華やかなホールに所狭しと並ぶパチンコ・パチスロ台。その一台一台の開発には数多くの「人」が関わっている。
それらの人々は、どのような想いで開発に向き合っているのか、そしてなぜパチンコ・パチスロ業界を目指したのか。

本連載「P業界で働くということ」では、実際にパチンコ・パチスロ業界で働く人々をピックアップ。業務にかける想いや熱意、そして苦労や挫折、さらには転機や今後のビジョンなど、業界の「リアル」な現状に迫り、その声をお届けしていく。

今回は、福祉施設向けに開発された「トレパチ!」と呼ばれる一風変わったパチンコ台を手掛ける豊丸産業株式会社(以下、豊丸産業) 未来事業本部 未来事業部 販売統括部長の亀井裕人氏に話を伺った。

○福祉施設向けに展開されるパチンコ台「トレパチ!」

豊丸産業が手掛ける「トレパチ!(エアロビックトレパチ!)」は、福祉施設向けに改造したパチンコ台で、ハンドルの代わりに足漕ぎペダルを使って玉を打ち出すことが最大の特徴となっている。福祉施設には、特に男性の利用者が、運動をしたがらない、そしてそもそも施設に通いたがらないという課題があった。そういった課題に対して、「パチンコの力で運動を促し、パチンコの力で施設に通ってもらう。 これを一番の売りにしています」と亀井氏は説明する。

パチンコ台は、レクリエーション機器であると同時に、認知症の予防にも繋がるというところが注目を集めており、当初は、"音の静かなパチンコ台"として開発が進められたという。「認知症対策としてパチンコ台を置きたくても音がうるさくて使えない」という福祉施設からの指摘に対し、特殊加工を施した専用の消音球を開発するなど、現場の声を聞きながら開発を進めていく中で、利用者が運動をしたがらない、施設に通いたがらないという課題にも直面。そこで足漕ぎペダルによる"エアロビック"という要素が付け加えられた。

また、現在展開されている機種は、既存のパチンコ台がベースとなっているが、当初は完全オリジナルコンテンツとして開発。
認知機能のトレーニング要素が強かったこともあり、ボタンを利用した3種類のチャレンジ機能で絵柄を揃えることができるといった特徴も用意されるなど、様々な工夫が、トライアンドエラーを重ねながら取り入れられていく中、「色々な方面から、様々なご意見をいただき、それがまとまって今の形になっています」と亀井氏は振り返り、「『コマコマ倶楽部 with 坂本冬美』をベースにしてから、エアロビックという要素と相まって、非常に好評を得ています」と笑顔を見せる。

現在、豊丸産業では、「コマコマ倶楽部 with 坂本冬美」のほか、ダイナム 社とのコラボで開発された「アニマルマンション」をベースとした「トレパチ!」を展開。「トレパチ!」は、足漕ぎペダルで玉を打ち出すという機構だけでなく、任意で「大当り確率」の設定が可能となっている点も大きなポイントとなっている。これについて亀井氏は、「運動をしながらのプレイになりますので、大当りが全然出ないと逆に困るわけです。また、迎えの方が来るまでの5分間でプレイしていただき 、その5分間で当たりが出れば、気分良くお帰りいただけます。このような場面や状況に応じて、施設の方が簡単に設定を変更できるように設計しています」と説明する。

天井機能の搭載するなど、福祉施設および利用者のニーズに最適化が図られている。 利用者の運動に繋がることはもちろんのこと、どうすれば楽しんでもらえるか、満足感に繋がるかを考えた最適なバランスが追求されている。「我々は福祉業界を熟知しているわけではない」という考えが根底にあり、「実際に利用している施設様 の声を最大限に取り入れた結果が今の完成形に繋がっている」と亀井氏は言及。「トレパチ!」は、福祉施設で利用する以上、安心安全が最重要視されており、「万一の事態が発生しても、大きな事故に繋がらないように、石橋を叩きながらの設計・開発」が徹底されているという。
○社会貢献を柱とする「未来事業本部」へ異動

亀井氏が所属する未来事業本部は、福祉施設を対象とした「トレパチ!」などのレクリエーション機器を企画・販売する部署。14年前、豊丸産業が百年企業を目指していくうえで、パチンコだけではなく、第二の柱となる商品、そして事業を創出すること を目的とした新規事業準備室が前身となっている。


新規事業準備室は、豊丸産業が長年培ってきた娯楽に関する ノウハウを何とか高齢者や福祉の方面で活かしたいという、同社社長の強い思いから生まれたもの。その思いを引き継ぐ未来事業本部は、「社会貢献」を大きな柱として活動を続けている。

大学時代、パチンコ好きが高じて、パチンコホールでアルバイトをしていたという亀井氏は、ホールの事務所で店長とメーカーの営業の方が楽しそうに話しているのを見ていたことが、パチンコ業界入りの大きなきっかけになったという。「とても楽しそうな業界だと思ったので、店長に相談してみたところ、『君ならメーカーに向いている』と言われたので、実際に入社試験を受けることにしました」と振り返る。

