NTT東日本 宮城事業部は、同社が運営する地域共創拠点「スマートイノベーションラボ仙台」をベースに、地域の人材育成加速を目的とした大学生向け事業構想プログラム「せんだい共創ラボ2025」を2025年9月よりスタート、その成果発表会が12月6日に開催された。本稿では、同プログラムについてお届けする。


「スマートイノベーションラボ 仙台」とは

NTT東日本が運営する地域共創拠点「スマートイノベーションラボ 仙台」は、自治体、大学、企業などと連携し、仙台・宮城および東北からのスタートアップ創出、ならびに成長に向けたサポート、地域の人材育成、地域経済の活性化に取り組んでいる。

「スマートイノベーションラボ 仙台」が所在する「アーバンネット仙台中央ビル」は、仙台市が進める、都市機能の向上を図る「せんだい都心再構築プロジェクト」第1号案件として認定され、NTT都市開発が建設したもの。低層階(1~4階)は「YUI NOS」として地域共創機能を有し、多様な人や想いが集まり、イノベーションが創出される場を目指している。

その一機能として展開されている「スマートイノベーションラボ 仙台」では、AIを活用した実証環境と地域共創に向けたルームなどの環境を備え、社会実装の加速を支援。連携パートナーとの各種イベントやセミナーの開催、スタートアップ企業とのビジネス創出に向けた実証実験、小・中学生向けプログラミング講座など、さまざまな取り組みが行われている。
仙台および東北の次世代を担う大学生を支援する「せんだい共創ラボ」

そんな「スマートイノベーションラボ 仙台」発の事業創出プログラムとして開催された「せんだい共創ラボ」は、地域の人材育成を目的として、ワークショップやメンタリングなどを通して、仙台および東北の次世代を担う大学生の新規事業に必要なスキルや実践的な知識習得を支援するプログラムとなっている。

昨年度からスタートした「せんだい共創ラボ」だが、「昨年度とは講義の内容が大きく変わっています」と話す、NTT東日本 宮城事業部 ビジネスイノベーション部 スマートイノベーションラボ 仙台の佐藤裕子氏。「事業計画の立て方、マーケティングや資金調達など、より起業に近づくような講義内容」へとレベルアップが図られており、「より実践的な内容」となっている点が大きな違いとなっている。

さらに今回は、東京都調布市にある「NTTe-City Labo」の見学会が実施されたのも大きな特徴となっている。「NTTe-City Labo」は、地域循環型社会の実現に向けた実証フィールドで、NTT東日本グループが地域の課題解決に向けて取り組んでいるソリューションを体感できる施設。

佐藤氏は、「学生の方には、NTT東日本がどのような事業を展開しているのかがなかなかわかりにくいところもありますので、最新技術を見ていただき、それが世の中でどのように貢献できているのかを知っていただくことで、新たな学びを得てほしい」と、見学会実施に込められた思いを語る。IOWNやローカル5G、ドローンなどの最新技術を目の当たりにすることは、参加した学生たちにも大きな刺激となったようで、事後のアンケートでもかなり好評だったという。

ワークショップ、講義、メンタリングの3ステップで展開

「せんだい共創ラボ」は、“「やってみたい」を形にする4カ月”として、「テーマを決めるワークショップ」「起業のリアルを学ぶ講義」「個別・グループメンタリング」といった3つのステップで展開。参加者それぞれがテーマを決め、講義を通して実践的なスキルを学び、メンタリングを通して、テーマのブラッシュアップが行われた。各講義のセッティングやメンタリングなどプログラム全体のデザインは、Xenkai 代表取締役社長の渡邉隆氏が担当した。

福島県を拠点にAIを軸としたさまざまな研修事業を行う渡邉氏だが、「せんだい共創ラボのプログラムを構築する際、最初に考えたことは「参加する学生さんが、最後までやり切ること」と語る。アイデアを形にすることをゴールに設定し、そこから逆算して講義の内容を決定していったという。渡邉氏は今年からの参加だが、どういうプロセスで進めれば、みんなが最後までやり切ることができるかということを重視しました」と振り返る。

