藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦する第73期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、挑戦者2勝1敗で迎えた第4局が神奈川県秦野市の「元湯 陣屋」で行われました。対局の結果、力戦模様から抜け出した藤井王座が99手で勝利。
伊藤叡王の奇策をかわして2勝2敗のタイに持ち込んでいます。
○意表の「サイキック角」

奪取まであと1勝と迫った伊藤叡王は後手番で迎えた本局で趣向を披露します。4筋の歩越しに角を上がったのは、一部で「サイキック腰掛け角」と呼ばれる力戦策、伊藤叡王は9月に行われた日本シリーズ・佐藤天彦九段戦で採用歴があります(結果は敗北)。序盤早々から「非常に難しい」(局後の感想)とした藤井王座は慎重に時間を使って対策を考慮します。

藤井王座が角交換を拒否したことで盤上は持久戦へ。先手は雁木、後手は矢倉に組んでじっくりした駒組みが続きます。均衡が崩れたのは夕食休憩後のことでした。「すこし苦しめかなと思って」と局後に語ったように勝負手気味に左辺を開拓した藤井王座ですが、この数手後にじっと角を2八の地点まで引いたのが読みの入った好手。好調な攻めを得て形勢の針が先手に振れはじめました。

○藤井王座の勝負手が実る

藤井王座の角引きは一見すると自らの飛車道を止めるだけに指しづらいものの、パッと目につく▲3七角では後手から桂跳ねの勝負手があると読んでの選択。愚形の好手を軽視した伊藤叡王は「ここからの数手で差が開いてしまった」と悔しさをのぞかせました。一方、優位に立った藤井王座は勝利に向けた一本の道を進むよう一気にアクセルを踏み込みます。


数手後、藤井王座の放った攻防の角が決め手となりました。根元の桂さえ外してしまえば逆転の見込みがありません。終局時刻は20時3分、最後は自玉の受けなしを認めた伊藤叡王が投了。五番勝負の行方は最終局に委ねられることになりました。一局を振り返ると序盤は伊藤叡王の趣向が奏功したものの、終盤の入り口で藤井王座の放った勝負手が実を結んだ形に。

局後、ファンの前に姿を見せた藤井王座は「第5局までに実力を高めて臨みたい」と抱負を語りました。注目の最終局は10月28日(火)に山梨県甲府市の「常盤ホテル」で行われます。

水留啓(将棋情報局)
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