●意思決定に必要な「問いを立てる力」を育む要因
日本のビジネスを牽引する著名なCxO(Chief x Officer)の皆さんが今、何を考え日々ビジネスに励んでいるのかを深掘りするべくスタートした本連載。聞き手は私、「Japan CxO Award」の主催を務め、CxO人材採用事業に日々携わるBNGパートナーズの代表取締役・蔵元二郎が務めます。


今回は、グロービス・キャピタル・パートナーズの代表パートナー、今野穣さんにお越しいただきました。アンドパッドやREADYFOR、ライフネット生命など、視座高く社会変容に取り組み企業をいち早く見出して投資し、ともに伴走してきた今野さんが思う、伸びる人の特徴や、強いチームとは何か。早速うかがっていきましょう。

○意思決定に必要な「問いを立てる力」を育む要因

――本日はよろしくお願いします。まず早速ですが、多くの企業のCxOと直接深くやりとりしている今野さんが思う、今、最前線で活躍するCxO人材とは、どのような人でしょうか。

政治や外交など、外部環境の不確実性が高まりも含め、変化が激しい時代ですから、意思決定をする力が問われます。そこには、前提として「問いを立てる力」が必要です。こういうことを考えなきゃいけないんじゃないか、今はこのくらい大胆な意思決定をするタイミングなんじゃないか…そのように、問いがなければ意思決定はできません。「問いが立てば、7割のことは解決する」と言われますよね。

――その「問いを立てる力」は、先天的なものなのか、経験で育まれるものか、置かれた環境やネットワークが関係するのか…どのように思われますか?

さまざまな要素が複合的に絡み合っていると思いますが、リーダーシップの経験と、インプットの多さは強く影響していると感じます。特に「リーダーシップ」は座学では身に付かず、何かを決めて問題解決する経験をしないと培われないという自負がありますね。そして、問いがシャープだなと思う人は、インプットが多い。
行動力の多さも影響しますし、特に優秀な経営者においては「どうしてこんなことを知っているの?」という、一部の人しか知らない情報を得ることに長けています。

――僕自身、エグゼクティブは良質な情報と接することができるネットワークを持つべきだと考えているので、今野さんに審査員を務めていただくJapan CxO Awardも、ただ素晴らしいCxOを表彰するだけでなく、コミュニティの性質を持たせたいと考えています。今野さんは、この情報が溢れる世の中で、どうしたら良質なインプットを得られるとお考えですか?

やはり、良質な情報を持つ人と繋がれているかどうかは重要です。そこには何百人もの広い関係は必要なく、10人でもいいので、深く継続的な関係性が大事ですね。ただし、価値の等価交換をしないと、関係性は続かないと思います。いい情報を得られるネットワークにいるためには、自分も良質な情報や洞察力を持っていないといけません。

――今野さん自身は、そのようなネットワークをどのように形成してきました?

事業、場合によっては会社もできていないところからビジネスを支援するVCは、情報が命の世界。僕が若手のアソシエイト時代は、同年代はもちろん、自分よりシニアの方々にいかにかわいがってもらえるように、情報交換やコミュニケーションが取れるかを心がけていました。会社の見方や投資や支援の方法など、経験値が蓄積になるので、サンプル数は多ければ多いほどいい。30歳手前くらいからは、違う領域で汗をかいてきた方が蓄積してきたものをいかに交換できるかを特に意識していますね。

――僕の言葉で言うと、「大御所」や「パイセン」にかわいがられることですね(笑)? 最近、今野さんのように「チャームであること」が見直されている気がしますが、その秘訣は昔からご存じだったのか、それとも誰かに教えてもらったんでしょうか?

僕にチャームがあるかはわかりませんが(笑)、僕の人格形成のレシピはシンプルで、転校生、サッカー部などでのリーダーシップ、親の単身赴任の3つで片付く。チャームの部分で言えば、「転校生」が大きく影響していると思います。
「転校生」は、スターかいじめられっ子のどちらかになることが多く、アベレージにはなりにくい外れ値です。そこで順応性やコミュニケーション力を学び、チャームのようなものが培われた可能性がありそうです。もしかしたら、まず自らの意志や目的を持つこと、それが達成されるために周囲を巻き込みながらトライアンドエラーを繰り返したこと、その過程での失敗からの教訓を次に活かしてきたこと、あたりが要因かもしれません。

●強い経営チームに必要なこと
○強い経営チームに必要なこと

――多くの人や企業の可能性を見極めてきたと思いますが、ズバリ「伸びる人」かどうかは、どこに着目するとわかりやすいものなのでしょうか。

カッコつけた話に聞こえるかもしれませんが、僕がよく見るのは「モチベーションの所在」です。「自分自身が成功したい」人は伸びにくいです。なぜなら、自分より優秀な人を採用できないからです。最初はグッと勢いよく立ち上がっても、組織の力で伸ばさなければいけないフェーズになると、途端に頭打ちになる。一方で「この課題を解決したい、世の中をなんとかしたい」と社会にモチベーションがある、もしくは「そのモチベーションがあるように仕立てられる」と、伸びる傾向にありますね。