今回の参加者について、「一言で言えば、前向きで挑戦する意欲の高い学生さんばかりだった」と渡邉氏。4カ月という期間でアイデアを形にすることについて、「正直、非常に短いと思います」としつつも、「いろいろな課題を与えていく中で、自分たちのアイデアをどのように形にするか、どのような新たな価値を作っていくかということを、本当にもがきながらも、必死に食らいついてくる姿を見ていると、非常に高いポテンシャルを感じる」と高い評価を与える。

「せんだい共創ラボ2025」がスタートした段階で、すでにアイデアがあり、実現に向けて実際に動き始めている人もいれば、起業などの意欲はあるものの、具体的なアイデアなどは特にないという人もおり、参加者の中にも明確な差が見られたが、「その差は特に意識せずに進めた」と話す渡邉氏。「どのレベルを基準にするかという問題については、先に進んでいる人も、あらためて初心に帰って、自分のアイデアを見直してもらう」など、ベースはできるだけ低めに設定し、個別メンタリングを重ねることで、個人間のギャップを調整。「最大で7回のメンタリングを行った参加者もいました」と笑顔を見せる。

そして、“こういうことをやりたい”“こういう風になったらいい”といった、いわゆる“Will”はしっかりと持っていたが、「それをどうやってアイデアにして、どのような事業や計画に落とし込むか。
そこがわからないという人が多かった」と、渡邉氏は指摘。「今回は、起業ができるレベルまで学べるようなプログラムを組んだので、参加者の皆さんも、自分の考えたアイデアを形にしていく方法は、ある程度イメージできるようになったのではないか」との見解を示した。
アウトプットを大事にした、実践型の講義を提供

一方、「今回は、アウトプットを大事にした講義、実践型の講義を目指した」というNTT東日本 宮城事業部 ビジネスイノベーション部 スマートイノベーションラボ 仙台 担当課長の高橋由佳氏。例えば、資金調達の講座では、自分のアイデアでクラウドファンディングを実施する場合、どのようなプランにするのが良いかなど、すべての講座にアウトプットを設けることによって、学生が自分たちの思いを外に出すことができたのではないかとして、「そういった機会を提供することができたことが非常に良かった」と、同氏は「せんだい共創ラボ」について語る。

そして、全プログラム終了後に、あらためて参加者の声を聞くことにより、「もちろん良かったことだけではなく、反省点もたくさん出てくると思いますが、長期的に学生の皆さんを支援していく会社として、それらの課題をどのようにブラッシュアップしていくかを考えることが重要」と高橋氏は話す。

佐藤氏も「今回、参加していただいた方を見ていると、皆さん、何か新しいことにチャレンジしてみたいという思いに加えて、社会課題を解決していきたいという思いを感じた」と述べ、「仙台、そして東北の次世代を担っていく皆さんが、そういった考えを持って参加してくださっていることが頼もしく、それらのアイデアを具現化していく人材としてしっかりと育ってほしい」と、高い期待を込める。
一度限りの縁ではない、継続的な支援を

「せんだい共創ラボ」は、人材育成を目的として開催されているが、主催するNTT東日本にとっては「ビジネスパートナーの発掘」も大きな目的となっている。「スマートイノベーションラボ 仙台」では、「せんだい共創ラボ」以外にも、小・中学生向けのプログラミング講座なども行われているが、それらもすべて「将来的には、我々のビジネスパートナーになっていただけることを期待しています」と、高橋氏はその狙いを明かす。

そして佐藤氏も「『せんだい共創ラボ』では、今回の発表会が終わったらその関係性も終わりと考えていない」と続ける。成果発表会は、「せんだい共創ラボ2025」におけるひとつの集大成となるイベントだが、後日あらためて渡邉氏とのメンタリングが行われる機会も用意されている。「決して今日が終わりではなく、ある意味では今日が出発点。参加していただいた学生の方には、今後も引き続き関わりを持っていきたい」と力を込める。


