生まれ、千葉県出身。1993年デビュー。2000年よりピン芸人「劇団ひとり」として活動。テレビ番組などでお笑い芸人として活躍するほか、2006年に『陰日向に咲く』で小説家デビュー。同作がベストセラーとなり、2008年に映画化。2010年に2作目の小説『青天の霹靂』を発表し、2014年の映画化の際に監督・出演も務め、2021年に配信されたNetflix『浅草キッド』では脚本・監督を務めた。
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