――ちなみに、特に印象的なCxOを挙げるなら、どなたでしょうか。

CxOは、x部分はその人が持つ役割分担の最も重いところですが、経営者の一員として、何を意思決定するのか、そこが重要ですよね。

CFOで言えば、五常・アンド・カンパニーの堅田さん、アンドパッドの荻野さん、スマートニュース秋山さん。
複数の大規模な会社で、上場企業としてのIRと、ファイナンスと、事業戦略の全部ができるという点で、この3人以上の方はそういないと思います。HelpfeelのCOO宮長さんや、TebikiのCOO桵澤さんも、この方がいるからこそ会社が伸びていって、CEOとも対等に話せるので、非常に素晴らしいですね。

――今野さんは常々「経営チームの強さ」が重要と仰っていますが、今野さんの言葉で言えば「強い経営チーム」とは、どんなものでしょうか。

難しい質問ですね…「フラットな関係性」と言おうと思いましたが、フラットすぎても良くないことがある。CEOが意思決定をしなければいけないときや、適切なガバナンスを社内でも利かせなければならない時もある。

アンドパッドの稲田さんがよく使っている言葉を借りれば「背中を預けられるメンバー同士であるか」でしょうか。先ほど挙げたCFOの荻野さんに入っていただく前に、他にも素晴らしい候補者の方々がいらっしゃったのですが、拙速に意思決定されずに、「自分が背中を預けられるか? という観点での解像度をもっと上げるために、もっと沢山の方にお会いしたい」と。それはスキルではなく、人間性などの相性に関わる視点です。人によって求めるものは違って、いい部分が好きか、嫌な部分にストレスがないか。それこそ恋愛のように、みんながみんな同じ人を好きになるわけではないから、なかなか言語化するのが難しい部分ですけどね。

――この記事を読んでくださっているCxO側の方も、きっと「どうしたら私たちはもっと強いチームになれるんだろう」と考えているのではと思いますが、どう作り上げていくのがいいでしょうか。僕自身も、純粋に聞いています(笑)。


うちのファームは事業会社ではないので、一般論とどのくらい重なるかはわかりませんが、あくまで自社の感覚で話をすると、健全な競争環境を作っておくことです。ある人があるポジションに安定的にいられるとわかった瞬間、出力が下がります。そこに付随して、結果だけではなく貢献そのものに対しても、日常的に評価し、透明性の高いフィードバックをすること。仮に同世代5人で競争していて、いつか1人を選ばざるを得ないとき、それでも4人を失いたいわけではないため、残る4人への説明責任が発生しますから。

もうひとつは、5年後、10年後の組織図を常に描くこと。仮に自分が引退したときや、トップマネジメント層が去ったとき、どんな組織図であるべきか。思考実験として、5年後に何人がCxOやその下のVPになれる力を持つか、足りなそうであれば採用が必要だと、考えて行動するきっかけになります。

――実際「だんだんいいチームになってきたよね」という企業で、思いつくのはどこでしょう?

ここまで話してきた内容とは違う意味かもしれませんが、ヤプリですね。ヤプリの庵原さんは、CxOを採る順番とタイミングが秀逸だった。投資ラウンドで言うシリーズAの後にCCOのような市場啓蒙に長けた方を採用し、シリーズBの後にCFOを採って、シリーズCのタイミングでCMOを採った。このタイミングでこういう人が必要だと、事業の課題のタイミングにフィットしていた…つまり、「問いが立っていた」んでしょうね。優秀な人は、数週間や数ヶ月では採用できませんから、採用する1~2年前から会っていたんです。


僕は、シリーズBまではファイナンスはCEOが自ら担うべきだと考えています。どれだけファイナンスが大事かを知る意味でもそうですし、そのくらいのステージまではCEOに投資されるから、CEOが出てこないと資金が集まらない。さらに、優秀なCFOはまずシリーズAの会社にはそう来ないので、最速でもシリーズBの後くらいじゃないと、いい人が採れないんです。

○日本発の企業なら、国家的な課題に取り組んでほしい

――最近はもっぱらどこに行っても出る話題が、やはりAIによるパラダイムシフトですが、どんな大きな影響が出ていますか?

プロダクトとオペレーションの両面ですでに影響が出ています。スマホが登場したときにすぐにアジャストできなかった会社が遅れをとったのと似たような感覚です。既存のサービスにどれだけAIをまぶしていくかもそうですが、最初からAIを活用しているAIネイティブカンパニーがどんどん出てきて競合になる中でのリソース配分が大きな変化ですね。AIによって生産性が上がる分、エンジニア周りの採用を減らしたり止めたりするケースを耳にします。

――投資界隈では、ディープテックが増えてきていますが、経営チームが担う役割やメンタリティのありかたに何か影響は出ていますか?

