●マーケティングは収益を上げる「手段」
日本のビジネスを牽引する著名なCxO(Chief x Officer)の皆さんが今、何を考え日々ビジネスに励んでいるのかを深掘りするべくスタートした本連載。聞き手は私、「Japan CxO Award」の主催を務め、CxO人材採用事業に日々携わるBNGパートナーズの代表取締役・蔵元二郎が務めます。
今回は、ラクスルグループCRO(Chief Revenue Officer)と、AIエージェンシー・ノバセルの代表取締役社長を兼務する、田部正樹さんにお越しいただきました。2014年、ラクスルにCMOとして入社し、テレビCMを中心に累計50億を超えるマーケティング投資を行い、5年で売り上げを20倍にした立役者。現在「マーケティングの民主化」を掲げ、マーケティング支援事業を推進する田部さんに、CxOとは何か、AI時代のマーケティングの変化などを聞きました。
○マーケティングは収益を上げる「手段」
――本日はよろしくお願いいたします。まず、今年の8月1日付で、ラクスルのCMO(最高マーケティング責任者)からCRO(最高収益責任者)に役職名を変えましたが、これは田部さんの意思として、どういった経緯で変えられたのでしょうか?と
まず、「CMO」が何なのか、定義がかなり曖昧でした。グローバルでは、明確に売り上げや利益の成長責任を持ち、それを達成しなければクビになりますが、日本ではそうとは限らず、必ずしも利益にコミットしている人ばかりではない。でも、マーケティングは本来、売り上げと利益を最大化する手段。収益を上げることこそが、僕のやるべきことです。収益にコミットする姿勢を明確にするため、役職をCROに変更しました。
――そういった考えは、ずっとあったのでしょうか。
2社めのテイクアンドギヴ・ニーズでの経験が大きいと思います。最初に就職したマルイでは、マーケティングの仕事は「お金を使う」ことを前提に、決められた予算をどう消化し、売り上げを上げるか、というもの。
稟議を上げるたびによく「自分のお金だったら、それをやるのか?」と言われ、「確かに、自分のお金だったらやらないな」と思うことも何度もありました。この会社と自分の感覚を一体化させるのは、まさに経営者の感覚。マーケターと経営者の一番の違いを早いタイミングで学ぶことができたのは幸いでした。さらに、マーケターは広告宣伝費、マーケティング費、売り上げしか見ていない状態に陥りがちですが、PLの他のあらゆる項目を見て改善し、会社の時価総額を上げるという経験ができたのも、今に繋がる転機でしたね。
――大企業にいると、規模の大きさでどうしても利益に鈍感になってしまうのはある程度致し方ないと思いますが、田部さんはなぜ、そこに気付けたのでしょうか?
強いて言うならば、僕は能力をアップデートしていきたいという向上心が非常に強くあったとは思いますが、能力の問題ではなく、ベンチャー企業に身を置いたという環境の要因が大きいです。環境でいえば、P&Gの例がわかりやすいでしょう。多くの企業は、「多少利益を削っても、売り上げが上がればOK」という考え方になりがちですが、P&Gではマーケターとして入社をしても、ブランドマネージャーという形でPLの責任を全部背負います。その環境に身を置くことで、売上ではなく“利益を上げるために何を変えるべきか”を考える習慣が自然と身につきました。
○500件営業 - 自分で全部やって気付けたこと
――ラクスルのCMOを務め、テレビCMを中心にマーケティング投資を行い、その経験からノバセルを立ち上げたことは田部さんの代表的な実績の一つだと思います。ノバセルが成功した要因を挙げるなら、何でしょうか。
2つあります。まずひとつは、ラクスルグループは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを掲げているのですが、この「仕組みを変える」がかなり深いテーマ。すでに世の中にある仕組みで、問題があるところを変えて、顧客価値に変換することが重要です。例えばノバセルでいうと、テレビCM。僕自身がラクスルでテレビCMに多額の予算を使ったときに「これだけ多くのお金を投資しても、効果を説明できる人がいない」という明確な課題がありました。そこから効果を数値化し、デジタル広告のように運用・改善できる方法を開発し、顧客の課題を解決できたことはまず大きな要因です。
――もうひとつは何でしょうか?
