株式投資の選択肢としてよく耳にする「信用取引」。しかし、仕組みやリスクがわからず手を出せていない投資家の方も多いのではないでしょうか。


そこで本稿では、SBIネオトレード証券のリテール事業部次長・山羽氏と同カスタマーサポート課・山下氏に、信用取引の基本や現物取引との違い、初心者が知っておきたいポイントをうかがいました。

信用取引は「レバレッジ」がかけられ「空売り」もできる

━━まずは初心者の方に、信用取引とは何かご説明いただきたいです。「レバレッジ」や「現物取引との違い」も教えてください。

山下氏: 信用取引とは、証券会社からお金や株券を借り、手持ちの資金以上の取引ができる仕組みです。この手持ち資金以上の取引ができることを、レバレッジ取引(「てこの原理」の意)といいます。

信用取引では、証券会社に現金や株式等を「担保」として預けることで、担保評価額の最大約3.3倍まで取引ができます。たとえば、100万円を預けた場合は、最大約300万円まで取引ができます。

これに対して現物取引は、あらかじめ入金した現金の範囲内で株式を購入する仕組みです。たとえば100万円を入金した場合、その金額を上限として株を買い付けることになります。

━━信用取引と現物取引の違いは他にもありますか。

山下氏: 現物取引では株主優待が受けられたり、配当金がもらえたりする銘柄もあります。しかし、信用取引では株券の名義は投資資金を貸す証券会社になりますので、投資家は株主優待や配当金を受け取ることはできません。


また、現物取引は、上場廃止などの特別な事情がない限り、株式を期限なく保有できます。これに対し、信用取引には保有期間の制限があります。制度信用と一般信用の2種類があり、制度信用では最長でも6ヶ月までしか株式や資金を保有できません。一般信用は証券会社によってルールが異なりますが、原則無期限で保有できることが多いものの、株主を確定する必要がある株式分割等が発生した場合は、返済期限を設定される場合があります。

一方で、信用取引の大きな特徴として、「空売り」ができる点が挙げられます。現物取引は「買ってから売る」のが基本で、株価の上昇局面で利益を狙いますが、信用取引では「売ってから買い戻す」取引が可能なため、株価が下落する局面でも利益を狙うことができます。

━━信用取引では「買い建て」や「売り建て」という言葉を耳にしますが、両者の違いについて教えてください。

山羽氏: 買い建ての場合、証券会社から資金を借りて株を買います。一方の売り建ては、証券会社から株券を借りてそれを先に売り、後から買い戻します(空売り)。単純に説明をすると、値上がりしそうなら買い建て、値下がりしそうなら売り建てをご利用いただくことになります。

ただ、売り建てができない銘柄もあります。たとえば、上場して間もない企業の銘柄や、直近の状況で売りがかなり先行していて、取引所から注意喚起が出ている場合などです。


なお、取引手数料以外に買い建ての場合は「買方金利」、売り建ての場合は「貸株料」というコストが発生します。ちなみに、SBIネオトレード証券では信用取引の取引手数料は無料ですので、「買方金利」「貸株料」が主な取引コストになりますが、こちらの金利・貸株料もネット専業証券でもかなり低い水準にしております。
信用取引では余裕を持ったリスク管理も重要

━━信用取引では担保として「保証金」を差し入れる必要がありますが、この保証金や「委託保証金率」はどのような考え方に基づいているのでしょうか。

山羽氏: 保証金は、取引で損失が生じた場合でも、その分を支払えるようにするためのものです。損失はお客様が負担しますが、保証金率が低すぎると、損失額が預けている資金を上回ることもあります。それを担保するため、新規取引時の保証金率(委託保証金率)は、約定代金の30%が最低基準として設定されています。

お客様が預けている保証金に対し、どれだけの金額を使って株を買い付けているかによって、保証金率は変動します。たとえば、保証金が30万円で100万円まで買い付けられる場合でも、50万円分の取引にとどめれば、保証金率は50%ですので、最低基準に比べて保証金率は高く保たれます。

一方、買い付け金額を増やしすぎると、保証金率は低下します。保証金に対して使用額が大きくなるほど、大きく損失が出た際に回収できる金額も減ってしまいます。こうしたリスクを避けるためにも、ある程度の保証金率を維持することが重要です。

なお、保証金率が20%を下回ると、追加の保証金を求められる「追証(おいしょう)」が発生します。
限度いっぱいまで取り引きすると追証が出やすくなるため、たとえ100万円まで買い付けられる場合でも、あえて50万円程度に抑えるなど、余裕を持ったリスク管理が求められます。何%程度であれば安全といった数値はありませんので、信用取引での保証金増減についての感覚を養えるまでは、レバレッジを極力抑えて取引をお試しいただくことをお勧めいたします。