今年の「せんだい共創ラボ」に、昨年度の参加者がオブザーバーとして参加している点も注目すべきポイント。昨年度とはプログラムの内容が少し異なっているため、昨年の参加者も希望すれば講義にも参加できるだけでなく、渡邉氏のメンタリングを受けられたという。次年度以降の開催については、前向きに検討しているという段階だが、「一度受けたら終わりみたいなことにはしたくない」とあらためて言及する佐藤氏は、この継続的な支援が最終的に、ビジネスパートナーの発掘や自治体と連携した共創につながっていくことに大きな期待を寄せる。

一方、「『せんだい共創ラボ』が今後、大学生の挑戦の場として確立され、認知されることに期待したい」という渡邉氏。その上で、「ネットワーク化して、コミュニティ的につながっていく場になればすごく良い取り組みになる」と、さらなる展開を期待する。また、参加した学生に対しても、「4カ月間走りきって考えたアイデアやテーマを、しっかりと形にして、人生におけるひとつのきっかけにしてほしい」とのメッセージを贈る。

そして、「『せんだい共創ラボ』の主役は、参加してくださる学生の方々。せっかく参加していただいたからには、ほんの少しでも、人生に何か影響を与えるものになったのであれば、本当にうれしい」と、あらためて4カ月間を振り返る高橋氏。さらに、「NTT東日本としては、もちろん将来的にビジネスパートナーになってほしいという思いはありますが、たとえそうならなくても、自分で生み出す力など、ここで学んだことを少しでも思い出していただく機会があれば本当にありがたい」と言葉を続ける。

さらに、「参加者の満足度向上に加え、仙台という土地における経済成長を目指す動きもしっかりと注視し、東北で活躍できる人材を育成する、その一助になれるように、今後も活動を続けていきたい」と、高橋氏は意気込みを新たにした。
「せんだい共創ラボ」を後援する仙台市とNTT東日本の協力体制

「せんだい共創ラボ2025」は、2025年9月5日にキックオフ。テーマを決めるワークショップに始まり、「NTTe-City Labo」の見学、事業計画や資金調達、プレゼンといった起業のリアルを学ぶさまざまな講義、そして最大7回に及ぶ渡邉氏とのメンタリングを経て、2025年12月6日に、参加した学生たちの考えたアイデアをどのように具現化していくかを発信する「成果発表会」が開催された。


今後、さらなるメンタリングも予定されてはいるものの、「成果発表会」は「せんだい共創ラボ」における一つのゴールであり、集大成。学生たちは7分間の発表時間を使い、これまでに学んだ知識を生かして自らのアイデアを発表。趣向を凝らしたプレゼンが繰り広げられた。

「成果発表会」では、審査員の一人として、「せんだい共創ラボ」を後援する仙台市から、経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援課 主幹の今野早苗氏が参加。仙台市では、スタートアップを経済成長エンジンと位置づけ、さまざまな取り組みを進めているが、その一環として、小学生から大学生・若者までを対象にしたアントレプレナーシップ教育事業を展開し、次世代のイノベーション人材を育成することで、持続可能なエコシステムの構築を目指している。

「『起業家精神』や『アントレプレナーシップ』という言葉がありますが、新しいことを立ち上げる力や、他者と協力して目標を実現する力は、起業家だけでなく、これからの時代を生きるすべての人にとって重要なスキル」と話す今野氏。未来を担う若者にとって、「人口減少が進む東北の現状に風穴を開け、従来の制度や仕組みにとらわれない、自由で創造的な発想と行動力がますます求められている」と同氏は指摘した。

