デル・テクノロジーズはは10月3日、年次技術カンファレンス「Dell Technologies Forum 2025」を開催した。

2025年は「AI」「モダン データセンター & マルチクラウド」「モダン ワークプレイス & PC」の3つがテーマ。
ここではDell Technologies グローバル チーフ テクノロジー オフィサー & チーフAIオフィサーのJohn Roese氏がキーノート・スピーカーを務めた基調講演の概要をお届けする。

日本と世界で導入進む生成AI、「競争力」を決める武器に

Dell Technologies グローバル チーフ テクノロジー オフィサー & チーフAIオフィサーのJohn Roese氏は冒頭、AIが世界と日本で導入が広がっていること、そしてAIを利用するためのデータ基盤が重要であることに言及。

John Rose氏はAIが幅広い業界で活用され始めているが、適切に構築されたITインフラを備えた上でAIを迅速に導入することが業務の効率化とパフォーマンスの向上につながり、また同じAIツールを使っていても重要な独自データを持つ企業が優位になると話した。

デルは2024年5月、「Dell AI Factory」というコンセプトを立ち上げている。AIを安全かつ効率的に活用するための包括的な基盤で、企業がゼロからAI環境を構築するのではなく、用途により最適化された環境を「工場」のように利用できる仕組みだ。現在3,000以上の顧客がDell AI Factoryを利用しているという。

デル社内ではAIインフラの構築について約1,000ものプロジェクトが行き詰っていたという。これを解消するために営業、サービス、サプライチェーン、エネルギーといった“商業的な成功”に関する事業を優先し、どの課題にどんなAIを使うかを検討した上で、業務プロセスを変革。結果、例えば営業チームがより顧客対応の時間を使えるようになったなど、業務の運営方法や収益性、効率性などが大きく改善した。

日本市場について、毎年のように来日して顧客と対話を続けるRoese氏は「日本のAI導入は毎年進んでいる。来年またこの会議を開くときには、多くの方が自分達のようになると確信している」と強い期待を示した。

商談準備から提案までSBの「クリスタル」が支援

ゲストスピーカーの1人、ソフトバンク IT統括 プロダクト技術担当 専務執行役員 兼 CIOの牧園啓市氏は、ソフトバンクのAIエージェント戦略について紹介。
ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が提唱する企業向けカスタマイズAI「クリスタル・インテリジェンス」(Cristal intelligence)の活用イメージにも話が及んだ。

ソフトバンクグループではグループ全体で「10億のAI Agents」を作っていくというビジョンを掲げている。同社はインターネット黎明期に課題を1つ1つ解決して導入を広げていった事業背景から、AIエージェントの社内導入も課題を克服しながら進め、全社員が一度は使ったという100%の利用率を達成したと話した。

また、牧園氏は「クリスタル」の活用例として商談準備や提案、クロージング、次回アクションといった営業活動の全プロセスを「クリスタル」がサポートする活用イメージを紹介した。例えば朝の通勤中にAIがその日の重要な商談情報をリマインド。出社後には顧客に最適化した商談資料とトークスクリプトをAIが提案する。商談中は顧客の反応に応じてリアルタイムで資料を提示したり、効果的な質問を提案したり――といった具合だ。もちろん商談後には自動で次回の日程調整やその商談準備も行ってくれる。

牧園氏は「営業全体がクリスタルによって再定義されていく。本当の意味でAIが利益を上げる方向に向かっている」と話し、これと関連しAIが活用できる基盤データ作りおよび、情報へのアクセスコントロールの重要性にも言及した。

このほか、ソフトバンクの子会社「SB Intuitions」が手掛ける国産LLM「Sarashina」の進捗についても説明があった。Sarashinaでは質の高い基盤モデルを「先生」と位置づけ、データセットの収集とチューニングを行い、専門的な知識を追加することで“専門家”モデルの開発を進めている。


初期段階では70億パラメーターのモデルを動かしていたが、段階的にパラメーター数を拡充、2024年度には4,600億パラメーターのモデル開発を実現し、2025年秋の商用化を進めている。大規模なAIモデルの開発にはこれを支える計算基盤が必要となるため、現在10,000基超のGPUクラスタをさらに増強する計画だという。最終的には25.7エクサフロップスを超える性能を目指し、このためサーバの空冷から液冷への移行を進めているとした。

Copilot導入で月6.9時間の効率化、東芝のAI活用戦略

もう1人のゲストスピーカー、東芝 上席常務執行役員 最高デジタル責任者の岡田俊輔氏は「AIは目的を実現するための手段」と位置付け、東芝の生成AI戦略を解説した。

エネルギーシステムソリューションやインフラシステムソリューションなど幅広い事業を展開する東芝では、持続可能な社会に貢献するためにAIを積極活用する方針という。

東芝グループは国内6万人弱の組織だが、現在1.5万人強の社員がMicrosoft 365 Copilotを業務で利用。一人当たりの期待効果(どの程度業務効率化ができたか)は1年前が5.6時間/月だったところ、2025年7月では6.9時間/月という結果がアンケートから算出された。

東芝グループではAIを別予算ではなく通常経費内で導入し、ワークショップやAIエージェントを社内で公開するなどの取り組みを実施。社内データの活用に関してはガイドラインを設定し、社員が安心してAIを使える環境作りも進めたという。

AI活用による業務効率化の事例として、発電プラント構成部品の見積もり業務では、顧客からの文書の理解、解釈、仕様チェックなどで約100時間かかっていたところ、生成AIによる社内アプリ「文書チェッカー」で約20%の工数削減を達成した。また、十数年前のレガシーなプログラム資産をAIに読み解かせ、概要仕様を生成するといった活用も行ったという。

東芝グループは社内のAI導入実績を踏まえ、製造業の知見と最先端の生成AI技術を融合させた「生成AIマネージドサービス」を社外企業へ提供している。


岡田氏は、AIにより社内業務を効率化するには専門領域で深く活用する“縦”と皆が汎用的に使える“横”の両方での浸透が非常に大事だと説明。

また、AI活用における蓄積データの重要性に触れ「自社データだけでなく、必要に応じて会社の枠を変えてデータを活用できる環境やエコシステムが生まれることが、次の現象としてあり得る。東芝はオープンマインドで、皆さんのためにデータを活用していく」と締めくくった。
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