2025年11月5日から11月7日まで、東京都港区の虎ノ門ヒルズフォーラムで「Clarisカンファレンス2025」が開催されている。これは毎年この時期に開催されている日本最大のClaris関連イベントで、多岐にわたるセッションやワークショップが提供されている。
また、Clarisパートナー各社がブースを出展し、自社製品を紹介したり来場者の相談を受けたりしている。
○AI関連機能が多く取り上げられている今年のカンファレンス

FileMakerのAI関連機能は年々充実し、今年のClarisカンファレンスでもAI連携が大きく取り上げられている。

カンファレンスの開催初日である11月5日午前にはオープニングキーノートのセッションが開催された。マイナビニュースでは、主にFileMakerのAI関連機能について、ライアン・マッキャン(Ryan McCann)氏、ロニー・リオス(Ronnie Rios)氏、日比野暢氏にインタビューした(各氏の肩書きは写真とともに記載。以下、記事中は敬称略)。
○Clarisプラットフォーム全体でAI機能に取り組んでいる

-- オープニングセッションで、Claris FileMakerだけでなく、Claris Studio、Claris Connectも含むClarisプラットフォームでのAIの利用というお話がありました。これについて詳しく話していただけることはありますか?

マッキャン オープニングセッションの内容は、Clarisの統合プラットフォーム+AIとして能力を強化していくという考えを示したものです。

リオス Claris StudioやClaris ConnectでもAIを使えるようにテストを進めています。現時点で、具体的にお知らせできることはありません。私たちがAIを導入する際には、流行ではなく、理にかなっているかどうかを考えます。使いやすく、実用性があり、プライバシーとセキュリティが保たれる必要があります。

マッキャン Clarisプラットフォーム全体で、AIについて考えています。
今後、皆さんがきちんと使えるものについてお知らせしていきます。エキサイティングなイノベーションを進めていますので、発信できる時期をお待ちください。

-- リオスさんとデレク・リーさんが担当したAIに関するセッションでは、先行プレビューとしてAIモデルサーバーの単独インストールや管理機能の強化、MCPサーバーなどが紹介されました。これらの提供開始についてはいかがでしょうか。

リオス 「soon」(まもなく)です。自信を持って提供できるように準備をしているところです。

マッキャン タイミングを検討しているところですね。近く提供を開始します。
○FileMakerのAI関連機能は、蓄積したデータの活用や入力支援などの基盤となる

-- AIを使えるプロダクトは世の中にたくさんあります。AIに関して、FileMakerならではの利点をあらためて教えてください。

リオス お客様が何十年も蓄積してきたデータでAIを利用できるということです。お客様のビジネスにとってミッションクリティカルな部分にAIを導入できる。
これによって生産性やユーザー体験が向上します。長年使われているソリューションをパートナー企業様に見せてもらったことがあります。そのソリューションでは、2人のオペレーターの方が記録の分類や整理に長い時間を費やしていたのですが、AIの導入によってその時間を50%削減することができました。このように、ROIに関しても効果があり、より実践的なシステムを構築できます。

日比野 日本の事例をご紹介したいと思います。実はAIは、入力作業の効率化を支援しています。札幌市消防局様、そして山形市消防本部様の事例(PR記事)でご紹介しているように、AIとOCRで入力を自動化し、さらに入力されたテキストを正規化して、報告書を素早く作成できます。FileMakerとAIを組み合わせることのメリットは、医療分野でこのようにすでに活用されています。

マッキャン 私たちには10万社にものぼるお客様がいて、データを長年蓄積しています。そのデータをどう使うかに関して、私たちはお手伝いしていると考えています。開発者コミュニティにも、まず基盤を作っていこうと呼びかけています。既存のソリューションも新規のソリューションもAIによってターボチャージできる可能性がありますが、まずは既存のアプリやデータで環境を整備していくことが大事だと思います。

○今後も確実にある技術、必須となっていく技術を提供していく

-- まずは基盤を、という話に関連して質問します。AI関連の進化はとても速く目まぐるしいですが、その状況で持続可能なシステムを作るという観点ではどのように考えればいいでしょうか。