そのためには、自治体だけでなく、企業や大学、教育機関など、地域に関わる多様なプレイヤーを巻き込み、「若者を育てる環境をいかに創り上げるかが鍵」になるという考えが、「せんだい共創ラボ」を後援する背景となっている。特に、NTT東日本のネットワークやノウハウを生かして若者のアイデアを形にするという特色をもったプログラムである点を今野氏は高く評価する。

「せんだい共創ラボ」の「成果発表会」では、学生たちのプレゼンを審査するにあたり、「想いと独自性」「実現への覚悟」「社会への広がり」「伝える力」といった4つの審査基準が設けられている。

中でも「社会への広がり」を特に重視したいという今野氏は、「社会課題を自分ごととして捉え、解決に向けて仲間を巻き込み、共に挑戦する」ことに価値を見出し、「その力が地域や社会に広がり、未来を動かす原動力になる」ことを切望。そして「社会への広がり」は、今この瞬間から意識できることであり、「これからも常に持ち続けてほしい視点」であり、「自分のアイデアを自分の中だけで完結して満足してほしくない」との思いを明かす。


さらに、今野氏は「地域の企業や大学、研究機関、支援者の方々、そして首都圏で活躍されている皆さんと一緒に、新しいチャレンジを生み出す動きがどんどん広がってきている」という仙台市の現状を示し、その代表的な取り組みとして、2023年にNTT東日本と東北大学、仙台市等の6者で締結した「SENDAI STARTUP CAMPUS」形成に関する協定を挙げた。

「せんだい共創ラボ」のベースとなった「スマートイノベーションラボ仙台」と仙台市スタートアップ支援拠点「仙台スタートアップスタジオ」が同じ「アーバンネット仙台中央ビル」にあることから、さまざまな事業で連携が進められているという。

今年8月に仙台で初めて開催されたグローバルスタートアップイベント「DATERISE!」では、NTT東日本がプラチナスポンサーとして協賛。また、高校生向けのIT・AI活用プログラム「せんだいAI部」ではNTT東日本の社員がメンターとして参加するなど、両者の連携、そして協力関係が幅広く、より深く、より強く結びつくことで、それぞれの強みが生かされ、「地域に新しいイノベーションが生まれるという流れがさらに加速している」(今野氏)という。
地方ならではのエコシステム実現を

今野氏は「せんだい共創ラボ」についても、「NTTe-City Laboの見学などは、仙台市の事業としてはなかなか実現できないこと」と高く評価。今後もNTT東日本と協力しながら、「社会課題の解決につながる新しい価値を次々と創出し、地域から未来を切り拓く環境をつくっていきたい」との展望を明かした。

続けて今野氏は、「人材育成」についても言及。「次世代を担う若い世代が『地域で挑戦することに価値を感じられる環境』を整えることは不可欠」であり、高校生や大学生が企業や行政と一緒に課題解決に取り組む機会をさらに広げていくことが、「地域への愛着を育み、地域に根ざした人材の育成につながる」として、さらなる意欲を示す。

「イノベーション創出」について、今野氏は「スタートアップだけでなく、企業や大学、支援者など多様なプレイヤーが強みを持ち寄り、社会課題の解決に向けた共創を加速させることが重要」との考えを示した。例えば、今年、政府が進める第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市において、仙台市を含む東北地域が「グローバル拠点都市」に選定されたことを受け、東北の産学官金のさまざまな団体で構成される「仙台・東北スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」が設立され、「連携の基盤は着実に整いつつある」と、今後の進展に大きな期待を寄せる。

そして、仙台・東北から生まれたイノベーションが社会全体にポジティブなインパクトを与える未来を目指すためには、「挑戦を後押しするコミュニティづくりが不可欠」であり、地域の多様なプレイヤーを巻き込みながら、「挑戦する人を応援するエコシステム」を育てることが重要だという。今野氏は「たとえ失敗しても温かく受け入れ、その挑戦を称え、次の挑戦へとつなげる。
そのような地方ならではのエコシステムを実現していきたい」と、今後の展望を語っていた。
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