北海道電力は現在、ブルーカーボン事業に注力している。ブルーカーボンとは、海藻・海草藻場やマングローブ林、干潟などの海洋生態系によって吸収・貯留された二酸化炭素のことだ。


北海道電力が取り組むブルーカーボン

同社は2022年11月、留萌市(北海道)と「留萌海域におけるブルーカーボン事業に向けた海草(藻)培養技術開発」に関する共同研究契約を締結し、留萌海域において、海草(藻)類の成長が促進される低炭素藻礁の実海域培養試験を実施。

2023年11月には、森町(北海道)と森町沿岸海域におけるブルーカーボン事業および森町のカーボンニュートラル推進に関する情報交換や研究開発の連携強化に向けた連携・協力協定を締結した。

そこで、北海道電力のブルーカーボン事業の現状と今後の展開について、北海道電力 総合研究所 環境技術グループ 橋田修吉氏に聞いた。

ブルーカーボンが注目される理由

2050年のカーボンニュートラル達成に向け、可能な限り化石燃料由来の温室効果ガスをなくしていこうという動きがあるが、太陽光や風力、あるいは水素、アンモニアを活用しても一定の温室効果ガスがあるため、回収・貯留(ネガティブエミッション)がないと達成できないという課題がある。

回収・貯留に関しては植林に取り組んでいるものの、山の植林だけではなく、昆布、アマモ、干潟、マングローブなどの海の植物が二酸化炭素を吸収していることが、さまざまな研究の蓄積によって明らかになってきたことを受けて、近年、「ブルーカーボン」という選択肢も出てきたという。

ブルーカーボンが注目される理由について橋田氏は、「杉の人工林を1ヘクタール植林すると、1年間で8.8トンの二酸化炭素を吸収します。北海道の昆布に関しては、1ヘクタールあたり10.3トンと、非常に吸収量が高いことが注目されています」と説明した。

なぜ、北海道電力がブルーカーボン事業を行うのか?

北海道電力は苫東厚真、知内、伊達、石狩など、海に近い場所に発電所があるため、以前から漁協との交流があったという。

また、海藻の増殖に関しては昔から研究を行っていた。そのため、北海道内でブルーカーボンが話題になってきた際に、これまでの研究を役立てることができるのではないかと考え、ブルーカーボンの研究開発を開始した。

橋田氏は、「北海道は海岸線が約4500キロメートルあり、沿岸から100メートル程度、最大20mの水深まで藻が生えると仮定すると、最大で45万トンの二酸化炭素を吸収できるポテンシャルがあります」と、北海道のブルーカーボンの可能性について語った。
防食技術を使って海藻の成長促進

橋田氏が所属する環境技術グループは、電力設備周りの環境の課題解決に向けた研究開発を行っており、防食技術や排ガス処理といった技術を応用した海藻の成長促進に取り組んでいる。


防食技術について同氏は、「鉄が錆びる際には腐食電流が流れるため、その逆の電流を流すというのが港湾設備でよく行われる電気防食です。これを応用して、昆布養殖のロープに鉄を入れ、そこに電流を流すとミネラル分が集まるという技術を開発しています。海流の変化などにより海の栄養が少なくなったりしたことが、海藻が生えなくなる磯焼けの原因の1つになっているため、海藻へミネラル分を供給して成長が促進されることを期待しています」と、防食技術の応用について説明した。

防食技術を使った実証実験は、道南の養殖コンブ生産者が行っている。

のれん式という、のれんのようにロープを垂らし、ロープの下に成長促進剤となるマグネシウム、アルミニウムや亜鉛をつなげ、鉄のワイヤーを養殖ロープに入れて乾電池の原理により電流を流すと、昆布の根元にミネラル分が集まって成長が促進されるという。

防食技術を使った実証実験は、鹿部町(北海道)で行っている。

すだれ式という、のれんのようにロープを垂らし、ロープの下に成長促進剤となるアルミニウムや亜鉛をつなげ、鉄のワイヤーを養殖ロープに入れて乾電池を使って電流を流すと、昆布の根元にミネラ分が集まって成長が促進されるという。

「12月に海に沈めて5月ごろには昆布が6、7メートルに成長しています。最終的には、1.3倍程度に亜鉛で質量が増えたということで、今後、亜鉛で製品開発することを目指しています」(橋田氏)

排ガス処理技術を二酸化炭素供給システムに応用

一方の排ガス処理技術は、陸上養殖に利用している。北海道では雪が降るため、陸上養殖は屋内で行う必要があるが、そうすると二酸化炭素が足りなくなるため、二酸化炭素を供給するシステムを開発しているという。