プリミティブな話で言えば、ファウンダーがプロフェッサーなどアカデミア関連だと、まず経営人材や事業開発人材をうまく見つけられないという問題をよく聞きます。もうひとつは、今までベンチャー企業がほとんどタッチしてこなかったし、する必要もなかった人たちとのネットワーク作りや事業開発が必要となったこと。三菱重工などの超大手企業や、JAXA、もしくは各省庁とコミュニケーションが取れる人材が大事になりますし、我々のようなVCはそこをサポートしていく必要があります。面白いのは、ディープテック関連企業を同時並行で見ていると、最近どこも工場長経験者を募集していること。個別の技術開発はできても、フィジカルに量産していくフェーズで「何が必要で、何が落とし穴なのか」は、僕らですらまったく「問いが立たない」分野です。
それでいて、そういった経験者はなかなか表に出てこない。これまでのソフトウェアや、コンシューマーインターネットの領域とは、勝手が違いますね。

――今野さん、中でもディフェンステックに興味があるのかなと推察したのですが、どうでしょう。

アメリカのVC投資はほぼディフェンステックになってきています。僕個人の趣向としても、せっかく日本発の企業なら、国家的な課題に取り組んでほしいと、優先順位を上げています。防衛関連予算は、年を経るごとに増えているように思いますし、安全保障上の論点の重要性から、当然扱わないといけないジャンルです。
投資するときにこだわっているのは、やっぱりその技術が、どんな命題へのソリューションかが、クリアになっているかどうか。技術のプレゼンテーションだけでなく、なんのお題を解くためにその技術を使おうとしているのかは、創業直後であっても持っていてほしいですね。

個別の話で言えば、ダイヤモンドで半導体を作っている大熊ダイヤモンドデバイスという会社に、非常に注目しています。ダイヤモンドは、純粋にジュエリーとして評価されているように、物質として最高のものです。とても硬く、熱伝導率も高く、冷却の必要がない。世界で30年研究されていた技術が、福島第一原発の廃炉作業の際、非常にタフな環境で動く半導体がなかった課題に対して、実用化されました。そういった日本しか経験していない課題から始まったことが競争優位性に繋がっていて、原発で実用に耐えたなら、例えば次は宇宙だと、広がりを見せています。

――最初にうかがった「CxOに必要な力」も「問いを立てる力」に始まり、伸びる人は「社会課題を解決しようとしている」、そしてディフェンステックの話も含め、ずっと一貫したことを仰っていますよね。

そうですね。僕は単純な人間なので(笑)。

今野さんのお話は、一貫して「いい問いを立てられるか」がポイントでした。
その前提には「自分のため」、「会社の売上のため」以前に、「世の中の社会課題をしっかり見て、その解決をイメージできるか」があります。

さらに、その土台として「いい人間関係を築き、いい情報をインプットすること」の重要性を教えてくれました。人が知らない「ここだけの話」を、いいコミュニティに所属し、互いに貢献しあいながら、どれだけ得られるか。だからこそ、これから開催するJapan CxO Awardも、コミュニティの性質を持たせたいと考えています。自分が居心地がいい場所だけにいるのではなく、いつもの業務だけをしているだけでもなく……目指すは、脱・井の中の蛙。いつもの井戸を出て、より良い世界を見て、より良い世界をともに作りましょう。

■今回お話をうかがったのは…

グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 今野 穣氏
東京大学法学部卒、アーサーアンダーセン(現PwC)、2006年グロービス・キャピタル・パートナーズ入社、2013年パートナー就任、2019年代表パートナー就任(現任)。日本ベンチャーキャピタル協会常務理事(現任)、東京大学部工学部非常勤講師(現任)、早稲田大学商学部招聘講師(現任)。Japan CxO Award審査員。

蔵元二郎 株式会社BNGパートナーズ 代表取締役。1975年生、鹿児島県出身。九州大学経済学部経済工学科を卒業後、一部上場金融機関にて、人事・経営企画・金融庁対応に従事。その後、スタートアップ企業で新規事業の立ち上げ、大手ベンチャー企業で人事部長・海外事業部長・新規事業部長・社長室長などを歴任し、27歳で株式会社ジェイブレインを共同創業、取締役最高執行責任者に就任。上場直前期にリーマンショックを経験した後、2009年にBNGパートナーズを設立。代表取締役に就任(現任)。鹿児島イノベーションベース理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授なども務める。2025年、次世代リーダーのロールモデルとなるCxOを選出・表彰し、重要性を社会に広く認知させるJapan CxO Awardを立ち上げる。 この著者の記事一覧はこちら
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