豊丸産業を選んだ理由は、亀井氏の地元である名古屋のメーカーであること、そして、同社が当時展開していた「奇跡の電役キャプテンロバート」を見て、「ほかのメーカーとは違う、ちょっと変わったことをするメーカー」という印象が強かったことの2点。「完成されたメーカーよりも、自分と一緒にここからさらに成長できるメーカー」との思いから、豊丸産業に入社し、名古屋営業所でパチンコメーカーの営業マンとしてのスタートを切った。

営業時代は、豊丸産業の営業DXにも取り組んだという亀井氏。「業界的にも機械が売れる時代ではなくなって来ていることもあり、今までと同じような営業スタイルでは生き残ってはいけない」という状況を見据え、新たな営業スタイルの構築に着手することになる。「我々の営業は基本的に、ショールームに来ていただくか、実機を持ち込むかの二択。つまり、実機試打ありきの営業になってしまうのですが、それだと負担も大きいし、遠距離のお客様とのやりとりが非常に困難」という課題に対して、オンライン試打を活用したリモートプレゼンのシステムを構築する。「この仕組みにより、距離や時間の制約を超えてスピーディーに提案が行えるようになり、全国のホール関係者にタイムリーな情報提供が可能となった。「営業のDX化は、単なる効率化ではなく、"どれだけ早く誠実に伝えるか"という信頼づくりの一環です」と亀井氏は語る。


豊丸産業に入社して以降、営業一筋で、営業統括室室長や営業部長などを歴任した亀井氏にとって、「未来事業本部」への異動は、まさに青天の霹靂。しかし、同社の常務取締役で、未来事業本部の本部長を務める永野弘之氏や、開発部署の部長も同時に異動となったことから、「これまで、様々な試行錯誤を重ねてきたところから、いよいよ売っていくぞという、会社の本気の姿勢を感じた」という亀井氏は「パチンコ事業に比べれば、すぐに成果として目に見えるわけではありませんが、その分だけ社会的な意義が大きく、未来に向けた可能性が広がっている分野です。だからこそ、自分たちの手で形にしていく価値があると感じています」と意気込みを示す。

○福祉業界における「トレパチ!」の価値

未来事業本部はその発足以来、事業としての軌道化に時間を要しており、異動するまでは「正直、お荷物の部署」というイメージを持っていたというが、社長からの指示は「未来事業本部の確立」。既存の製品は、精査した上で継続するかどうかを判断し、継続しない場合は新しいビジネスを考案するという指示に対して、「十数年間やってきても花開いていないビジネスなので、最初は終わらせる気しかなかった」という亀井氏。「実際、新規事業準備室の頃、我々パチンコの営業マンも福祉施設を訪問して営業を行っていました。現場を見て感じたのは、施設の皆さまが日々の運営に本当に工夫をこらしておられるということです。 その中で、レクリエーションに使える予算は限られており、どうしても優先順位が後回しになりやすい。そんな現場の事情を知っていたので、当初はビジネスとしての難しさを感じていました」と語る。

しかし、営業としての目線を外し、あらためて福祉施設の現状を観察すると、レクリエーションの圧倒的な不足という課題に対して、「トレパチ!」が非常に重宝されているという現実を目の当たりにする。「導入していただいている施設の方とお話をすると、ものすごく評価が高い。多くの施設を訪ねるほどに、その存在意義を強く実感するようになった」という思いが膨らんでいく。
そして亀井氏は、「トレパチ!」の立ち上げの際に、社長が話していた内容を思い出す。

「福祉業界は非常に娯楽が少ない業界であり、だからこそ、『トレパチ!』のような娯楽を届けることで、いつか自分たちがお世話になる時に"この施設に入りたい"と思えるような、楽しい場所にしていかなければならない」。当時はあまり実感のなかったこの言葉も、いざ自分がその立場になると、「確かに、このままでは自分たちが入りたいと思える施設ではない」と痛感した。そこから「なんとか『トレパチ!』を大成させたい」という思いが強まっていった。

すでに「トレパチ!」が導入されている施設での評価の高さも亀井氏を後押しする。「実際の評価に対して、導入台数が伸びていないのは、圧倒的に認知度が足りていないことが原因」と分析。「つまり、認知さえ広がれば、ビジネスとしてもしっかりと成立する」という可能性を感じた亀井氏は、既存製品の継続に舵を切る。「実際、展示会などに出展すると、ものすごく引き合いが強く、豊丸産業のブースだけ人が賑わっているということも少なくない」という状況も踏まえ、亀井氏が豊丸産業に入社した理由のひとつである「ほかのメーカーがやらないことを切り開いていくメーカー」に相応しい事業として、決意を新たにする。

福祉施設からの評価も高い「トレパチ!」だが、施設で働く、特に若いスタッフの中にパチンコを知らない人が増えていることが、新たな課題として浮かび上がっている。「営業に行っても、まずはパチンコの説明から始めなければならない。例えば『ハンドルをひねれば玉が出ます』という当たり前のことでも、これはパチンコを知っている人しか通じない」という現実に直面。「パチンコに触れたことがない方、まったく知らない世代の方にとっては、ハンドルを回して何が楽しいのか、数字が揃って何が楽しいのか、そこから説明しなければならない」という、これまでの営業ではまったく不要だった説明が必要になるという、新たな苦労が生まれているという。