「通常の二酸化炭素供給システムは化石燃料を使うことになりますが、キノコを培養すると5000ppm以上の二酸化炭素を排出するので、それを応用して必要な分だけ供給するシステムを現在構築中で、11月から試験を開始しようしています。また、キノコ栽培で出てくる廃菌床(きのこの収穫後に残る、おがくずや栄養材でできた培地)は、通常、産業廃棄物になりますが、主成分がオガクズなので海藻の乾燥に使い、少しでも化石燃料を減らそうという取り組みをしています」(橋田氏)

ホタテの貝殻や燃焼灰を使ってブロックを製造

そのほか、森町では石炭灰有効利用技術により森町産のホタテ貝殻と森町産の木質燃焼灰から製造したブロックを海に沈めて、昆布を生産する実証を行っている。


「森町で排出されるホタテの貝殻や木質の燃焼灰が木材屋さんから出てくるので、それを固めてブロックにするという、森町の中で資源循環が完結する取り組みを行っています。また、藻がどのくらい生えているのかを水中ドローンで調査する取り組みも同時並行で行っています」(橋田氏)

森町では、ブロックを作成する際に型枠を使うとコストがかかるため、成分解性フレコンバックを使ってブロックを作っているという。

フレコンバックはフレキシブルコンテナバッグの略称で、化学繊維でできた大型の袋のこと。

成分解性フレコンバッグを海に沈めると、プレコンバッグが分解されてなくなってブロックだけが残り、海藻が生えることを期待している。

昆布は岩場に生えるため、道南では砂地の海底に採石場で石を採取し、それを山から船へ輸送し、海へ沈めて岩場を作るという投石事業を昔から行っていた。

道南一帯では古くから投石事業を行っており、貝殻を使ったブロックの方が自然にも優しく、資源然循環にもつながるが、事業の継続性にはコスト低減が課題となる。

藻場造成に向けたブロックの活用では、北海道開発局とも共同で取り組みを行っている。

両者は北海道内の港湾を活用したゼロカーボンの取り組みに関する情報交換や共同研究などの連携を強化するため、連携・協力協定を2023年に締結している。

この取り組みでは、北海道開発局が製造した藻礁ブロック上に、その地域から排出される木質燃焼灰から北海道電力が製造した小さいプレート(ケルプノブ)を付けることにより、プレートに昆布が生えるという。

また、その海域のコンブ種苗を含侵させた生分解性の紙ネットをプレートに固定することにより、一定の密度でコンブが生育することを期待している。

来年度以降、北海道開発局とどのように取り組みを進めていくのか、現在、協議しているという。

ブルーカーボン事業を進めていく上での課題

ブルーカーボン事業を進めていく上での課題としては、コストがあるという。


「藻場造成は、海の土木工事になってしまうと非常にコストがかかるので、それをいかにかけないようにするかが課題となります。国などの公共工事として行う分には問題ないですが、それ以外の自治体や民間、あるいは漁業者が行うとコストが高く、大きな面積で海藻を生やすことは難しいと思います。この課題を解消するためのクレジット制度だとは思いますが、ブルーカーボン用の補助金メニューがまだ充実していないこともあり、技術があってもなかなか普及が進まない点が全国的に問題になっています」(橋田氏)

そして最後に、橋田氏に今後の展開について聞くと、同氏は北海道ブランドの価値向上を目指したいと語った。

「ブルーカーボンは、あくまできっかけでしかないと認識しています。北海道には一次産業のポテンシャルが高く、水産業の他にも、農業、林業、酪農などあります。今後は、ブルーカーボンを起点に各産業をエネルギーと環境技術でつなげ、北海道全体のブランド価値向上を目指していきたいと思っています」(橋田氏)

森町ではブルーカーボンで貝殻を扱っているが、貝殻は農業の肥料にもなり、農業用の残渣も水産で使える。

林業から出てくる木材を燃やして電気に変える木質バイオマス発電所は、現在、石狩、苫小牧、真駒内、紋別といろいろなところにできており、これらから出てくる灰をブルーカーボンに使えないかと考えているという。

また、酪農の鶏糞の燃焼灰は、リンとカリウムがあるため、何かに使えないないかという検討が進んでいる。

このように、橋田氏は、ブルーカーボンが各産業をつなぐバリューチェーンの起点になればとの考えとのことだ。
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