前回はコマーシャルペーパーについて解説いたしました。今回は私募社債の最新状況について情報提供いたします。


私募社債はSiiibo証券株式会社(以下、Siiibo証券)が提供している金融商品です。企業が私募の形態で社債を発行し、社債を購入した投資家は利息収入を得るとともに償還期限が到来したら元本返済を受けます。公募社債よりも小さな金額で資金調達が可能となるためスタートアップ企業の利用が進んでおり、従来の融資に代わるベンチャーデットの手法のひとつとして紹介されることもあります。

本連載でも継続的に取材をさせていただいており、発行条件について2021年の記事では「年限が2年から3年、利率が2%から3%となるケースが多い」、2022年の記事では「年限が2年から4年で3年のケースが多く、利率は6.5%の事例もある」、2024年の記事では「償還日までの期間を3年と設定するケースが最も多く、期間4年の事例もある」とレポートいたしました。

2025年の状況についてSiiibo証券の広報担当者にお話を伺ったところ、「1回の調達金額は数千万円から1億円超のレンジが中心で、金利は平均5%」とのことでした。発行企業にはリーガルテック企業やアグリテック企業など私募社債発行を活用する企業の業種が広がり、年を追うごとにバリエーションが増えている印象を受けます。政策金利や長期金利の上昇が私募社債の金利に影響を与えているか否か質問したところ、今のところ影響は見られないとご回答いただいています。

私募社債を発行して資金を調達した企業は約40社となり、200銘柄超の発行実績があります。累計発行数が10銘柄を超えた企業も出てきました。東京プロマーケット上場企業との相性も良いようです。2025年4月に私募社債の引受業務を開始した後、1億円を目標に調達する企業が増えました。引受を始める前までは、調達金額は新規発行のタイミングで私募に応じる投資家の人数次第で変動し、実際に募集が締め切られるまでいくら集まるか正確には分からない状況でした。
発行される社債の一部をSiiibo証券が引受けることで、発行企業は事前に計画した金額を調達できる見通しが立ちやすくなり、従来は1億円を調達する企業が年に1~2社だったところ、引受業務開始からの8か月間で8社が1億円以上を調達しており、サービス開始の効果が表れています。既に10社を超える企業が引受の仕組みを活用して資金調達を実施しました。

引受業務によるメリットは、発行体である企業だけではなく、私募社債を買う投資家にも購入できる銘柄の選択肢が増えるかたちでもたらされました。複数企業の私募社債をリパッケージして分散投資を可能にした「おまとめ債」が、2025年11月末までに15銘柄発行されています。おまとめ債を販売する前は、私募社債を購入できる機会が個社の社債発行のタイミングに左右されていましたが、企業の社債発行状況によらないおまとめ債の販売によって、購入機会そのものが増えました。2023年12月にローンチした私募社債のセカンダリーマーケットの取組のなかで、Siiibo証券が投資家が売却した私募社債を買い取った既発債と、引き受けた新発債とを組み合わせておまとめ債が組成されています。2025年の私売出しによる既発債の販売とおまとめ債の販売額の合計は、10月末の時点で3.5億円を超えました。セカンダリーマーケットと引受業務が揃ったことで、企業の新規社債発行に依存しない社債取引の市場環境が整備されてきたといえるでしょう。

投資家も2,000人を超え、大きく分けて3つの投資嗜好が存在する裾野の広いプラットフォームを形成しています。自分で個別銘柄を選択してポートフォリオを組みたい方と、1銘柄で分散投資の効果を享受したいおまとめ債を好む方、個別銘柄と銘柄分散の両方を組み合わせたい方です。特に分散投資を望む投資家層は銘柄選びの負担軽減をコンセプトとしたおまとめ債と相性が良く、初めて社債を購入するきっかけにもなっており、私募社債を発行する企業にとっても、調達しやすさにつながる朗報と言えるでしょう。投資家がスムーズに投資を検討できるようにする機能として、個別銘柄かおまとめ債かその両方を組み合わせるか、リスク選好を予め登録できるようにシステムもアップデートされました。


私募社債の最新状況の説明は以上です。次回はRBFの最新状況について情報をまとめます。

千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら
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