また、パチンコ台とユーザーが1対1の関係であることも福祉施設が導入をためらう大きな要因となっている。「トレパチ!」が決して安価な商品ではないため、1人の利用者が独占してしまう状況はコストパフォーマンスの面で導入効果が見えにくいと判断されがちだという。「確かにパチンコは1対1の遊びに見えますが 、パチンコホールに足を運ぶ高齢者の多くはパチンコで遊びたいという欲求だけではなく、コミュニケーションを求めているシーンが非常に多い」という亀井氏。「コミュニティができて、その中で、パチンコ台が共通のワードを生み出している」という状況を説明し、「施設でも同様に、誰かが打っていると、その周りに人が集まり、このリーチは当る、当らないといって盛り上がっている。つまり、1台の『トレパチ!』が、コミュニティを活性化するような共通のワードを生み出しているところが非常に重要」との見解を示し、そのあたりの理解をいかに高めるかが大きな課題であるとした。

そして、「トレパチ!」は、福祉施設にとってイニシャルコストが大きなハードルとなっている点に対しては、「確かにイニシャルコストは掛かりますが、一度導入していただければ、ランニングコストはあまり掛かりませんので、費用対効果という意味では、決して高い買い物ではないと思います」と言及。「それ以上に、高齢者の方を施設に通わせる力のほうが重要」であり、「毎回、様々なイベントを企画し、準備し、いかに高齢者の方に外出を促すなど悩む必要がなくなるところに、ものすごく価値があるのではないか」との考えを示す。
○パチンコ業界のイメージアップに繋げる

「パチンコが好きで、パチンコメーカーに入った人間なので、パチンコのイメージアップを図っていきたい」と、今後の展望を明かす亀井氏。業界としてプラス面よりもマイナス面が取り上げられがちな現状に課題を感じつつも、「『トレパチ!』は社会貢献に繋がる取り組みとして発信しやすく、業界全体のイメージ向上にも繋がる」との見方を示す。そして、「トレパチ!」は、運動と紐づけているところにも大きな価値があり、フレイル予防の面でも、多大な効果を発揮するはずと自信をのぞかせ、「『トレパチ!』の認知度を上げていくことが、パチンコ業界のイメージアップにも繋がる。そんな未来になれば良いなと思っています」と続ける。

そして、パチンコ業界を目指す人に対しては、「今の御時世で、パチンコ業を志す方 は、本当にパチンコが大好きな方だと思うので、その思いをずっと持ち続けてほしい」と期待を寄せる。
「土日はいつもパチンコを打っている」と笑顔をみせつつ、「最近では、業界関係者の間でもパチンコを打つ人が減っており、その現状には寂しさを感じます」と亀井氏。一方で、「それでもパチンコはやはり楽しい」と強調し、「当たったときの爽快感は他では得られない。その魅力を信じ続けられる人にこそ、この業界に加わってほしい」と呼びかけた。

「斜陽産業と言われていますが、絶対にパチンコは必要なもの」と、未来事業本部に異動して、あらためて実感したという亀井氏。「パチンコは日本独自の文化であり、ここまで生活に根付いた娯楽は他にありません」としながら、「いま求められているのは、ただ残すことではなく、次の時代に向けてどう進化させていくか。新しい世代の人たちと共に、パチンコの新しい価値を創っていきたい」と語った。

「今はまず『トレパチ!』を確立させることが何より大切です」と語る亀井氏。その先には、「この取り組みをきっかけに、パチンコ業界全体が福祉分野で人々の笑顔を生み出せるようになってほしい」という願いがある。「業界全体で福祉を盛り上げていくことができれば、それこそが未来事業本部としての最初の成果になる」と力を込めた。

なお、未来事業本部では、「トレパチ!」のほかに、リハビリテーションや機能訓練、レクリエーション、測定業務などに活用されるモーショントレーニングツール「TANO」の取り扱いも行っている。「TANO」は高齢者市場を中心に展開されているが、子どもや障がいのある方でも楽しめるポテンシャルを備え、幅広い世代に"動く楽しさ"を届けることができるツールだ。豊丸産業は、「TANO」の製造メーカーであるTANOTECH株式会社の販売代理店として、同社と協力しながら、パチンコで培ってきた「遊びの仕掛けづくり」や「人を夢中にさせる体験設計」のノウハウを活かし、さらなるブラッシュアップを進めている。「TANO」はパチンコとは異なる領域の製品でありながら、"遊びを通じて人を笑顔にする"という共通の価値を持つ。今後も「トレパチ!」とあわせて、エンターテインメントの力で福祉業界を盛り上げていく存在へと育てていくことを目標としている。「世界中の人々を笑顔にする」ことが豊丸産業の経営理念であり、「その想いは、パチンコ業界でも福祉業界でも変わりません」と締めくくった。
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