住信SBIネット銀行を買収するなど、金融事業の強化を図るNTTドコモですが、NTTドコモの傘下となり連携することが、金融事業者の側にどのようなメリットをもたらす可能性があるのでしょうか? 住信SBI銀行よりも先にNTTドコモに買収されたマネックス証券の公開資料から確認してみましょう。
先に傘下となったマネックス証券が情報を公開

5Gの停滞と市場の飽和、政府主導の料金引き下げなどによって、大幅な成長が見込めなくなった携帯電話事業。
それだけに携帯電話会社は、主力の携帯電話事業以外での成長の模索を続けており、なかでも力を入れているのが金融事業です。

それゆえ、携帯各社はここ数年来、金融事業の強化に非常に力を注いでいます。この分野で出遅れが目立っていたNTTドコモも急速に事業強化を進めており、2025年5月29日に金融大手のSBIホールディングスから「住信SBIネット銀行」の株式を公開買付で取得し、連結子会社にすることを発表しました。

住信SBIネット銀行は2025年10月1日、正式にNTTドコモの子会社となり、サービスブランドも「d NEOBANK」に変更。今後は「dポイント」「d払い」など、NTTドコモのさまざまな金融・決済サービスとの連携が進められるものと考えられます。

ただ、買収が必ずしも成果を収めるとは限らず、NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収することに対しては、さまざまな賛否の声があったことも確かです。ユーザーの利便性などでも気になる部分は多くありますが、買収される側の住信SBIネット銀行にとって、NTTドコモの傘下になることでどのようなメリットがあるのか?という点も気になるところです。

では、携帯大手の傘下になることが、金融会社にとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか? それを示す1つのデータとして、住信SBIネット銀行よりも先にNTTドコモ傘下となったマネックス証券は2025年10月22日に、両社のビジネスシナジーの現状に関する情報を公表しています。

マネックス証券は、2024年1月にNTTドコモの傘下となっていますが、それ以降はNTTドコモとのサービス連携を徐々に増やしており、2024年7月には「dカード」による投資信託の積立サービス、同年9月には総合証券取引口座とdアカウントとの連携を開始。そして2025年7月には、「d払い」アプリからマネックス証券の講座を開設して投資信託の積立申込ができる「かんたん資産運用」を開始。両社のサービスをより密に連携したサービス提供を進めています。

証券会社とのシナジーは銀行にも当てはまるか

同社の発表内容によりますと、連携の成果は着実に現れてきているようで、dカード積立の利用者数は1年でおよそ9倍、dアカウントと連携した口座数も約4倍に増えているとのこと。
ですが、マネックス証券にとってより大きいのは、NTTドコモとの連携が新たな顧客の口座獲得につながり、投資の裾野を広げていることでしょう。

実際、2024年1月以降、dアカウント連携のあるマネックス証券口座保有者が、NISA口座を開設する割合は6割を超えているとのこと。dアカウントと連携していない口座保有者の開設率は4割にとどまっているだけに、NTTドコモやその系列のサービスを積極的に利用している「ドコモ経済圏」に属している人が、NISAを始めるためあえてマネックス証券で口座を作る、という傾向が強まっていることが分かります。

もう1つ、かんたん資産運用のサービス開始から2カ月間でのサービス利用者属性を確認すると、通常のマネックス証券口座保有者と比べて20代、30代の比率が10%ほど高くなっているとのこと。証券会社は若い人の取り込みが課題とされてきましたが、NTTドコモとの連携で、そうした層へのリーチが確実に進んでいる様子も見て取れます。

筆者は、以前マネックス証券の関係者に話を聞いたことがありますが、証券会社単独では投資に興味のある人以外と接点を持つ手段がなく、新たに投資を始める新規顧客の開拓はなかなか難しいようです。それだけに、携帯電話サービスやdポイントなどで多くの顧客に接点を持つNTTドコモと連携することが、新規顧客を獲得するうえで非常に重要な存在となるようで、一連の発表内容はその成果が実際の数値として現れたことを示したともいえます。

それだけに、住信SBIネット銀行に関しても、NTTドコモとの連携を深めることで、同社の顧客を新規口座獲得につなげられるメリットは確実にあるでしょう。それに加えて、NTTドコモは会費無料の「dカード」よりも会費有料の「dカード GOLD」以上の利用の方が多いなど、優良顧客を多く抱えていることも強みとなるだけに、そうした人たちの獲得によって預金額を大きく伸ばすことにもつながる可能性がありそうです。

ただ、個人顧客との接点が少ない証券会社とは違い、住信SBIネット銀行はもともと個人向けにも積極的にサービスを提供していますし、異業種の企業に銀行機能を提供する「フルバンキングBaaS」を通じて、それら企業の顧客となる個人を獲得している実績があります。

そうしたことを考えると、連携が証券会社と同様、短い期間のうちに良好なシナジーを生みだせるかどうかは分からない部分もあるというのが正直なところ。やはりSBI証券との連携で顧客を増やしたように、NTTドコモのサービスと住信SBIネット銀行の特性を生かし、顧客に明確なメリットのあるサービスを提供できるかが勝負どころになってくるのかもしれません。


佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら
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