ロレックスにはさまざまな愛称が付けられたモデルが存在します。中でも異彩を放っているのが「信長デイトナ」と呼ばれるモデルです。
ロレックス通の間でもあまり知られていない、「信長デイトナ」とは一体どんなモデルなのでしょうか。

信長の誕生日と命日を想起するモデル?

ロレックスの中でも、クロノグラフ機能が付いた「オイスターパーペチュアル コスモグラフ デイトナ」、通称デイトナは1963年にリリースされたスポーツウォッチです。ロレックスの創業が1905年、オイスターケースと自動巻き機構を備えた「オイスターパーペチュアル」が1931年にリリースされたことを考えると、デイトナの登場はかなり後発モデルといえます。

しかし、その人気は時計界随一といっていいほどで、圧倒的な需要によってデイトナの買取相場は日々株価のように変動し、腕時計の2次流通市場全体をリードしています。

現在のデイトナは2023年に登場した第7世代で、正規店での定価は234万9,600円。これに対し並行店では新品で500~600万円前後で販売されています。それだけ価格が高騰していてもすぐに完売してしまうほどの人気ぶりには驚くばかりです。

登場から62年の歴史があるデイトナの中でも「信長デイトナ」は特別な存在となっています。信長デイトナは1970年代に製造された第3世代で、ベゼルには強化プラスチックが採用され、「6263」というリファレンスナンバー(Ref)が与えられています(ホワイト文字盤は6263、ブラック文字盤は6265ですが6263のブラック文字盤もあり)。

この「6263」は武将の織田信長の誕生日である1534年6月23日と命日である天正10年6月2日(1582年6月21日)を想起させることに由来しています。

さらに、モデル全体に与えられるリファレンスナンバーとは別に、個体ごとに与えられるシリアルナンバー(Ser)が「6412345」のモデルは、1本しか存在しない特別な存在として希少価値があります。シリアルナンバー6412345を紐解くと、64はムシ→ブシ→武士から天下統一とされ、12345は出世や縁起を表す数字の並びとされています。

28億円で落札?!

かつてロレックスに特化した世界的なオークションサイトでは、信長デイトナ(Ser.6412345)が約28億円で落札されたことがあり、歴史的価値が高まっているそうです。

Ser.6412345を除き、執筆時点でリファレンスナンバーが6263のデイトナの2次流通市場の相場は、安いものでは1,200万円前後、高いものでも2,300万円前後で販売されていました。

ビンテージロレックスを扱う専門店に聞いたところ、個体差や付属品の有無で買取価格は大きく変動するため、現物がない状態では答えられないとしながらも、買取相場は数百万円から高くて1,000万円前後くらいではないかという回答が得られました。

とはいえ、これからリファレンスナンバー6263のデイトナを買うとなると、少なくとも1,200万円前後は必要です。状態のいい個体が減っていき資産価値が高まっていくとはいえ、劇的な収益化を望めるかどうかは難しいと思います。そもそもビンテージロレックスは良い状態を保つために徹底した管理が欠かせません。定期的なメンテナンス(オーバーホール)も必要となり、維持費(ランニングコスト)も無視できないからです。
楽しむことに価値がある

2017年に米 俳優ポール・ニューマン氏が着用していたデイトナがオークションに出品されたときには、20億円で落札され話題となりました。ただその一方で、ポール・ニューマン デイトナ(つまり同型モデル)は市場に多く出回ることとなり、市場低迷を招いたともいわれています。

ロレックスという圧倒的知名度に“有名人着用”や“限定モデル”などといった希少性が加わることで価格は一気に高騰します。ビンテージロレックス市場にあるすべての個体は、もう二度と生産されることがないため、希少性があることに変わりはありません。

信長デイトナやポール・ニューマン デイトナにも希少価値がありますし、今後2次流通市場で価格が下がっていく可能性は少ないでしょう。


ただビンテージロレックスの中でも、すべてのモデルに資産価値があるのかといえば疑わしいケースもあります。例えば、生産されてから長い年月が経過し、所有者が何人も変わることで、経年劣化が進み、メンテナンスが行き届いていない、あるいは不明な個体ともなれば、価値が大きく損なわれてしまうことも十分考えられます。希少性と状態の善し悪しを見極めるだけの高い真贋レベルも求められます。

希少なビンテージロレックスはその価格に目を奪われがちですが、趣味の範疇を超えずに楽しむことこそが、唯一無二の価値を与えてくれるのではないでしょうか。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら
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