先日閉幕した大阪・関西万博で、KDDIは日立製作所などと共同で「未来の都市」パビリオンを開設し、少し先の未来を考える内容を提案して好評を得ました。

そのKDDIが、年に1度のプライベートイベント「KDDI SUMMIT 2025」を東京で開催。
ビジネス寄りの内容が中心ながら、通信やAIを柱とする最新テクノロジーを活用して、人手不足への対応や地域経済の活性化、災害対策などの社会課題の解決を目指す、少し先の未来が見える展示が多く見受けられました。

さらに、生成AIサービスによる誤った情報の拡散や、メディアなどコンテンツプロバイダーが制作したコンテンツの勝手な利用を防ぐなど、現在のAIサービスの課題を解決した新たなAIサービスをGoogleと連携して開発することも表明。メディアにとっても明るい未来が期待できる内容に、取材したメディア側からも期待の声が寄せられました。

KDDIがローソンに力を入れるワケ

今年のKDDI SUMMITは、7月に移転した新本社のある高輪ゲートウェイで実施されました。

技術展示でまず目を引いたのが、コンビニにおけるテクノロジーの活用で社会課題を解決する展示。少子高齢化で人手不足が深刻化する状況を受けて、コンビニの商品棚の欠品をチェックしたり、商品の品出し(陳列)を担うロボットを開発。AIを用いて、より高精度に作業できるよう工夫しています。

さらにユニークなのが、店内調理商品の作業手順をAIがガイドするスマートグラスの参考展示。スマートグラスの内蔵カメラがとらえた状況からAIが作業内容を判断し、次の調理手順を透過レンズ内に重ねて表示しつつ音声でガイドします。マニュアルを手にしながら作業する必要がなくなり、両手がフルに使えるのがメリット。日本語のみならず、多言語対応も容易とのこと。現時点では、単色の表示が可能なスマートグラスが製品化されているものの、フルカラー表示のスマートグラスは開発中とのことです。


在庫チェックのロボットや品出しロボットは、KDDI本社のある高輪ゲートウェイのローソン S KDDI高輪本社店で11月8日から実証実験を開始します。朝やお昼など混雑する時間を避け、来店者が少なくなる時間に稼働させるそうです。

ローソンと資本業務提携をしているKDDI。KDDIは、ローソンを自社テクノロジーの活用で人材不足を解消する場にとどめず、全国のローソンを地域活性や社会課題の解決の窓口、地域住民との接点、防災拠点の場として活用する狙いを持っています。

KDDI 代表取締役社長CEOの松田浩路氏は「auショップとは異なり、ローソンは他社ユーザーも含めてみなさんが来店する場所、というのがポイントです。よろず相談所(リモートで生活の困りごとを相談できるブース)を設置したり出張auショップを設けたりして、地域の人の拠点として利用してもらいつつ、地域経済にも貢献して、KDDIはいいことをやっているなと地域の人から信頼を獲得したい」と意欲を見せます。

Starlink Direct、先手必勝で価値創出ができた

技術展示では、Starlink衛星と直接データ通信が可能な「Starlink Direct」の実演も実施していました。Starlink Directは、対応スマホでGoogleマップやXなどのアプリでデータ通信ができるサービスで、国内の大手キャリアではKDDIのみが提供しています。

松田社長は「もともと、KDDIは新しいことを開拓していきたいと考えて動いてきた。他社に先駆けてStarlink Directをいち早くユーザーに届けられたのはよかったと感じている。世界初となり、まさに先手必勝で価値創出ができた。テクノロジーを商品化していくうえで、競合に先行することはとても大事なこと」と語ります。

Notebook LMを活用したAIサービス、高まる期待

KDDI SUMMITの基調講演で、KDDIはGoogle Cloudとの提携を発表し、Notebook LMを活用したAIサービスを展開すると発表しました。

昨今、さまざまな生成AIサービスを利用して調べものをする人が増えています。しかし、生成AIは誤った情報を返す可能性があり、利用者は正しい情報なのかどうかを判断する必要が求められます。また、オリジナルの記事や情報を掲載しているコンテンツプロバイダーにとっては、AIに自社コンテンツを無断利用される懸念も生じます。

利用者とコンテンツ提供者の両方にとって好ましくない現在の状況を改善すべく、KDDIはコンテンツプロバイダーと提携してコンテンツデータを取得し、それをGoogleのNotebook LMのプラットフォームに展開。ユーザーがチャットで問いかけると、取得したコンテンツデータの情報を基にAIが回答を返す仕組みで、正確かつ整理された情報が得られるわけです。

松田社長は「AIによるコンテンツの無断利用により、コンテンツプロバイダーはPV減や収益減が大きな課題になっている。そこにKDDIが何かできるのではないかと考えた。KDDIは、これまでさまざまなテクノロジーに潜む“影”を光に変えてきたので、AIも影の部分を光に変えていきたいと思う。Notebook LMは分かりやすく優れたテクノロジーなので、整理された情報が提供できる責任あるAIサービスにしたい」と意気込みを語りました。

すでに、価格.comなどのコンテンツホルダーの参入が決まっており、それ以外のところにも声をかけているそう。コンテンツホルダーには、サービスで得た収益を分配するレベニューシェアで還元する仕組みを整えます。
サービスは、当面無料で提供していく予定としており、現時点ではKDDI自身がどのようにマネタイズしていくかが課題だといいます。

良質なコンテンツを持つWebメディアにとっては、ビジネスを下支えしてくれる魅力的なサービスとなりそうで、今後の展開が注目されます。
大阪堺データセンター、既存設備を流用し短期間で開設

これらのAIサービスを動かす拠点となるのが、KDDIが大阪府堺市に開設した大阪堺データセンター。もともと、シャープの液晶パネル工場だった堺工場をデータセンターに改装した施設です。工場の建物だけでなく、用いられていた水冷設備や電源設備をうまく流用したことで、通常のデータセンター新設と比べて短期間で開設にこぎつけました。

KDDIのAI関連サービスで利用するほか、データを国内に置くデータセンターとして、データを外に出したくない外部企業のニーズにも応えます。2026年1月下旬の稼働開始を予定しています。
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