ラクスルグループからのリソースの調達がほぼゼロで、赤字が出にくかったことです。ラクスルは「新規事業を立ち上げるなら、まず自分でなんでもやる」という環境です。約500社に営業に行き、事業が成長したら採用し、さらには新人のパソコンのセットアップまで、全部やりました。
――本当に驚くほど全部ですね。
そうです。でも、会社を創業する人は、同じことをやりますよね。
――田部さんは、極端な言い方をするならば、重役の椅子にどっしり座っていることもできるのに、要所要所で現場主義を徹底されています。頭ではやるべきだとわかっていても、なかなか難しいという人も見かけますが、田部さんがそのメンタリティーを保てるのは、どうしてなのでしょう?
また繰り返しになってしまいますが、やはり環境に尽きます。「新規事業を立ち上げるなら、なんでもやる」のみならず、マネージャー単位でも、採用は人事に頼らずに自分で行うのが基本です。もちろん、面接設定のオペレーションなどは人事が担当しますが、スカウトなのか、リファラルなのか、エージェントなのか、どんな待遇で迎えるのか……すべて考えます。「採用もできない人は事業も立ち上げられないし、チームを作れない」というのは、昔からあるカルチャーです。
●15秒で説明できなければ、話は聞いてもらえない
○15秒で説明できなければ、話は聞いてもらえない
――今日まで、田部さんが出ているインタビュー動画などを拝見していて、思考の整理力がとても強い方だなと感じていて。どのようなことを意識している、こう磨いている、というものはありますか。
まず、マーケティングの仕事の中でも、かなり大きな仕事のひとつが「企業の価値を、顧客にわかりやすく変換して説明すること」です。会社や商品の強みをわかりやすく伝えることは、何よりやらないといけない。
――整理整頓して、お客さんにわかりやすく翻訳して伝えることが、そもそもマーケターとしてかなり重要な仕事だからこそ、磨かれてきたのですね。
特にベンチャー企業や新規事業では尚更です。僕が最初にいたマルイは、認知度があり、特に何もしなくても一定数のお客さんが来るので、「来る」前提でビジネスを考えればいい。でも、ラクスルもノバセルも、まず「誰も知らない」ところから始まりました。誰もよく知らない会社が営業に行っても、長々と説明したところで誰も聞いてくれませんし、まずそんな時間をもらえない。すると、15秒なり30秒なりで「あ、なんかすごく良さそうだな」と思ってもらえるよう、その会社にしかない独自性を発掘して明確にし、その魅力を伝える言葉を磨き抜いていかないといけない。その経験の積み上げはありますね。
――マーケターとしてのお話を多数いただいたところで、「経営者」としての話も聞かせてください。
CxOの「x」に、マーケティングのM、レベニューのR、ストラテジーのSとか、いろいろなものが入りますよね。少なくともその会社で、その分野ではCEOよりもナンバーワンの知見を持っていることがまずひとつの肝です。そしてもうひとつは、そのスペシャリティを最大限活かして、会社を成長させ、企業価値を上げること。その2つを兼ね備えて貢献するのが、CxOだと思います。特に日本では、CMOとついていても「ものすごくマーケティングに詳しいが、会社は成長させられない」人がいることもあります。その領域における名誉職になっている方も見受けられますが、それは本質的にはCxOとは違うと感じています。
――では、「会社の売り上げを伸ばす」力をはじめとした、CxOとしての視座やスキルは、どう磨けばいいと思いますか?
