高血圧=減塩この常識が覆る! この記事では高血圧治療の名医・渡辺尚彦氏が最新研究でわかった簡単なのにすごい高圧法を紹介した『血圧を下げるのに減塩はいらない!ナトカリ比であなたの血圧は下がる』(渡辺尚彦/アスコム)から一部を抜粋して解説します。

今回のテーマは『死亡リスクも軽減させる「りんご」の驚くべき力』。


○死亡リスクも軽減させる「りんご」の驚くべき力

カリウム豊富な果物を食べるだけで血圧が下がる可能性があるという研究結果は、日本で報告されました。

その代表例が、弘前大学の佐々木直亮教授らによる研究です。

1950年代から1960年代にかけて、日本の東北地方は「脳卒中多発地帯」として知られ、多くの住民が高血圧や脳卒中による死亡リスクにさらされていました。

この地域特有の健康問題に注目した佐々木教授は、地域住民を対象とした大規模な疫学調査を開始します。

すると、非常に興味深い傾向が見えてきました。

東北地方全体で見ると食塩の摂取量は比較的多いにもかかわらず、りんご栽培が盛んな地域では、住民の血圧が低く、脳卒中による死亡率も低いことがわかったのです。

この発見は、単なる偶然ではないかという疑問を呼びました。

そこで佐々木教授は、「りんごに多く含まれるカリウムが、ナトリウムの過剰摂取による血圧上昇をやわらげているのではないか」という仮説を立てたのです。

この仮説を検証するため、研究チームはさらに詳細な調査を行いました。

りんごを日常的に食べる習慣がある人と、ほとんど食べない人の血圧を比較したところ、りんごを食べる習慣がある人の血圧はあきらかに低く、尿中のナトリウムとカリウムの比率(ナトカリ比)も低いことが確認されたのです。

ナトカリ比の低下は、体内のナトリウム過剰をカリウムが緩和していることを示す指標であり、血圧コントロールにおけるカリウムの重要性を裏付けるものでした。

さらに、研究は実験段階へと進みます。


秋田県内の農村地域で「りんごを1か月間、毎日食べ続ける」という介入実験を実施したところ、被験者の尿中ナトカリ比は低下し、同時に血圧も有意に下がることがあきらかになったのです。

これは、日常の食生活にカリウムを多く含む果物を取り入れるだけでも、血圧改善に効果がある可能性を示す貴重な証拠となりました。

この研究が示す意義は非常に大きいといえます。

高血圧や脳卒中といった生活習慣病の予防には、減塩だけでなく、カリウム摂取を増やすことが重要であることを示唆していたからです。

「りんご1日1個で医者いらず」という格言があります。

これはイギリス由来のことわざで、英語では「An apple a day keeps the doctor away」というのですが、この研究結果はそれを証明したかたちになります。

医者の私がいうのもなんですが、ほかにも「野菜を食べれば医者いらず」「医者に金を払うより、畑に種をまけ」という格言もあるといいます。

昔の人はカリウムが発見される前から、その効果を実体験として知っていたのでしょう。

海外に目を向けると、複数の疫学研究で、地中海地域の人々の血圧が低いことが確認されており、これも食生活に起因していると考えられています。

同時期に、アメリカの生理学者のアンセル・キーズは、アメリカ人の心筋梗塞発症率が高いのに対して、ギリシャやイタリアの一部地域では心疾患が少ないことに着目しました。そこで、オリーブオイル中心で、野菜や果物を豊富に食べていることに気づきます。

この研究を契機に、カリウムが豊富な地中海食に注目が集まり始めました。
有名な「地中海式ダイエット」の誕生です。

ほかにも、カリウムが豊富に含まれた食べ物を食べると血圧が下がった、高血圧リスクを軽減できたという研究結果はたくさんあります。

血圧を下げる方法は「減塩」だけではない。

ナトリウムとカリウムのバランス、ナトカリ比を整えることが重要なのです。

○『血圧を下げるのに減塩はいらない!ナトカリ比であなたの血圧は下がる』(渡辺尚彦/アスコム)

減塩だけが血圧を下げる方法ではない――。私が約40年にわたる高血圧の診療の現場と研究生活で
つねづね感じてきたことです。実は、ふだん私たちが食べている物のなかに、食べるだけで血圧を下げてくれる食材がたくさんあります。それを医学的に正しく説明したのが本書の「ナトカリ比」です。最新の研究で解説するだけではなく、どういう食べ方をすればいいのか、何を食べればいいのかまで詳しく紹介しています。減塩は大切とわかっていながら、「外食中心なので無理」、「そもそも味が薄くてつらい」と断念した人、ぜひ、希望をもって本書を読み進めてみてください。
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