マッキャン 私たちが注力しているのは、AIを活用する基盤をどう作るかということです。トレンドを追うのはリスクが高いと考えています。LLMにしても近々登場するMCPサーバーにしても、お客様の既存のデータでAIを使いこなせるように、今後も確実にあるものに優先的に投資し、コアとなる機能で基盤を作っています。また、私たちのお客様の中心である中小企業では、AIに関して大きな参入障壁があります。特に欠かせないのがセキュリティとプライバシーの担保です。参入障壁を克服しなくてはスタートさえ切ることができません。

リオス 私たちがどれほど細心の注意を払って基盤を作っているかという事例として、セマンティック検索が挙げられます。これはFileMaker 2024で実装された機能ですが、多くのカスタム Appですでに必須となっています。このように、中核となるものを提供しています。

日比野 アプリは使い捨てではありません。
FileMakerのカスタム Appは特にそうですが、進歩や改善を繰り返していくものです。弊社のお客様であるロート製薬様は常に新鮮な気持ちで改善に向き合うという意味で「改鮮(かいせん)活動」と呼んでいるそうです。大切なのは、UIとUXを使う人に合わせることです。AIを実装してハルシネーションが発生し、嫌な思いをしたら、ユーザーはそのアプリを使わなくなります。新しい機能は、ユーザーに歩み寄って改善を続けていくことが必要です。そのためには、一緒に走るパートナーを見つけてください。それは社内のシチズンデベロッパーかもしれませんし、Clarisパートナーの企業かもしれません。

○開発支援ツールとしてのAIで変わること、変わらないこと

-- AIには開発支援ツールという側面もありますが、FileMakerのカスタム Appを提供しているClarisパートナー企業のビジネスモデルには、今後変化が見込まれるでしょうか?

マッキャン カスタム Appを提供している企業は、ビジネスプロセスや組織を深く理解しています。AIによって開発を合理化することはできると思いますが、近い将来AIがとって代わるかというと疑問です。現在はソリューションのカスタム化が重視され、ユーザーが自社にぴったりのソリューションを求める傾向にあることは理解できます。一般的なCRMソフトウェアのようなものではかなりの割合についてユーザー企業ごとにカスタマイズする必要があると思いますが、パッケージ販売をしているClarisパートナー企業は全般に専門性が高いので十分にメリットがあると思います。

日比野 日本の事例としては、パッケージ販売をしている医療分野の企業で、以前は放射線科で使うレポートシステムをFileMakerで作っていた企業が、今はCTやMRIと連動したり、ペースメーカーのベンダーと連動したりしています。
ペースメーカーのデータはクラウドに保存されていて、APIによってJSON形式のデータとしてFileMakerのカスタム Appに取り込むことができるのですが、これはお医者さん、つまりシチズンデベロッパーが手がける範囲を超えています。AIが発達して技術が進歩しても、その進化を取り入れていく限りはパッケージ販売のビジネスモデルそのものは変わらないと思います。

-- 開発支援ツールとしてのAIについてはどう見ていますか?

マッキャン 過大評価されているのではないかとかねがね思っています。AIなら何でもできる、自動で開発できるというものではありません。ミッションクリティカルなソリューションを作るには、AIが介在してもしなくても、人間の技術力が必要です。FileMakerのパートナー企業が優れていると思うのは、ビジネスやデータ、プロセス、ユーザーの要件などを熟知し、深掘りできることです。これはAIがまだ到達していない部分です。私がお客様やパートナー企業から直接聞いているお話、そしてFileMakerのリテンションレート(継続率)の高さの両方から考えられるのは、やはりミッションクリティカルな開発はAIだけではできていないということだと思います。AIだけでできるなら、私たちの製品の利用率は下がるはずですから。とはいえ、AIを利用することによって開発の生産性や効率が上がり、短期間、低コストでパワフルなカスタム Appを作れる意義はあると思います。

冒頭で紹介した通り、「Clarisカンファレンス2025」は11月7日まで、あと開催されていて、来場前にWebサイトで登録することにより無料で参加できる。もちろんAI以外のトピックも多く取り上げられている。
FileMakerをはじめとするClaris製品に興味のある方は、これから足を運んでみてはいかがだろうか。

小山香織 ライター、インタビュアー、翻訳者、トレーナー。Apple 製品やビジネス系アプリケーションなどに関する著書多数。近著に『iPadマスターブック 2024-2025 iPadOS 17対応』(マイナビ出版)。マイナビニュースでは連載「iPhoneユーザーのためのMacのトリセツ」のほか、インタビューや取材記事を執筆。 この著者の記事一覧はこちら
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