前回は私募社債の最新状況について解説いたしました。今回はレベニュー・ベースド・ファイナンス(レベニュー・ベースド・ファイナンシング/Revenue Based Financingと呼ぶケースもあります。
以下、RBF)の最新状況についてレポートします。

RBFは2020年4月1日に施行された改正民法において、債権法のルールが変更されたことを契機に発展した新しいタイプの資金繰り手法です。RBFのサービス提供事業者は企業の財務情報をもとに将来の売上高を推計し、債権譲渡の形態で資金を融通します。資金供給を受けた企業は、定められたスケジュールに則り事業活動を通じてRBFのサービス提供事業者へ手数料とともに支払いをしていきます。依拠する民法の条文(将来債権の譲渡性)については過去の記事で紹介しているので併せてご覧ください。

RBFはサービス提供事業者ごとに特徴があり、資金使途の制限の有無・支払期間の長短・得意とする業界と金額帯等がそれぞれ異なります。共通点は、金融機関の融資と比較して審査のリードタイムが短く設定されていることです。審査基準が融資と異なるため業績が赤字でもサービス利用できるケースがあり、スタートアップ企業との相性が良いと言われています。2025年1月1日にYoii RBFファンド1号投資事業有限責任組合を設立して地域金融機関とともにリスクマネーを供給している株式会社Yoiiにお話を伺いました。

現在の利用企業はシード期からシリーズBのスタートアップが多く、中小企業も着実に増加中です。毎月安定した売上があり、成長投資のタイミングを迎えている企業からの問い合わせが増えているそうです。利用企業が特に多い業界は、SaaS・D2C/EC・サブスクリプションモデル・飲食店・AI関連(製品開発やコンサルティング)とのことです。
事業の立ち上げフェーズの企業では、運転資金や次回の資金調達までの繋ぎ資金として活用するケースが多いです。事業が軌道に乗り安定的な成長をしているフェーズの企業では、RBF以外の調達手段(銀行融資やVCからの出資)も併用しつつ、スピーディーに大きい金額を調達できるRBFの特性を活かして、売上を伸ばすための成長投資に活用するケースが増えています。

具体的には、SaaS企業には「プロダクト開発は一段落したが、営業人材の採用費が必要」「次の調達ラウンド(例:シリーズA)までの6~9カ月を乗り切りたい」といった資金ニーズがあり、数千万円・6~12カ月の条件でRBFを利用するケースが典型的です。D2C/EC企業は「年末商戦に向けて在庫を仕入れたいが手元資金が不足している」「広告出稿を増やして売上を一気に伸ばしたい」といった状況下で、数百万円~数千万円・3~6カ月の短期でRBFを利用し、広告費やマーケティング投資の資金として使う場面が非常に多いです。

サブスクリプションモデルの企業は「新規顧客獲得のためのマーケティング予算を一気に倍増させたい」「既存サービスの機能拡張に投資して解約率を下げたい」といった目的を達成するために、数千万円~1億円・1~12カ月の条件で利用することがあります。AI関連では「新しいプロダクトのローンチに向けて開発リソースを確保したい」「規制対応のためのシステム改修費用が必要」といった場面で、柔軟に資金を調達できるRBFを選ぶケースがあります。

事業フェーズや業界によって資金使途・調達金額・期間は様々ですが、「株式を希薄化させずに、スピーディーに成長資金を確保したい」という意図は共通しています。エクイティ・デット・RBFを状況に応じて使い分けることで、成長スピードを落とさず、かつ希薄化を最小限に抑える戦略的な資金調達を実現している企業も登場しています。

取材を通じて筆者が想起した利用シーンとして、運転資金のうち通年で必要となるベース部分の金額については融資で賄いつつ、季節変動や突発的な受注に対応する部分については機動的なRBFを活用する考え方があり得ます。季節変動に対応する運転資金を当座貸越枠で準備する方法も考えられますが、プロパー融資よりも審査が厳しいケースが大半ですので、信用力が低い事業フェーズにおいて現実解ではありません。商機を逃さないという観点で、申し込みから着金までのリードタイムが短いRBFも選択肢に入れておくとよいでしょう。

RBFの最新状況の説明は以上です。
次回は「2025年版財務担当者へお薦めする参考文献」と題して筆者が今年に読んだ資料を紹介し、今シーズンの連載を締めくくります。

千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら
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