藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑戦する第38期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)は、第1局が10月3日(金)・4日(土)に東京都渋谷区の「セルリアンタワー能楽堂」で行われました。対局の結果、横歩取りのねじり合いから抜け出した藤井竜王が75手で勝利。
一瞬のスキも見せない快勝で竜王5連覇(永世竜王)に向け好スタートを切りました。
○佐々木八段は角換わりを拒否
昨年と同じ顔合わせとなった竜王戦七番勝負。佐々木八段は2勝4敗で敗退した前期のリベンジと初タイトル獲得を目指します。振り駒が行われた本局は藤井竜王の先手でスタート。後手の佐々木八段は角換わりの研究勝負を避けて横歩取りの力勝負に持ち込む方針を打ち出しました。静ひつな雰囲気のなか、両者慎重に読みを入れじっくりとした中盤戦が続きます。
歩を打って局面を収めた佐々木八段の構想は「一局の将棋になれば」という穏便なもの。対する藤井竜王は妥協を許さない積極策でこの狙いを打ち破りました。角頭を素通しにしたまま左桂を跳ねたのが強気の姿勢で、ひねり飛車の要領で左辺に勢力を作り、指しやすさを手にしました。黙っていると8筋の歩を伸ばす手があるため後手は早くも焦らされています。
○作戦勝ちから竜王快勝
勝負の分かれ目は1日目の夕方にありました。ジリ貧を避けるために角を大きく展開したのは佐々木八段渾身の勝負手ながら、結果的に一連の構想を「暴発だった」と後悔することに。
とはいえ早い段階から後手には歩損をカバーするうまい代償がなく、ここは自然な指し手の連続によって真綿で首を締めるように作戦勝ちを収めた藤井竜王のうまさが光った格好です。
戦いが2日目に入ると藤井竜王の指し手が加速します。封じ手直後の歩成りは早くも決めにいった印象で、数手後の飛車寄りも読みの入った好手。後手が暴れようとすると先手から飛車を捕獲する筋があり、形勢は見た目以上に差がついています。(47手目の段階で)「投了級かと思った」と佐々木八段が局後に語った通り、以下は早い決着となりました。
終局時刻は16時21分、最後は自玉の受けなしを認めた佐々木八段が投了。全体を振り返ると、構想力の問われる中盤戦で自然な指し手を重ね、横歩取り序盤の一歩得をそのまま優勢~勝勢につないだ、藤井竜王のいわゆる「藤井曲線」らしい快勝譜となりました。第2局は10月16日(木)・17日(金)に福井県あわら市の「あわら温泉 美松」で行われます。
水留啓(将棋情報局)
編集部おすすめ