例えばCMOだとしたら、マーケティングの専門的な能力を上げていくとはまた別のところで、売り上げ責任を持って、PLの中で広告宣伝費と販売促進費だけを見るのではなく、事業全体を見る経験をしたほうが絶対にいいですね。なぜか。1億円の予算があるとします。それをマーケティングに使うこともできますが、全体を見ていればそれ以外の選択肢で売り上げを増やす方法を考えられます。1億円で年収500万円の営業を20人雇うことも、全員の給料を10%アップさせることも、顧客満足度を上げるためにコールセンターを作ることもできる。
――現実的に、そこまで裁量を持てない環境の会社もたくさんありますが、その場合は居場所を変えるのもひとつの手段でしょうか。
そうですね。ベンチャーやスタートアップ企業に転職する人は、大半がその経験を積むことが理由になっていると思います。
○中小企業こそマーケティングを。AI時代の変化
――田部さんは「マーケティングの民主化」を掲げ、ノバセルの事業を拡大していますが、改めてこれはどのような世界観なのか、改めて教えてもらえますか。
まず、マーケティングが何なのかというと、いろいろな定義がありますが、売り上げを上げる仕組みを作る、顧客価値を作るなど、何かしらで成長に寄与することです。ただ現状のマーケティングは、「お金のある大手企業」と「大手の広告代理店」のやりとりが大半です。一方で、僕の親族に、マーケティングなんてよくわからないまま、福岡で歯医者を経営している人がいる。僕はどちらの世界もよく知っていますが、「マーケティング」は、まだまだかなり閉ざされた世界です。日本国内の全企業のうち、99.7%は中小企業。そのうち大半の会社は、マーケティングを「お金がかかる、小難しいこと」として認識していて、使いこなせていません。
ただ本来、すでに認知度もあって売れている大手企業よりも、中小企業のほうが、よほどマーケティングを知ることによる変化量が大きいはず。だからこそ、もっと多くの人がマーケティングを使えるように変えることで、売り上げや成長に寄与していきたい。それが僕が提唱する「マーケティングの民主化」です。
――そのプロセスの中で、生成AIの登場はやはり大きな変化をもたらすと思います。ノバセルも事業をリニューアルし、AIエージェンシーとして舵を切っていますが、AI登場により、主にどのような変化が起きていると感じますか。
AIがインプットした情報をもとに、問いに対して正しい答えを出すのが生成AIの強みです。よく言われることですが、マーケティング業界やコンサル業界は、ある意味で知識の非対称性が武器。それ以外の業界でも、長く会社に在籍していることで知識と経験が蓄積し、それによって報酬や地位が変わっていました。それが、もはやAIのほうが瞬時に正しい知識を出せることも増えています。広告代理店やコンサルに高いお金を払って求めていた知識が、予算がない中小企業でも簡単に手に入る。新商品のキャッチコピーをすぐに100案考えてくれるし、デザイン能力がなくてもバナーもWebサイトも作れてしまう。僕が目指す「マーケティングの民主化」の文脈では、非常にいい変化だと感じています。
――AIが答えを出してくれるからこそ、人間の非常に重要な役割は、「どんな問いを立てるか」。そんな「良い問い」を立てるためのトレーニングには、どういったことが重要だと思われますか?
良い問いとは、課題設定ができること。つまり、ある事象に対して、「本当の問題は何なのか」に行き着ける力です。これは視点と視座を変えることが効くと思います。そのためには、月並みですが、人と会うことをはじめ、インプットを増やすことですね。AIで情報がいくらでも手に入る便利な世の中になっても、やはり「その人だからこそ」持っている視点や情報は、非常に重要。多くの人と会って、ある事象に対してどう見るのか、いろんな視点を入れることにより、課題に気付けるようになります。訓練として、ある赤字の商品があったときに「社長だったらどう思う?」と考えると、たどり着けなかった別の見方が出てくるかもしれない。そういったことの繰り返しだと思います。
○CxOになるために、一番重要なスキル
――CxOの方とお会いしていると、そうやってネットワーキング活動をされている方は、ほんの一部です。卵が先かニワトリが先かですが、視座が高いからその活動をしているのか、その活動をしたから視座が上がっているのか……最初の一回転目を回すのがなかなかハードルが高いという声を聞きます。ネットワーク作りはCxOアワードを通してやっていきたいことでもあるので、自分たちの力不足を感じるところもありますが、田部さんから見て「まずこうするといいよ」と思うことはありますか?
どんどん情報発信して、自分自身が誰かの「会いたい人」になることでしょうか。そうすると、自然といろいろな声がかかり、それを積み上げていくことでネットワークが広がります。厳しい言い方をすると、自ら情報発信もしていない方の「能力を上げたい」という言葉は、行動が伴わない嘘に感じてしまいます。ただし、「発信してください」と伝えて、実際に発信する人は、全体の1%です。「能力を上げたい」という思い自体は本当なのだと思いますが、なかなかコンフォートゾーンを抜けられず、殻を破れない。
ただ実際、経営層になると、体感95%は嫌なことじゃないですか。やりたくない仕事は多々あるけど、そこを乗り越えていけないと成り立たない。得意や苦手を超えて「間違いなく、やったほうがいいこと」に難なく取り組めるということが、CxOにとって一番重要なスキルに感じます。普通の人は、苦手に目をつぶり、得意なことしかやらない。もちろんそれも生き方のひとつで否定はしません。ただ、そういった人がCxOになれるのか、という視点で考えると、そのままでは一生難しいとは思いますね。
――田部さんの「意思決定の軸」は何でしょうか。
あまり考えずに、よく聞くような「悩んだら面白いほうを選ぶ」という雑な判断はしません。まず、各案件で重要な要素を分解していきます。そこで、「明らかにこっちのほうが成功する確率が高いだろう」というものは、もちろん誰も反対しないので、その通りに進めます。ただ、例えば新規事業をやるかやらないかなど「こちらの確率が高そうだけど、正直やってみないとわからない」ものは、「本気なのかどうか」。本気でなければ、どれだけ筋が良さそうでもうまくいきません。大企業の新規事業が失敗するのは、大半は、そういった「任命されて、とりあえずやった」ケースです。
――田部さんのnoteを読んでいても、人の熱量をすごく大切にされていらっしゃると思うのですが、逆にその「熱量」を、後から持つこと、持たせることは可能なのでしょうか。
結局、それが「ビジョン」だと思います。目の前のやるべきことを単体で見ると面白くなさそうだけど、これを最初の一歩として積み上げていけばこの未来に繋がっている。そう思えば熱量が生まれることがあります。目の前の仕事とビジョンを繋げるのが、経営者の大事な仕事です。そして、経営者が言うだけではなく、メンバー全員が同じビジョンを持っていられることが重要です。
――ここまでさまざまな話を聞いてきて、最後にふと気になったのですが、田部さんの「弱み」って、何ですか?
