健康診断の結果を受けて、各項目に一喜一憂するだけに終わっていませんか? 本記事では、病気のリスクや見えない健康問題が分かるようになる健康診断の見方を、『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』(伊藤大介 著/文春新書 刊)から一部を抜粋・編集して紹介します。
○心当たりがなくても「水分不足」

「あなたは水分不足ですか?」と問われて、答えることができますか。


意外と難しいのではないでしょうか。医師から「水分をとりなさい」と言われても、「飲み物はよく飲んでいるんだけどな......」と、まるで心当たりがない。

以前、60代女性の患者さんで、「数年前から足がつりやすい」「頭も重い感じがする」などの症状を訴える方がいました。血液検査と尿検査を行ったところ、深刻な水分不足に陥っていることが分かりました。さらに必要なミネラル分も不足していた。

水分不足によって、体内のミネラルバランスが崩れると、「筋肉の痙攣」や「神経の伝達異常」が起こりやすくなります。それによって、足がつる、頭が重く感じる、といった症状が出たと考えられます。この患者さんには、薬を少し服用してもらいながら、できるだけ水分を多く取ってもらいました。すると、足がつったり、頭の重みを感じたりする頻度が大幅に減ったのです。

水分不足は自覚しづらいものです。高齢になると、脳の中枢機能が低下し、口の渇きを感じにくくなるので、より自覚が困難になります。

人間の体の約60%は水分でできていることからも分かる通り、水分は体の「土台」です。
決して軽んじてはいけません。

水分不足が慢性的に続けば。運動機能の低下や認知機能の低下、意欲の低下、心血管系機能の低下などを招きます。また、倦怠感が増し、体温調節が上手くいかなくなり、立ちくらみが起こりやすくなるなど、体に様々な悪影響を及ぼすのです。

成人3327人を対象にした2018年のイランの大規模研究では、1日に2杯未満の水しか飲まないグループは、5杯以上飲むグループに比べて、不安症やうつ病のリスクが約2倍も高くなることが分かりました。水分不足によって脳の機能や神経伝達物質の生産に影響を与えていたことが、理由として考えられます。
○無視しがちな検査項目

では、自分が水分不足かどうかを知るために、健康診断をどう活用すればいいのか。血液検査と尿検査でわかる以下の3つの項目に注目してみましょう。

尿比重
ヘマトクリット
BUN(尿素窒素)とクレアチニンの比率

いずれも無視しがちな項目ではないでしょうか。

夏の炎天下で、ろくに水分補給もしないでいて、“おしっこ”が濃くなった。そんな経験をしたことはないでしょうか。少しでも体内に水分を留めるために、尿の排出量を減らした結果、濃くなったわけですが、健康状態でも、この「尿の濃さ」を示す指標があります。


それが「尿比重」です。

尿比重の基準値は、病院によってまちまちではありますが、「1.030」以上の数値が出た場合は要注意です。かなり尿が濃縮されている状態で、水分不足に陥っている可能性があります。

さらに脱水が進むと、血液も濃縮されていきます。この濃縮の度合いは、血液検査の「Ht」と書かれている項目、つまり「ヘマトクリット」で見ることができます。このヘマトクリットも馴染みが薄いでしょう。

血液中の赤血球の割合を示す項目で、本来は「貧血」であるかどうかを調べるために使われるものです。しかし、脱水症状が進むと、血液中の水分の割合が少なくなるので、「相対的多血症」といって、相対的に赤血球の割合が上がり、ヘマトクリットの数値も高くなるのです。女性で45%以上、男性で50%以上という数値が出た場合は、血液が濃縮されている可能性がある。つまり水分不足に陥っているのです。

第3章で触れましたが、腎機能を示す「BUN(尿素窒素)」と「クレアチニン」も水分不足であるかどうかを知るために使えます。

ご自身の健康診断の結果を見ながら「BUNの数値(mg/dL)」÷「クレアチニンの数値(mg/dL)」を計算してみてください。
その結果が「10以上」であれば、水分不足の可能性があります。ただし、BUNはタンパク質の代謝にも関わる指標なので、一概に水分不足が原因で上がるとも言えず、あくまで尿比重やヘマトクリットと組み合わせて解釈するべきでしょう。

○『総合診療医が徹底解説 健康診断でここまでわかる』(伊藤大介 著/文春新書 刊)

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「健康診断こそ、がん、脳卒中、糖尿病、腎不全など深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法だ! 」――著者の伊藤大介医師は年間3万人もの患者さんを診察する中で、そう確信した。伊藤医師は、かつて東大医学部で肝臓・胆嚢・脾臓の外科手術を専門にしていたが、その後、内科医に転身したという異色の経歴の持ち主。現在は深刻な病気から生活上の悩みにも対応する総合診療医として日々の診療にあたり、絶大な人気を誇っている。

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