ガンダムファンが自分の手で作り上げた“世界に一つだけのガンプラ”をリアルな3Dモデルとしてスキャンし、バーチャルの宇宙空間の中で動かしながら楽しめるという、夢あふれるサービスが始まったのをご存じですか?

ソニー・ミュージックエンタテインメントが、ソニーグループ各社による協力のもと、現実の物体を高精細なデジタル3Dモデルに変換する「ハイクオリティスキャンソリューション」を開発しました。この技術をもとにバンダイナムコグループと連携して、人気アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモデル、いわゆる“ガンプラ”を3Dモデル化する「ハイクオリティ・ガンプラスキャン」のトライアルサービスを展開しています。
期間は2025年11月15日から12月14日までで、会場は東京・お台場の「THE GUNDAM BASE TOKYO」です。

今回は、ソニー・ミュージックエンタテインメントの渡辺祐介氏に、ハイクオリティ・ガンプラスキャンを企画・開発した背景や、今後の展望などを聞きました。そして、筆者もガンダムベース東京でサービスを体験してきました。

音楽会社のソニー・ミュージックが、どうしてガンプラを?

渡辺氏が所属するソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)のEdgeTechプロジェクト本部は、エンターテインメントと最先端のテクノロジーを掛け合わせた新事業の創出を使命に掲げる部署です。

ハイクオリティ・ガンプラスキャンのサービスは、EdgeTechプロジェクト本部による「PV Project」のひとつとしてスタートを切りました。PVとは「From Physical to Virtual=フィジカルからバーチャル」の意味であり、現実空間にある物体をデジタルデータ化して新しいエンタテインメント体験をつくることを目指しています。現在も、複数のプロジェクトがSMEJの中で進行しているそうです。

今回、バンダイナムコグループとの協業により実現したハイクオリティ・ガンプラスキャンのトライアルサービスは、1回目として2025年2月22日から4月27日まで、福岡の「THE GUNDAM BASE FUKUOKA」で期間限定イベントを行いました。今回の東京開催が2回目です。

バンダイナムコグループとソニーによる“ガンプラのコラボレーション”が実現した背景には、自身も大のガンプラ・ファンであるという渡辺氏の熱い思いがありました。

渡辺氏は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に入社後、長年にわたりゲーム制作のプロデューサーやディレクターとして活躍してきました。ちょうど2006年にPlayStation 3(PS3)がローンチしたころ、自身が大好きな「機動戦士ガンダム」に関連するゲームの企画を立てて、バンダイナムコグループに持ち込んだといいます。


「その企画は、AR(拡張現実)技術を使ったトレーディングカードゲームでした。物理カードに印刷したARマーカーをPlayStation Eyeカメラにかざすとガンダムが出現し、カードバトルが楽しめるというものです。ただ、ガンダムによる実現は難しく、最終的にはソニーが自社で展開するキャラクターを使ったゲーム『The Eye of Judgement』としてリリースされました」

「ガンダムのゲームコンテンツを作りたい」という渡辺氏の思いは、その後もいっそう強くなります。

2020年には、ソニーグループ内で「ガンダム×ソニー」をテーマにしたアイデアコンテストが開催され、渡辺氏が応募した原案がハイクオリティスキャンソリューションの基礎となりました。このコンテストに参加していたサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の関係者の興味を引いたことが、最終的に「ハイクオリティ・ガンプラスキャン」を実現する道筋になります。

渡辺氏は「ガンプラをリアルな3Dモデルにしたいという要望は、以前からバンダイナムコグループの方にも多数寄せられていたと聞きました。そのため、私たちの提案を即時に採用していただき、待望のコラボレーションが実現しました」と当時の状況を振り返ります。
ガンプラをありのまま3Dモデル化する「SCANOSYS」とは

その後、渡辺氏の企画はソニーのコーポレートプロジェクトとして動き出し、SMEJのEdgeTechプロジェクト本部が主導するかたちで、「SCANOSYS」(スキャノシス)という専用の高精細3Dスキャニング装置を開発するまでに至ります。

ハイクオリティ・ガンプラスキャンのサービスが特別であるポイントは、ソニーグループの持つ独自の最先端のデジタル技術を集めて、リアルなオブジェクトであるガンプラを「高精細な3Dデータ」に変換できることです。

スキャノシスは、ソニーグループの中で半導体事業を手がけるソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)が熊本に構える半導体工場で、半導体チップの立体構造を可視化するための3Dスキャン装置からヒントを得ています。

