2025年12月1日に発売された『将棋世界2026年1月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)は、第73期王座戦五番勝負をフルセットの末に制し、2つ目のタイトルを獲得した伊藤匠叡王・王座のインタビュー記事を収録しています。本稿では当記事より、一部を抜粋してお送りします。


○王座戦を振り返る

●このたびは王座獲得おめでとうございます。まずは二冠達成を果たした際の気持ちをお聞かせください。

タイトル戦の間はずっと神経を集中させていたので、よい結果を得られてほっとしました。

●叡王戦の防衛会見では、藤井聡太竜王・名人と「差が広がっている」と自信のないような発言をされていました。

1年前に叡王のタイトルを取ってから思うようにいかない将棋も多かったので、あのような発言になりました。ただ、叡王を防衛して以降、少しずつ調子が上向いてきたので、王座戦の開幕時点ではそこまで悲観的な感じではなかったです。

●対戦相手の藤井竜王・名人についてはどのように見ていましたか。

後手番で雁木を採用されるようになったという変化はありましたが、相変わらず強いなと思っていました。特に未知の局面になってからの対応力が安定している印象でした。

●9月4日、シンガポールで五番勝負が始まりました。第1局でまさにいま言っていただいた藤井竜王・名人の雁木が現れました。

海外での対局ということで高揚感はありましたが、将棋は早い段階で致命的なミスが出て差がついてしまいました。


●藤井竜王・名人は雁木で全勝となっています。

さまざまな展開に分岐するので、未知の局面での強さが生きる戦法ではあると思います。また、後手雁木VS早繰り銀の場合、基本的には後手が新しい指し方を提示して先手がそれに対応するという将棋になります。そこで藤井さんが用意してきた作戦にうまく対応できないと、勝つのはさらに難しくなります。

(中略)

●シンガポールはいかがでしたか?

初めて訪れましたが、非常に過ごしやすい国だと感じました。気候も思ったほど暑くなく、自然も豊かでした。

●マーライオンが思ったより小さいという話をよく聞きます。
自分も事前にそう聞いていました。ただ、イメージしていたほどではなく、それなりに大きかったです。

(中略)

●シリーズ全体を振り返っていかがでしたか?

いままでの藤井さんとの対局では、先手の利を生かして優勢になり、そのまま勝つという展開に持ち込むことはできませんでした。今回は第3局、第5局で相掛かりを採用して、先にリードして中盤以降もうまく指して勝ちきることができました。そういう意味では、自分の型というか、得意戦法みたいなものを確立できたように思います。


●相掛かりの研究の深さを感じました。

第5局も前例が少なく、自分が深く考えていた形を選びました。そういう認識のアドバンテージは生かすことができたと思います。

●王座戦以降も好調が続いていますが、要因はなんでしょうか?

一時期は対局がかなり少なくなってしまって面白くない時期もあったんですが、最近はありがたいことに、たくさん対局させていただいています。忙しいという面もありますが、余計なことを考えずに次の対局に向かうことができているので、よい循環になってるのかなと思います。

●藤井竜王・名人との距離感について、いまはどのように感じていますか?

いまも藤井さんが抜きん出た王者であるというのは揺るぎない事実です。その中で今回の王座戦では、いままでよりも手応えを得ることができたかなと感じています。
○さらなる高みへ

●これからの戦い方として、どのような力を伸ばしていきたいですか?

集中力を身につけたいです。持ち時間の長い将棋では集中できていない時間帯も多くあるので、日々の生活を整えて、よりよい状態で対局に臨みたいと思っています。

●規則正しい生活をするといったことでしょうか?

そうですね。かなり生活が乱れているので、改善したいです。ついつい夜更かしをしてしまうことも多いです。
昼間までの生活が満たされていれば、夜更かしはしないで済むかなと思うんですが。

●―日中、満たされていないから1日を引き延ばそうとするというか。

そういう面はあると思います。

●将棋の取り組みについてはいかがでしょうか?
AIを使って研究していると、手順を記憶することに意識がいってしまいがちです。自分の頭でしっかりと局面を理解して指していきたいと思います。王座戦の第5局もそうですが、事前に研究しても記憶が曖昧な状態で対局を迎えていることは多くあります。そういうときは、少し後悔しながら対局することになってしまう。自分の頭で理解して局面を捉えていれば、そういうことも減るんじゃないかと思っています。

(中略)

●今後の目標について教えてください。

具体的なものはあまり考えていないのですが、自分の棋力はまだまだ伸びる余地があると確信しています。しばらくは目の前の一局に集中して、さらにいい内容の将棋が指せるように取り組んでいきたいと思っています。

●伸びしろしかないと

そうですね。
AIが出てきたことによって、伸びしろがかなりある、まだまだ上には上があるということがはっきりわかるので、そこを目指してやっていきたいです。

○『将棋世界2026年1月号』、絶賛発売中!!

ほかにも、
・服部慎一郎七段による第56期新人王戦決勝三番勝負の自戦記「オレたちの最終決戦(ラストイヤー)」
・吉池隆真四段による第15期加古川清流戦決勝三番勝負第3局の自戦記「叶えたい夢」
・中七海女流三段インタビュー「女流棋界は三強時代になるか? 期待のホープは謙虚なオールラウンダー」
・矢口亨の写真と文章でお届けする、中村太地八段の「それも一局」
・新担当・岩村凛太朗新四段による懸賞詰将棋
といった記事もあり、指す将・観る将はもちろん、それ以外の方にも楽しんでいただける一冊になっています!

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