あれもこれもとやりたくなってしまい、何かにフォーカスするのが苦手です。経営者として何かに絞ることが大事なタイミングがありますが、それが得意ではないのが弱点。だからこそ、抑制してくれる人を意図的に近くに配置しています。もうひとつは、顧客視点に寄り添いすぎてしまうところでしょうか。言い方が良くないかもしれませんが、顧客に寄り添いすぎないほうが儲かることがあります。サービスの解約はわかりやすい例です。顧客から見たら、ワンクリックで解約できたほうが当然便利です。けれど、解約が難しいほうが、結果的に儲かりやすいのも事実。儲かっている会社は、顧客の利便性を追求しすぎず、「ずっとサービスが使われ続けるための、会社に有利なビジネスモデル上の仕掛け」が意図的に仕組まれているな、と気付くことが多いですね。顧客視点に寄り添いすぎずに判断することは、僕だけではなくマーケティング系の人は苦手になりがちです。ただ、顧客視点と会社視点、どちらも持っていないと、経営者としては厳しい。ここは意図的に変えていかないといけないと、今、45歳にして思っています。
田部さんとお話していると、背筋がぴんと伸びました。マーケティングだけではなく収益責任を持って高みを目指す姿勢、世の中のためにマーケティングを民主化させるという視座の高さ。僕自身、自分はビジネスパーソンとして、どう世の中を変えていけるんだろうということを考えていましたが、田部さんの目を見て話すと、CxOとしての視座が磨かれ、圧倒的に自分事になり、勉強になることばかりでした。ありがとうございました。
■今回お話をうかがったのは…
ラクスル上級執行役員 グループCRO ノバセル 代表取締役社長 田部正樹氏
株式会社ユーグレナの未上場期より、取締役としてCSO、CFO、COOを歴任。2012年のマザーズ、2014年の1部上場を経て、2021年より同社のCEOに就任し、全事業執行を務める。2023年退任。
大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年にテイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。14年8月にラクスル入社。マーケティング部長を経て、16年10月から現職に就任。ラクスルの成長を7億→210億(6年で30倍)けん引したマーケティングノウハウを詰め込んだ新規事業「ノバセル」を立ち上げ、マーケティングの民主化をビジョンに、5年で80億を超える急成長を続けている。22年にノバセルを分社化、代表取締役社長に就任。業界問わず成長を求める企業の経営×マーケティングのアドバイザー。経済産業省主催「始動」講師/メンター。
蔵元二郎 株式会社BNGパートナーズ 代表取締役。1975年生、鹿児島県出身。九州大学経済学部経済工学科を卒業後、一部上場金融機関にて、人事・経営企画・金融庁対応に従事。その後、スタートアップ企業で新規事業の立ち上げ、大手ベンチャー企業で人事部長・海外事業部長・新規事業部長・社長室長などを歴任し、27歳で株式会社ジェイブレインを共同創業、取締役最高執行責任者に就任。上場直前期にリーマンショックを経験した後、2009年にBNGパートナーズを設立。代表取締役に就任(現任)。鹿児島イノベーションベース理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授なども務める。2025年、次世代リーダーのロールモデルとなるCxOを選出・表彰し、重要性を社会に広く認知させるJapan CxO Awardを立ち上げる。 この著者の記事一覧はこちら
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