スキャンにはストラクチャードライト方式という、パターン光をオブジェクトに当てて、その歪みを解析しながら立体形状を割り出す技術を採用。これにより、ガンプラ特有の細かな形状を正確に捉えることができます。
さらに、ソニーのミラーレスカメラ「α」を4台使って、複数の角度から高精細な写真を撮り、オブジェクト表面のリアルなテクスチャを取り込み、形状と質感の両面からデータを統合することで、ガンプラ本来のたたずまいをデジタル空間に再現します。

スキャニングの完了後、3Dモデルの関節部分に自然な動きを組み込む「リグ付け」を行うソフトウェアも、ソニーグループのノウハウを駆使して独自に開発しました。

取り込むオブジェクトがガンプラであるため、リグ入れを行うためのソフトウェア開発にもさまざまな工夫が必要だった、と渡辺氏は振り返ります。

「特に、ガンプラは固いロボット(剛体)を元にした模型なので、通常の人間をスキャニングした3Dモデルにリグを付けるスキンウェイト処理をそのまま適用すると、ロボットがゴム人形のように動いてしまいます。例えば、ロボットの装甲の尖った部分も、関節を曲げた時に一緒にぐにゃっと曲がってしまうような課題がありました。これに対応するため、開発チームはハイクオリティ・ガンプラスキャンのための独自アルゴリズムをゼロからつくりました」

3Dモデルの形状を構成するジオメトリーとボーン(骨格)の情報から各部位間の距離や可動性を推定して、曲がらないはずの部分はリジッドに硬いまま扱うなど、ロボット特有の関節制御を実現しています。

渡辺氏は、ガンプラのディテールを忠実に再現することを目指したと語ります。確かに、ハイクオリティ・ガンプラスキャンの3Dモデルの特徴は、その圧倒的な解像感にあります。「デカール」と呼ばれるガンプラの表面に貼る細かな装飾シールや、機体の経年変化を表現するウェザリング塗装など、制作者の“こだわり”がスキャニングしたデータにも、基本ありのまま再現されます。

ガンダムベース福岡でサービスを利用したユーザーの多くが、塗りのこしや塗装のハゲまで再現するスキャニングの制度に圧倒されていたといいます。渡辺氏は「つくったプラモデルをそのままデータ化できた方が、いっそう愛着を持ってもらえる」という確信があったそうです。

スキャノシスのソフトウェアには、スキャニング後のデータを加工・修正するためのデジタル補正機能がありません。
手作りならではの質感がそのまま再現されます。だからこそ「自分のガンプラがそのまま動き出す」という体験に、いっそう強い感動が生まれるのだと思います。

3Dモデルで遊べるコンテンツが充実

取り込まれたガンプラの3Dモデルは、ハイクオリティ・ガンプラスキャンサービスにユーザーが登録したマイページに保存されます。その3Dモデルを使って遊べるさまざまなコンテンツも、マイページ内のストアから購入できます。サービス利用の手順を解説します。

最初にマイページを利用するために必要なユーザーIDを作ります。登録は無料です。このマイページには、予約の申し込みと確認ができるページのほか、ガンプラをスキャンしたデータを保存するスペースとストアがあります。

スキャンの基本料金は2,200円。内容は、ガンプラ1台をスキャンして、疑似関節(リグモデル)を組み込み、基本モーション5種類を設定できるサービスが含まれます。

このほか、ストアでは買い切り型の有料コンテンツとして、以下3つのアイテムを揃えています。3つすべてのバンドルパックは4,400円となります。


【1】ジオラマムービースタジオ

ガンプラがジオラマの中で躍動する動画を作成するサービス。リグを入れたあと、サーバー上のUnreal Engineで組まれたシーケンス(場面映像)にデータが自動でインポートされ、レンダリングされたムービーファイルをダウンロードして楽しめます。ガンプラ1台につき、1本のムービーが1,100円で生成できます。ジオラマムービーには3つのパターンがあります。

【2】アクションブースター

リグを入れたガンプラの3Dモデルにさまざまなアクションを付けて鑑賞するサービス。用意されている5種類のアクションは各330円。モビルスーツの武器は、コンテンツ側にあらかじめ用意されたものが装備されますが、ビームサーベルなどは剣先の向きを変えたり、ビームライフルの先端に配置して銃剣のようなデザインに変えて楽しむこともできます。

【3】アクションシミュレーター

自分のガンプラがストーリーの主人公となり、敵と戦うムービーの中で活躍するゲーム感覚のシミュレーター。遊び放題で1,650円。ブラウザベースのゲームなので、PCやスマホなどさまざまな環境でプレイできます。

あっという間に任務完了! 3Dモデル制作を体験してみた

今回の取材では、渡辺氏の力作である「1/144サイズ フルアーマーガンダム」(機動戦士ガンダム MSVのほう)のプラモデルを、スキャノシスを使って3Dモデルにする手順を見せてもらいました。

