ニュージーランド・マールボロ地方の冷涼な気候と多様なテロワールを背景に、土地の個性を最大限に引き出すスタイルで、世界的な人気を誇るワイナリー「クラウディー ベイ」。その代表銘柄であるソーヴィニヨン・ブランは、ニュージーランドワインを象徴する1本として世界で高く評価されており、日本にも多くのファンが存在する。
ニュージーランドワインを代表する「クラウディー ベイ」のワインメーカー、ダニエルソレル氏をインタビューした。
○ロンドンの金融街からニュージーランドのブドウ畑へ

――さっそくですが、まずは創立40周年を迎えたワイナリー「クラウディー ベイ」について、ダニエルさんからご紹介ください。

ソレル氏: 創業者のデヴィッド・ホーネンは、その生涯でいくつかのワイナリーを起こしていますが、「クラウディー ベイ」は彼の最も誇るべき、代表的な業績だと思います。40年前、ニュージーランドという国はワイン業界ではほとんど存在感がなく、非常に限られたメーカーがあるだけで、ワインを飲む習慣もありませんでした。そんな中でも細々とワイン造りを続けていたニュージーランド人たちが尊敬し、ワイン造りを学んだのがオーストラリア人のデヴィッドでした。

――デヴィッド氏は当時すでにワイン業界で広く知られた存在だったんですね。

ソレル氏: ある時、ニュージーランドのワインメーカーがソーヴィニヨン・ブランのボトルをデヴィッドの元へ持って行ったところ、彼はその出来栄えにとても驚いたそうです。ニュージーランドワインに大きな可能性を感じ、自ら創業した「クラウディー ベイ」のソーヴィニヨン・ブランは、すぐに世界的評判を得てニュージーランドワインに大きな変化をもたらしました。

――ニュージーランド出身のダニエルさんは、2015年から「クラウディー ベイ」でのワイン造りに携わってきたそうですね。

ソレル氏: 大学で会計学を学んだ後、ロンドンの金融業界で9年間働いていた経験もあり、ワインメーカーとしては異色の経歴かもしれません。自分が本当にやりたいことに出会うまで、長い時間を要しました。

――その出会いとは、どういったものだったんでしょうか?

ソレル氏: フランス人の友人がいるんですが、仕事で私がモンペリエに立ち寄った際、父がワインメーカーをしているというその友人の誘いで、ブドウの収穫を3日間だけ手伝ったんです。
とても短い体験でしたが、こんな世界があるのかと思いましたね。ブドウを収穫する人もワインを造る人も、仕事を仕事と思わず、愛と情熱を持ち、生き生きと働く様子を目の当たりにし、自然とこの業界へ引き込まれていきました。

――ある意味、ロンドンの金融街とは真逆の世界かもしれません。

ソレル氏: ロンドンへ戻っても、「土に触れながら自分のワインを造りたい」という欲望は消えず、オーストラリアの大学でワインサイエンスの学士号を取得しました。その後、著名なワインメーカーに師事し、様々なリージョンで15年間ワインを造り続けています。
○些かで幸せな思い出に寄り添うワイン

ソレル氏: 自分のキャリアを振り返ってみても、この10年はとくに充実していました。ワイン造りへの興味と情熱は今も全く衰えていませんし、自分が本当にやりたかったことをできているという感覚が常にあります。

――そんなダニエルさんが好きなワインとは、ズバリどんなワインですか?

ソレル氏: 難しい質問ですが、「これまで私が作ってきたワイン」という答えになると思います。私はワイン造りにおいて、「自分が飲みたいワインを造ればいい」というデヴィッドの言葉を大切な座右の銘にしているので。

それは賞を獲るために特化したワインではなく、言うなれば地元で評判の小さな村のレストランに友人や家族と集まり、おいしい料理と一緒に楽しい時間を過ごすためのワインです。そんなワインが私は好きですし、ワインメーカーとして人生の小さな喜びの瞬間を、ワインを通じて共有するお手伝いをしたいと思っています。

――キャリアの中でこれまで色々なワイン造りに携わってきたと思いますが、ダニエルさんにとって「クラウディー ベイ」というワイナリーは、改めてどんな存在でしょうか?