━━先ほど、レバレッジをかけると手持ち資金の約3.3倍まで取引ができると教えていただきました。それによって具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

山羽氏: レバレッジがかけられることで、自己資金が限られていてもより高額な銘柄に投資できるチャンスが広がります。たとえば現物取引では300万円必要な銘柄でも、信用取引であれば100万円程度の資金があれば売買できます。

また、信用取引をされている方でも意外にご存じない方が多いのですが、保証金には現金だけでなく、保有している株式や投資信託を充当する代用有価証券という仕組みがあります。株式や投資信託は評価額の80%を保証金として使えるため、100万円分の現物株を保有していれば、そのうち80万円を元に、最大で約240万円分の取引ができます。

たとえば、最近人気のS&P500やオルカン(オール・カントリー)といった投資信託も保証金の対象です。ですので、長期保有している投信を担保に、「気になる銘柄を信用取引で売買する」といった活用方法もあります。株式や投資信託は証券会社間で移動することもできます(一部取り扱いができない銘柄等もございます)ので、塩漬けになっている株式を有効活用するため、信用取引のコストが低い証券会社に株式を移管して現金の代わりとして利用することも可能です。
信用取引を利用することで取引の幅が広がる

━━返済期限のルールで気を付けるべき点を教えてください。


山羽氏: 「制度信用」は最長6ヶ月が期限ですが、「一般信用」は会社ごとに異なり、当社では無期限となっています。

ただし、決算や、株式分割のような「コーポレートアクション」と呼ばれるイベントがあると、返済期限が設定されるケースがあります。その場合、無期限とされていてもその日までに決済しなければいけません。

たとえば、株式分割が行われて1株が「1.2株」になると、売買単位に満たない端数の株が発生することがあります。こうした端数株は、信用取引で扱えないため、証券会社から「もう決済してください」と案内されるケースがあります。

決済期日の前営業日までに決済していない場合は、利益や損失の有無にかかわらず、決済期日に強制的に決済されます。信用取引では、借りていたお金や株券を返すために「返済注文」を出し、その差額で損益を確定させますが、損失が出ている場合でも例外なく決済が行われます。

ちなみに現在は、インターネットで予約注文ができるため、仕事から帰宅後に注文を入れておけば、日中に取引を確認する必要はありません。ツールを活用しながら、信用取引に取り組む会社員も以前より増えている印象です。

━━一般的に、信用取引はどのような目的で利用されているのでしょうか。

山下氏: やはり「資金を効率よく回したい」という目的で利用される方が多いように思います。一方で、利益を出したいという考えはあるものの、「信用取引」という言葉に対して怖い・難しそうと感じる方も少なくありません。


ただ、お問い合わせをいただければ丁寧に解説できますし、今後はより多くの方の目に触れる形で情報発信もしていきたいと考えています。

山羽氏: 信用取引を利用する方には、「投資で利益を得られるチャンスを増やしたい」と考える人が多いようです。中でも、「売り」から取引ができる点は大きな魅力といえます。

現物取引の場合、下落相場では、株を保有し続けるしかありません。しかし、信用取引であれば、価格が下がっている銘柄や今後下落が予想される銘柄を売ることで、値下がり局面でも利益を狙うことができます。

相場全体が悪化して、保有株が下落するといった局面では、現物株では売却をしてまた買いなおすといった方法が考えられます。

しかし、株主優待等では長期保有で優待内容がアップするといった制度を設けている銘柄も少なく、買い戻すまでの期間に権利確定が設定された場合は、長期保有の権利が無くなってしまいます。

そこで、下落の損失を空売りを行うことで、現物株による損失を信用取引の空売りでの収益で相殺するカバー取引といった手法でご利用されることもあります。

━━ということは、レバレッジをかけずに取り引きしている方も多いのでしょうか。

山羽氏: はい、レバレッジをかけずに、「売り」だけで信用取引を利用される方も少なくありません。

また、信用取引にはもう一つの特徴があります。それは、同じ資金で1日に何度も同じ銘柄を売買できる点です。
現物取引では、いったん売却した銘柄を同じ日に買い戻すことはできません。そのため、1日に何度も取り引きすることは難しくなります。

一方、信用取引であれば、買って売るといった取引を繰り返すことが可能です。たとえば、日中の値動きが大きい銘柄を何度も売買したい場合、信用取引を使うことで取引の幅が広がるといえるでしょう。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら
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