といっても、実際にユーザーがやるべきことはとてもシンプル。
予約した日時に会場まで足を運び、スキャノシスのディスプレイに表示されているQRコードを読み込めば、あとはガイダンスに従って数ステップに分かれている工程を進めるだけです。

スキャニングを始める前の準備があります。スキャノシスの本体付近に設置された準備台に用意されている「アクションポール」をガンプラに装着します。最近のガンプラには、股の下にアクションポールというポージング用のアクセサリーを付けて固定するための3mmの接続穴が設けられています。このポールを付けたあとで、スキャノシスの撮影台に設けられたアクションベースに固定し、ガンプラをAポーズ(大の字)にポージングします。この下準備を想定して、予約時間の10分前ぐらいに現着して、作戦行動フェーズ1を開始するとよいでしょう。

スキャニングできるガンプラには、縦25㎝・横20㎝・奥行き20cmのサイズ制限があります。武器やアーマーを装着した状態で、このサイズ内に収める必要があります。

例えば「機動戦士Zガンダム」に登場する「百式」、「機動戦士ガンダムSEED」シリーズの「アカツキ」のような、金色に輝くモビルスーツはテクスチャが再現できないため、くすんだ茶色っぽい色になります。また、光学式のスキャニングであることから、光が透過してしまうプラモデルのクリアパーツは形状が崩れてしまいます。ただ渡辺氏によると、これらの点も含めて、今まで「ハイクオリティ・ガンプラスキャン」のトライアルサービスを利用した人たちには、その実力を見てもらうことができて満足されたといいます。

スキャニングにかかる時間は、すべて合わせて10~15分程度でした。
その間はスキャノシスから離れて、ガンダムベース東京でショッピングを楽しむのもよし。スキャニングが終わると、ユーザーのスマホに作業完了の通知が届きます。

渡辺氏が組み立てたガンプラの完成度が、まるでハイコンプリートモデルのような完成度だったので、まるで初めからデジタルで制作した3Dモデルのような美しさでした。筆者がつくった、色塗りや組み立ても下手なガンプラを持ち込んだ方が「手作り感」をもリアルに再現するスキャノシスの性能を生々しく伝えられたかもしれません。

ガンダムベース東京で実施されるトライアルサービスは12月14日まで。オンラインのストアで購入したコンテンツは、スキャニングのサービスが終了したあとも継続して遊べます。まずは予約状況を確認して、自慢のガンプラをぜひ3Dモデルにしてみてください。
次はガンプラ同士を対決させたい

渡辺氏に、ハイクオリティスキャンソリューションの今後の展望を聞きました。

ガンプラの3Dデジタルデータ化については、今後もより多くのユーザーに届けたいと考えているそう。スキャノシスは試験型ではなく、既に量産型であることから、「トライアルサービスの反響も見つつ、パートナーであるバンダイナムコグループとも一緒に検討しながら、今後も多くのガンプラファンがアクセスできる拠点を広げたい」と、渡辺氏は意気込みを語ります。

スキャンニングの工程は、ガンプラに生命を吹き込む入口に過ぎません。その先にファンが楽しめる「コンテンツ」をさらに拡充することも、渡辺氏が大事なミッションとして掲げています。

現在のリグ設定はまだ、いわゆる人体と同じ肘や膝、足首手首に頭部など基本的な関節の曲げ伸ばしを設定できるレベルです。ガンダムに登場するモビルスーツが搭載する、可動域を持つ武器、バックパックなどの複雑なギミックも再現したいです。そして、3Dモデルのガンプラが「変形」するところも見てみたいです。

渡辺氏は、ファンも熱望するであろう「アクションシミュレーターによる、ガンプラ同士のバトル機能」をいつか実現したいと語ります。自分の手で作り上げて、塗装やオプションパーツの装備などをカスタマイズしたオリジナルのガンプラが、他のビルダーたちのガンプラと激突して、熱い戦いを繰り広げる…。筆者は『プラモ狂四郎』の世代ですが、最近のファンは『ガンダムビルドファイターズ』や『ガンダムビルドダイバーズ』のキャラクターになった気分が味わえそうです。デジタルとリアルの世界が交錯、あるいは融合する究極のホビー体験を想像すると、筆者も血潮がたぎります。

ガンプラ以外にも、ハイクオリティスキャンソリューションの技術を発展させることによって、ぬいぐるみや自分が描いた絵画を3Dデータ化して動きを付けたり、AIエージェントの技術と結び付けたり、さまざまな楽しみ方が広がりそうです。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら
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