エア・ウォーターは10月10日、長野県松本市に地産地消エネルギーを活用した資源循環モデルの実証施設「地球の恵みファーム・松本」を開所した。同社は地域で発生する剪定枝や竹などの未利用バイオマス、食品工場などから出る廃棄物をガス化・発電。
開所式当日は、記者会見とオープニングセレモニー、施設見学が行われ、自治体や官公庁、関連会社など多数の来賓が出席した。
エア・ウォーターで培ってきた技術・人材を社会や地域課題の解決へ
記者会見の冒頭では、エア・ウォーター代表取締役社長の松林良祐氏が、同社が掲げるパーパス「地球の恵みを、社会の望みに。」について触れながら、施設の狙いを語った。
同社はこれまで産業ガスや医療、エネルギー、農業食品など幅広い分野の事業を展開してきた。松林氏は、そうした事業を通じ培った技術や人材を活用し、社会や地域課題の解決へとつながるソリューションの提供を進めていく考えを示した。
また、松林氏は近年の課題の一例として気候変動を挙げ、水産資源や農作物が安定して供給できなくなっている現状に言及。こうした問題を解決する手段として、同社の技術を活かした地域の資源循環モデルを「地球の恵みファーム・松本」でモデル化したと説明した。
松林氏は「ただ単にソリューションをモデル化するだけではなく、各地域で廃棄されてきた資源を活用し、その地域にあった循環型のモデルを構築していく。そういう活動をしていきたい」と語った。
エア・ウォーターの事業紹介と今後の展望
続いて、同社 グリーンイノベーション事業部長の草場俊氏が、事業ポートフォリオを紹介。地球環境とウェルネスの2つの事業を連携していることが特徴だとし、「今日ご覧いただく『地球の恵みファーム・松本』も、エネルギーや産業ガスといった地球環境領域、これとウェルネス、アグリ&フーズといったものが連携している施設です」と語った。
草場氏は、長野県が同社にとって重要な拠点であることにも触れた。
同社は現在、中期経営計画「tellAWell 30」のセカンドステージを推進しており、持続的成長に向けた事業ポートフォリオの変革に取り組んでいる。成長戦略の一つとして、再生可能エネルギーやカーボンニュートラル、食の安全保障など、社会課題の解決につながる分野へと事業をシフトしていく方針だ。
安定収益を生み出す産業ガス事業を基盤に、社会課題の解決を目指すカーボンニュートラルやアグリ事業へ集中的に投資。バイオメタンの製造やCO2の回収・リサイクル、食の安全保障に貢献するアグリソリューションなどでの新たな事業展開を進めている。
○「地球の恵みファーム・松本」を支える 4つの施設と2つの設備を披露「{#ID3}
施設の概要を説明したエア・ウォーター グリーンイノベーションユニット グループリーダーの江口明日美氏によると、「地球の恵みファーム・松本」は主に4つの施設と2つの設備で構成されている。
まず、「バイオマスガス化プラント」では、剪定枝や竹といった木質系バイオマスを用いて、ガス化炉で合成ガスを生成。このガスで発電を行い、得られた電気や熱は施設内の動力として利用されている。
「メタン発酵プラント」では、地域の食品工場などから出る食品廃棄物を原料にメタン発酵を実施。発酵で生じたバイオガスを使って発電し、発酵後に残る消化液は脱水処理を経て肥料として地域へ還元する予定だ。
「農業ハウス」では、先述の2つの施設で発生する排熱や排気ガスから分離回収したCO₂を活用し、トマトの栽培を行っている。さらに、栽培時に出る葉や茎などの廃棄物をメタン発酵の原料として再利用し、エネルギーと資源の循環を実現している。
「陸上養殖施設」では、人工海水を用いてサーモンを養殖。安定して高品質な魚介類を得るための設備は、グループ会社と連携して構築しているという。
加えて、2つの設備として、「ReCO2 STATION」と「VERPA」を導入。ReCO2 STATIONでは排気ガス中のCO₂を回収し、液化炭酸ガスやドライアイスを製造する。VERPAは縦型のソーラーパネルで積雪に強く、両面発電が可能だ。
最後に江口氏は、これらの施設・設備を組み合わせた「資源循環の仕組み」を紹介した。山林や地域の食品工場などから原料を得て、各施設でエネルギーや資源へと変換。その電気や熱を施設内で循環させ、最終的に肥料・作物・ドライアイスなどの形で地域に還元する。まさに地域で完結する循環モデルが描かれている。
多くの来賓が訪れた開所セレモニー
記者会見の後には、オープニングセレモニーが行われ、最初にエア・ウォーター 代表取締役会長の豊田 喜久夫氏が登壇した。
豊田氏は、官公庁、長野県、松本市の関係者や協力企業に感謝を述べ、「本日はぜひ施設をご見学いただき、それぞれの現場で役立つ気づきやヒントを持ち帰っていただければ」と語った。
また、「松本は、(エア・ウォーターの前身である)旧大同ほくさん時代から縁のある地。
「ここまで来られたのは、地域の皆さま、そして社員一人ひとりの力があってこそ」と感謝を述べた。
さらに、「地球環境とウェルネスを2つの軸に据え、事業を整理しながら取り組んできた」と語り、「この『地球の恵みファーム・松本』も、その流れの中で生まれた取り組みのひとつ」と紹介。陸上養殖など、新たな食料供給モデルの意義にも触れ、地域における資源循環の可能性を語った。
会長挨拶に続き、松本市長の臥雲義尚氏、経済産業省 関東経済産業局長の佐合達矢氏、環境省 参与・前中部地方環境事務所長の小森繁氏が登壇し、祝辞を述べた。それぞれ、地域資源を生かした循環型モデルの意義や、脱炭素の推進への期待を語った。
祝辞のあとには、登壇者によるテープカットが行われ、施設の門出を華やかに祝った。 その後、出席者らによる施設見学が行われ、バイオマスガス化やメタン発酵、陸上養殖など、地域資源を活用した循環の仕組みを実際に確認した。
「地球の恵みファーム・松本」は、地域に根ざした資源循環モデルの実証拠点として、今後の展開が期待される。