ソレル氏: やはり、個人的にも特別な思いがあります。
私の実家の食卓には、いつも特別な日には「クラウディー ベイ」のボトルがありました。昔からニュージーランドワイン、新世界ワインというカテゴリの象徴的な存在として、大きなインスピレーションを得てきましたね。

――まさに国民的ワインですね。

ソレル氏: また、私は仕事で色々な国を巡っていますが、どこでも「初めてこのワインを飲んだ時のことをよく覚えている」と声をかけられ、それぞれの思い出を私に語って聞かせてくれます。作り手冥利に尽きるエピソードですが、様々な国の人々がこのボトルに私的な思いを寄せている点も、「クラウディー ベイ」ならではの特徴です。

――日本人もその例外ではないと。

ソレル氏: 和食と我々のワインには共通点があると個人的には思っています。和食は繊細でバランスが良く、盛り付けも美しいシームレスな食事ですが、昨日のランチのお弁当も完璧な構成で感動しました。色々な食材を食べたのに、最後はすっきりとちょうど良くお腹に収まって、その過程で様々な味わいを楽しめました。

――「クラウディー ベイ」のワインにも通ずるものが?

ソレル氏: 人間の仕事は控えめで、見せびらかしたり、やり過ぎたりしない。どちらもショー向けの派手さはないかもしれませんが、人間がやるべき仕事は全てきちんとできている。お刺身がわかりやすい例ですが、私たちのワインも、あらゆる面で完璧なバランスが考えられ、最適な材料が選ばれています。

○日本のワイン文化に感じた深さと市場への期待

ソレル氏: 日本のワイン文化の深さ、ワインへの興味・関心が高さは想像以上のものでした。海外ではどんなワインが造られているのか、どんな変化が起きているのか、ニュージーランドの文化や食生活も含めて強い好奇心を持ち、たくさん質問をしてくれます。非常に良い交流ができていますね。

――近年、ワイン業界では気候変動への対応やAI活用といった話題も盛んなのかなと。

ソレル氏: 若いワインメーカーたちはAIを活用しながら、より良いワイン造りを志向しています。同時に人間の感覚に基づく技やクラフトマンシップは、どんなにAIが進化してもなくならない、普遍的なものです。新技術を活用し、人間の手仕事とクラフトマンシップを守り続ける。そんな新しい世代が生み出す「クラウディー ベイ」のワインを楽しみにしています。

――2025年はニュージーランドのワイン造りにとって、どんな年でしたか?

ソレル氏: 気候変動の影響を感じさせない、非常に例外的な幸運に恵まれた素晴らしい年でした。ワイン造りで最も重要なのが、なるべくブドウの房を枝についた状態で長く生育させて収穫を待ち、ブドウの成熟度を最大限に高める“ハングタイム”ですが、今年はとても理想的でした。

――「クラウディー ベイ ソーヴィニヨン・ブラン」の味づくりには、冷涼な気候と長いハングタイムは欠かせないわけですね。

ソレル氏: 私の10年のキャリアの中で最も出来の良いワインのひとつに2025年産を挙げたいと思います。
一方で常に変化する自然環境に適応していくことこそ、ワイン造りの本質的な美しさだとも言えます。これまで同様、ワインメーカーとして進化を続けながら、より良いワインを造っていきたいです。

――最後に「クラウディー ベイ」の日本のファンへメッセージをお願いします。

ソレル氏: 日本のワイン市場は非常に大きく、「クラウディー ベイ」にとっては、まだまだ成長余地の大きな市場でもあります。より多くの日本の方に我々の最高のワインを味わっていただきたいです。

私は和食が大好きなので、日本の食文化や酒づくりについても深く学んでみたいですね。「クラウディー ベイ ソーヴィニヨン・ブラン」はピュアな果実感や、クリーンでフレッシュな味わいが特徴ですが、日本酒は米を原料にそうした味わいを実現している点が非常に興味深いです。
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